24時間・365日にわたって災害や通信障害情報を届ける一方で、携帯電話の新機種発表に合わせ、Webサイトを大胆に刷新する通信キャリアの公式ホームページ。時間と闘いながら膨大な作業をこなすその運営を行っているのは、意外にもわずかな担当者だ。今年20周年を迎えたNTTドコモ コーポレートサイトの裏側を、3回にわたってレポートする。

多彩な役割を持ち、24時間対応も迫られるNTTドコモ公式サイト

NTTドコモをはじめとした携帯キャリアのコーポレートサイトには、さまざまな役割がある。新製品を紹介するカタログとしての機能や料金プランといったサービス情報の掲載はもちろん、会社組織としてIR情報の発信、さらにはオウンドメディアとしての重要性も増している。そして近年、特に活発になっているのが緊急情報の提供機能だ。

6月19日 台風4号の上陸に際して災害時のサービスアナウンスが掲載された

悪天候や機器トラブルに起因する通信障害の情報は、即座にサイトに掲載される。また東日本大震災では、通信障害情報だけでなく、携帯電話の充電が可能なスポットの告知も行われた。もちろん、災害用伝言板サービスが開始されれば、その利用方法も告知する。

こうした緊急対応は24時間、いつでもすぐに行われる。一般的に企業サイトは通常の営業時間内のみ対応というものが多い中、キャリアサイトはどのように運営されているのだろうか。NTTドコモ、その巨大サイト運営の裏側を、同社マーケティング部 山川 聡氏と藤原 直人氏に取材した。

新製品発表日にアクセスが一気に跳ね上がる

NTTドコモ マーケティング部
WEB担当課長 山川 聡氏
WEB担当主査 藤原 直人氏
(2012年6月時点)

NTTドコモのコーポレートサイトは、アクセス数でみると企業サイトとしては非常に大規模なサイトといえる。新製品のカタログ機能やIR情報なども掲載しており、基本的にNTTドコモに関する情報が、すべて掲載されているという形となっている。

最もアクセス数が増えるのは、夏と冬の新製品発表の当日だという。今年の5月にも19機種が発表されたが、「最近では新製品発表会がひとつのイベントになっており、発表直後から大量のアクセスがあります。直近の2012年夏モデル発表日やその前の2011年冬モデル発表日には、1日で通常の約6倍から7倍ほどのアクセスがありました」と語るのは、NTTドコモ マーケティング部 WEB担当主査である藤原直人氏だ。

普段から大量にアクセスされるNTTドコモのサイトは、製品発表という最も注目されるタイミングでは6倍前後にまでアクセスが跳ね上がる。平常時からアクセスの約半分は製品情報を閲覧するユーザーというだけに、製品への注目度はかなり高い。このトラフィックを捌くために、スポットでのサーバ増強なども行うという。

NTTドコモ コーポレートサイトイメージ

「Yahoo! Japanのトップページにニュースが掲載されたり、通信障害が発生した時など、きっかけがあればすぐ数倍にアクセス数が跳ね上がります。これに対応できるよう、平時から通常の3~5倍程度のアクセスに耐えられるよう余裕は持たせてあるのですが、新製品発表当日の大規模なアクセスには、サーバーがひっ迫してしまっている」とマーケティング部 WEB担当課長である山川聡氏も語る。

とはいえ、全体的なアクセス数自体は、すでに右肩上がりという状況にはないという。携帯電話向けのサイトとPC向けのサイトのバランスが当初は1 : 5程度のアクセス比率だったものが、徐々に携帯電話側が伸びてきていたところにスマートフォンが登場。現在はスマートフォンによるPC向けサイトの閲覧が伸びていることから、携帯電話向けサイトよりもPC向けサイトの閲覧数が伸びている状態だ。

15年間 同じ体制で作り込んできた統一感

一般的にコーポレートサイトの担当は広報部門であることが多いのに対して、NTTドコモではマーケティング部が担当している。従来はNTTドコモでも広報部が担当していたが、2008年の組織改編をきっかけにマーケティング部へと担当が移管された。

「担当部署が変わったといっても、担当者は変わっていません。サイトをマーケティングにも活用するという考えを持つべきではないかということで、組織改編時に部署が丸ごと広報部からマーケティング部に異動したのです。だから、当時の感覚としては肩書きが変わるだけで何も変わらないと思っていました」と山川氏。

組織改編にあたっても部署ごとの異動となったのは、NTTドコモがコーポレートサイトに対して統一感を持たせることを意識しているからとも思われる。NTTドコモで、現在のサイトにつながるコーポレートサイトが立ち上がったのは、約15年前だという。それ以前にも個別のサービスサイトなどは存在したものの、コーポレートサイトとしてはっきりと立ち上げられたのがこの頃だ。

NTTドコモ コーポレートサイトの変遷

そして、一時期はいわゆる"Flashをばりばり使った"サイトデザインの時期がありつつも、2003年にサイトの骨格が決まってからはUIやデザインイメージなど統一感を持って運営されている。この頃から基本的に制作体制は変化していないという。2008年にドコモブランドの変更が行われ際に、あわせてサイトイメージカラーも変更されたが、ベースデザインは引き継がれている。

「私自身も5年以上担当していますが、15年間は外部の協力会社も変わっていません。同じチームで長く対応しているので、全体的に統一感のある見やすいサイトにできていると思います」と山川氏は語る。

新機種発表に対応するための体制づくり

NTTドコモの場合は、オンラインショップや法人向けサイトは各事業部門といったように、携帯電話のiメニューやスマートフォンのdメニューに関しても各担当部門が存在している。マーケティング部が担当するのは「nttdocomo.co.jp」のドメインを持つコーポレートサイトが中心となるが、それでも業務量はかなり多い。特に負担が大きいのは、冒頭にも挙げた新機種情報の公開だ。

新機種情報ページの一例

「端末の確定情報は、我々の元にも発表の直前にならなければ届きません。ほとんどできあがっているように見えるのですが、正式な最終決定が出るまでは細かい部分に変化が出る可能性がありますから、あるものでとりあえず作業を進めてしまおう、というわけにはいかないのです」と藤原氏は語る。

サイトに掲載する新機種情報は、スペック情報だけではなく、いかに端末を魅力的に見せるかということにも気をつかっているという。たとえば3Dによる端末紹介なども実装しているが、このような事情からなかなか全端末に適用するのは難しいようだ。

「社内にいるメンバーは総勢11名です。新製品などのリリース情報は非常に短時間で作らなければならないので制作会社から常駐してもらってもいますが、基本的には協力会社に私たちが要望を伝え、できあがってきたものをチェックするという形をとっています」と山川氏。

通常時には比較的余裕のある人員構成にも思えるが、緊急情報配信に24時間対応するためには十分な人数とはいえないように思える。しかし、緊急情報配信にもこのメンバーで対応しているという。

企業サイトの役割として、単に企業が一方的に伝えたい情報を載せるだけという時代はもう古い。オウンドメディアとしていかに利用者とのエンゲージメント・信頼を高める情報を発信できるか、またソーシャルメディアと連携してファンを獲得していくか、企業によって温度感は異なるとはいえ、ひとつの"メディア"としての重要性が高まっているのは間違いない。

次回も引き続き、山川氏と藤原氏にソーシャルメディアとの連携やコーポレートサイトとしてのミッションなどについて語って頂く。

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NTTドコモ -巨大サイト運営の裏側- (1)

NTTドコモ -巨大サイト運営の裏側- (2)

NTTドコモ -巨大サイト運営の裏側- (3)