エブリウェア化戦略 -

ユーザー参加型メディア/コンテンツを用意するということは、ユーザーがアクセスしやすい環境を整えることが重要となる。

従来のYahoo!JAPANはパソコンからのアクセスが中心だったが、今後はテレビ、携帯電話、カーナビなど、生活シーンに応じた最適化を図りたい意向だ。どこからでも、どんなデバイスを使っていてもアクセスできるYahoo!JAPAN――これが「エブリウェア化」戦略となる。

そして、この「エブリウェア化」戦略もパートナーとの展開が収益化の鍵を握ることになる。

オープン化戦略 - Yahoo!JAPAN IDの外部開放

「オープン化」戦略では、Yahoo!JAPAN IDの外部開放も検討している。同社は現在、約1,900万のYahoo!JAPAN ID、約1,600万のYahoo!ウォレットユーザー、約600万のYahoo!プレミアムユーザーを保有する。外部サイトでもこうしたIDを利用できるようにすることで、喜多埜氏は「ユーザーも便利になるし、(ヤフーとパートナーの)収益機会も生まれる」のではないかと期待を寄せる。「これまではデジタルコンテンツの課金において、一部(パートナーと)実施していたが、物販の部分でもやっていこう」(喜多埜氏)という動きだ。

喜多埜氏から例として挙げられたのは、Yahoo!ウォレットを利用した連携。外部サイトで商品を購入する段階でクレジットカードを登録するのではなく、Yahoo!ウォレットの決済情報を利用しようという試みだ。

また、Yahoo!ポイントを販促ツールとして利用することもできるのではないかと喜多埜氏は言う。「ポイントシステムは構築と運用が大変」(喜多埜氏)だが、同社のシステムに乗るかたちだと、そうしたコストを抱えないまま、Yahoo!ポイントを利用したプロモーションが可能となる。

オープン化戦略 - 広告の/広告以外のビジネスモデル

同社では現在、表示回数保証型の「CPM広告」、クリック課金型の「PPC広告」、成果報酬型の「CPA広告」を提供しており、それぞれがAISASモデルのAI/SA/Sに対応しているという。

CPM広告はいわゆるバナー広告で、2006年2月から「ITmedia +D」「Impress Watch」と共同で「"デジタル"ネットワーク」として販売を開始。その後、同4月の「"ニュース"ネットワーク」、同12月の「"レシピ"ネットワーク」「"Major 3"ネットワーク」と、順次拡大を図り、現在は21社がパートナーとして参画している。

また、同社は現在、CPM広告の付加価値として行動ターゲティング広告に注力している。行動ターゲティング広告の一例としては、ユーザーが「Yahoo!自動車」を閲覧している場合、その行動履歴を貯めておき(同社では直近28日分)、自動車とは関連の無いコンテンツを閲覧している場合でも、自動車のバナー広告を表示するというもの。もう一つの特徴は、Yahoo!JAPAN内だけでなく、パートナーサイトでも同様にバナーを表示できることにあり、広告主にとってはユーザーの嗜好に沿った広告を提供できることから近年、注目を集めている。

実数は明かされなかったが、同社の行動ターゲティング広告は前年同期比で551%増

井上社長は「今後、生活圏の情報が重要になる」と指摘する。現在のインターネットは「全国版」のようなものだが、密に使われるようになることで、生活圏の情報に対するニーズが高まるからだ。

生活圏の情報を提供できるようになると、次は生活圏に密着した広告といえる地域ターゲティング広告が重要になる。今回のカンファレンスでは言及されなかったが、現在同社が買収手続きを進めているオーバーチュアの「新スポンサードサーチ」(開発コード名:Panama)は地域ターゲティングに対応した。

広告以外のビジネスモデルでは、既に日産との事例がある。カーナビゲーションに搭載されたYahoo!グルメコールから、ユーザーが店舗にコール課金用予約専用番号に電話するごとに課金されるしくみだ。

また、ODNとの事例では、eコマースでAPIを提供している。Web APIによるデータ連携で、Yahoo!ショッピングの商用DBと、Yahoo!オークションのWebサービスを利用して、コマースコンテンツを展開可能だ。

このような動きは「スピードが求められる」(喜多埜氏)とのことで、同社は喜多埜氏の直下にCOO室を設置、機動性のあるサービスの開発に努めているという。

「オープン化」のインパクト

井上社長は全社戦略を(1)Yahoo!サイトの利用活性化、(2)パートナーサイトを通じての顧客接点の拡大と二つに大別する。(1)ではソーシャルメディア化とエブリウェア化が、(2)でオープン化が重要となる。

「オープン化」と言えば、どうしてもシステムのオープン化や、開かれたサービスという意味でのオープン化と思いがちだが、上に見てきたように、実際はパートナー向けの言葉だ。ユーザー向けの開かれたサービスという意味では「ソーシャルメディア化」という言葉で説明されているとしても、今回の「オープン化」戦略はそれと同等のインパクトがあると言っていい。

と言うのも、14日にヤフーはiTunes StoreとYahoo!ミュージックの連携を発表し、同日から音楽配信サービス「Music Download on iTunes」を開始しているからだ。本誌で既報の通り、このサービスはヤフーとAppleの間でアフィリエイト契約が交わされており、「Music Download on iTunes」経由でiTune Storeの楽曲を購入すると、ヤフーに報酬が入るしくみとなっている。ニュース記事に「ネットビジネスの王道を歩むYahoo!JAPAN」と記載されているのは、従来からのトラフィックをYahoo!JAPANに留めておく姿を指してのもの。そのため、「人を集める場ではなく、人を流通させる場を提供するのは極めて珍しい」と結ばれているのだ。

それが今回、同社社長を始め、幹部が口々に「オープン化」を唱えた。トラフィックの誘導と同時に、収益化の道を探り、パートナーと手を携えてビジネスモデルの確立を目指す――その象徴ともいえる出来事だ。

一方、ポータルサイトとしての性格も捨ててはいない。Yahoo!JAPANの昨年11月のリーチ(利用率)は86.2%(ネットレイティングス調べ)。約9割のネットユーザーが月に一度はYahoo!JAPANを訪れていることになる。それでも井上社長は「まだちょっとしか使ってもらっていない」と語る。多くの人がアクセスしてくるが、滞在時間が短いという認識なのだ。

パートナーと連携し、サービス利用時間の拡大を目指す

3つの切り口で全社戦略を推進する

井上社長は、同社のビジョンが「LIFE ENGINE」であること、「インターネットを通じて、いつでもどこでもお客様の役に立つサービスを提供し続け」ることがミッションであると語り、「ソーシャルメディア化」「エブリウェア化」「オープン化」を、「今後10年くらいかけて粛々とやる」と展望を示してみせた。