Mozilla関連情報を発信しているユーザコミュニティ「もじら組」が主催する、テクニカルカンファレンス「Mozilla Party JP9.0」が5月31日に開催された。"爆速! ブラウザ"として、さらに高速になったFirefox 3の最新情報などが発表された。

「Mozilla Party JP9.0」の登壇者

ついに登場するFirefox 3

Firefox 3を説明するMozilla Japan 技術部 John Daggett氏

イベントでは「もじら組」による挨拶後、Mozilla Japan 技術部のJohn Daggett氏が登場し、Firefox 3について解説した。John Daggett氏はGeckoのグラフィックス開発者でもある。Firefoxのグラフィックスについて、Gecko 1.9を中心に詳細まで説明した。

まず解説したのは文字表示について。基本的には、文字を測って1ラインに入るように分けてから表示。世界中にさまざまな文字があるが、中には表示が難しいものもある。音と書き順が違っていたり、つなげて書くと全く違うように見える文字があったり。フォントにもよるがカーニングにも対応している。プラットフォームごとの技術を利用し、WindowsではUniscribe、Mac OS XではATSUI(Apple Type Services for Unicode Imaging)、LinuxではPangoを採用している。またCairo Graphicsを使って表示させているが、質がよいフォントが大切と締めくくった。

WindowsではUniscribe、Mac OS XではATSUI、LinuxではPangoを利用

Canvas 3Dで立体を表現しているところ。もちろん回転も可能

文字とともにグラフィックスも重要。ブラウザでグラフィックというと最初に思いつくのがFlash。そして、Java。でもそのほとんどがプラグインとなっている。それに対して、CSSやSVGなどを進化させることで、より自然なグラフィックスの表示が実現できる。CSS3はまだ設計段階だが、幅広く影響を与えるようなものに進化してきている。Firefox 3では、borderや色が新しくなる。通常よく見られる"#ff8800"や"rgb(255,136,0)などで表現する色だが、Firefox 2ではhsl(270,60%,70%)と色相、彩度、明度で表現が可能になり、Firefox 3ではrgba()やhsla()とアルファチャンネルをサポートする。borderでは角丸などが使えるようになった。また、SVGフィルターでは、文字にもエフェクトを使用できる。数種類のエフェクトの組み合わにも対応し、複雑な表現も可能となっている。Canvas 3DはFirefox 3の拡張機能で有効になり、利用するにはOpenGL ESの知識が必要だ。これで、ブラウザそのものに3D表示能力を持たせられる。

Firefox 3は6月に登場予定で、その後のFirefox 4も計画が進行している。Geckoについては、Firefox 3ではGecko 1.9だが、Firefox 4ではGecko 2.0にバージョンアップ。2009年年末に登場する予定だ。その前にForefox 3.1がリリース予定となっており、CSSのborder-image、border-radius、text-shadowなどFirefox 3.0に間に合わなかった機能が追加される。また、アニメーションやフォント関連にさらに注力し、パフォーマンスを強化する予定だ。フォントについてはWebフォントをサポートし、登場は2008年年末を予定している。

MozillaをサポートするSUMO

相撲好きというMozilla CorporationのDavid Tenser氏

続いて、MozillaをサポートするProject SUMOについて、Mozilla CorporationのDavid Tenser氏が説明した。

SUMOとはsupport.mozilla.comを指す。以前は技術に詳しいユーザが多かったが、最近では一般ユーザも利用するようになってきた。そのために一般ユーザでも分かりやすいサポートが重要になってきたのだ。そこで登場したのがSUMO。ナレッジベース、フォーラム、ライブチャットを中心に展開している。

ナレッジベースは、Firefoxのサポートを体系立てたもので、Wikiをベースにしている。誰でも書き込めるが、品質を維持しユーザにとって有益な情報のみ提供するためレビューを行っている。サポート記事へのフィードバックも重要。サポートを読んで解決できたかどうかは開発へ、分かりやすかったかどうかは品質アップにつながるからだ。ライブチャットでは、ユーザとヘルパーが直接チャットしながら解決できることがメリット。フォーラムに質問を投げかけて、答えが返ってくるのと違い、細かなところまで対応できる。ただし、ユーザとヘルパーが同時にログインしている必要がある。

Firefoxのヘルプ作成も進んでいて、25カ国以上にローカライズされている(日本語も含まれる)。今後、サイトデザインを一新し、フォーラムのローカライズを推進。映像を用いたヘルプも用意する予定。

Firefoxでのフィッシング対策

新しいアクセス認証について説明した独立行政法人 産業技術総合研究所 高木浩光氏

次に登場したのは、独立行政法人 産業技術総合研究所 高木浩光氏。フィッシング対策のためのMutualアクセス認証について説明した。日本での不正アクセス行為では、IDとパスワードの入手方法に関するトップはフィッシングサイト。しかも、2006年に220件だったものが2007年には1,157件に増えている(国家公安委員会、総務省、経済産業省発表より)。Firefox 2やInternet Explorer 7でもフィッシングサイトを検知する機能を盛り込んでおり、不正なサイトであるかどうかをデータベースを参照することで実現している。ただし、誰かが通報することを前提にしているため、最初の数人は引っかかっていることになる。しかも、マイナーなサイトや少人数にターゲットを絞ったものには対応できない。

そこで登場したのが、ブラウザ自体にIDとパスワードの機能を持たせるというもの。これによって、サーバがIDとパスワードを認証するのと同時に、ブラウザがサーバを認証する。ログインすれば、ログイン中であることを表示してくれるようになる。

開発はYahoo!と共同で実施した。これは、オークションなどセキュリティが重要なサービスを行っているためで、6月下旬からYahoo!オークションで実証実験を開始する。今後、普及に向けてFirefoxへの導入を期待している。

その後、OpenOffice.org 日本語プロジェクトの中本崇志氏がOpenOffice.orgの拡張機能について、ケイビーエムジェイの笠谷真也氏がSelenium IDEのFirefox 3対応記を講演した。

韓国でのMozillaの状況

2002年からMozillaコミュニティを韓国で運営するmozilla.or.krのChanny Yun氏

韓国mozilla.or.krのChanny Yun氏が韓国での状況を説明した。Daum.net(1日UV 1100万)では、InternetExplorer6が70%、InternetExplorer7が29%で、Firefoxは0.5%。Safariの0.1%やOperaの0.02%よりは多いがIEには及ばない。それが、Daum DMA(1日UV 6000)では、InternetExplorer6とInternetExplorer7の30%を押さえ、Firefoxが34%とトップ。2004年から主にブロガーの間で口コミで広がっていった。このため韓国国内専門ブロガーの40~50%程度が使用しているが、一般的なインターネットユーザでは0.5%しか利用していない。一般ユーザにもパワーユーザを中心に拡大しているが、まだまだの状況なのだ。

特に次期InternetExplorerではActiveXを重要視していることがFirefox普及の妨げになる可能性が高い。特に韓国国内のActiveX使用量は世界トップとなっており、インターネットバンキングや証券取引、カード決済などあらゆる分野で利用されている。このため韓国では訴訟問題にまで発展した。

ギネスに挑戦するFirefox 3

Firefoxのプロモーション計画を案内するMozilla Japan 代表理事の瀧田佐登子氏

Download Day 2008のキャンペーンバナー

最後にMozilla Japan 代表理事の瀧田佐登子氏登場。Firefox 3のプロモーションについて説明した。まずは、現在進行中のFirefox 3のダウンロードキャンペーン「Download Day 2008」を紹介。配信開始から24時間以内のダウンロード数でギネス記録を狙うというものだ。日本は世界で見ても第2位のエントリー数(5月31日現在)となっており、日本の存在感は高い。さらに、県別のダウンロード状況が分かるようにするという日本独自の企画も展開する予定。また、Firefoxの使い方をQ&A方式で紹介したノートを無料で大学に配布したり、「2007 GET Firefox ビデオアワード」グランプリ受賞パンタグラフ(PANTOGRAPH)が作成した映像をYouTubeやJRの車内で流すという。