大学における情報システムのクラウド化が加速しています。文部科学省の学術情報基盤実態調査 (平成 29 年度) では、情報システムの一部または全部をクラウド化する大学が 84.0% にまで達したことが報じられました。

大学がクラウド化をすすめる理由の多くは、調達、運用に要する情報関連コストを削減することにあるでしょう。しかしその先には、削減したリソースを教育サービスに割り当てることで、より高品質な教育を提供したいという想いがあるはずです。

これを示す好例があります。関西地区を代表する医療系総合大学である森ノ宮医療大学では、2018 年度より、NTT 西日本の支援のもとで情報システムのクラウド化を開始。Microsoft Azure と NTT 西日本グループによって提供される SOC (Security Operation Center) を利用し、情報関連コストを削減させるとともに、災害時に教育サービスを継続するための DR 水準を向上させ、さらに ICT 化による教育サービスの発展性も獲得したのです。

クラウド シフトのモデルケースとして、グループウェアのクラウド移行を検討

幅広い知識、高度な専門技術、そして今日の主流となりつつあるチーム医療への理解。森ノ宮医療大学は、現代医療を担う人材に必要なこれら能力の育成を、実践的なカリキュラムによって提供している医療系総合大学です。

チーム医療に焦点をあてていることからも伺えるように、同大学がテーマとするのは「臨床現場に近い教育」です。今日の臨床現場では、高度化する医療ニーズに応えるため、異なる専門性を持った医療スタッフが連携する「チーム医療」が求められています。卒後の学生が戦力として活躍する、このためには、臨床現場で求められるスキルを確実に身に着けさせねばなりません。学校法人 森ノ宮学園 理事長の清水 尚道 氏は、同学の特徴を次のように説明します。

「本学では 2014 年から第一次中期経営計画をスタートさせ、今年、最終年度を迎えております。この計画では、バリエーション豊かな医療従事者の育成を目指し、専門的な知識や技術を習得できる専門学科の拡充を進めました。さらに、学生間のコラボレーションが生まれるよう、施設や設備といったファシリティも整備しました。これらの狙いは、臨床現場で求められる『異なる医療職同士が同じ目標を目指し行動する』ことを、授業や大学生活の中で『経験』として提供することにあるのです」(清水 氏)。

  • 森ノ宮医療大学では、専門職間連携教育の方針のもと、学校生活全体で異なる医療職同士がコラボレーションする経験を提供している

    森ノ宮医療大学では、専門職間連携教育の方針のもと、学校生活全体で異なる医療職同士がコラボレーションする経験を提供している

清水 氏は、学科の拡充やファシリティ整備だけでなく、ICT サービスも強化してこうしたコラボレーションを加速させたいと語ります。しかし、そのためには従来の計算になかったあらたな経費、あらたなリソースが必要となります。同学では、これまでオンプレミスの ICT 基盤のもとで各種サービスを提供してきましが、これらのサービスを運用管理する学内職員は、わずか 3 人です。ユーザーの数は 2,000 人を超え、既存サービスの維持運用だけで手一杯でした。従来のオンプレミス環境のままであらたな ICT サービスを用意することは、人的リソースの観点から、実現が困難だったのです。

この状況に変化をもたらしたのが、第一次中期経営計画の過程で進めたグループウェア システムのクラウド移行でした。森ノ宮医療大学 事務局 総務室 室長の瀬川 敏未 氏は、この取り組みの成功により、次期計画以降で ICT サービスを強化していける兆しが見えてきたと語ります。

「教育水準を引き上げるためには、新しい ICT サービスも提供していかねばなりません。人的リソースの課題を解決するために、2018 年、EOL を迎えたグループウェア システムを Microsoft Azure へ移行しました。パブリック クラウドの利用は本学として初であり、チャレンジングな取り組みだったのですが、結果として大きな成果をもたらしています。今後はさらにクラウド シフトを進め、新たな ICT の取り組みを加速していきたいと思います」(瀬川 氏)。

  • 学校法人 森ノ宮医療学園 理事長 清水 尚道 氏、森ノ宮医療大学 事務局 総務室 室長 瀬川 敏未 氏

自然災害によって明示されたオンプレミスの限界。しかし、パブリック クラウドはセキュリティが懸念された

2018 年、森ノ宮医療大学はあたらしい ICT サービスの提供に向けた取り組みとして、EOL を迎えたグループウェア システムを Microsoft Azure へと移行させました。この計画が実行に移された背景には、人的リソースの問題に加え、同学の設置されている大阪で発生したある問題が関係していたといいます。森ノ宮医療大学 事務局 総務室 情報システム担当 主任の柘植 浩 氏は、つぎのように説明します。

「かねてより、オンプレミスにある ICT 基盤をクラウドへ移行させたいという考えはありました。情報関連経費や運用リソースの圧迫はもちろんのこと、近年はさらに外的要因もくわわり、自前でサービスを提供することが困難になりつつあったからです。その要因とは、森ノ宮医療大学が設置されている大阪で昨今頻発する地震や台風などの自然災害です。大阪では災害による長期停電が一部で発生しており、オンプレミスでサービス停止なく運用しつづけることに限界を感じていました。ただ、これまではセキュリティという問題があり、思うように計画がすすんでいませんでした」(柘植 氏)。

オンプレミスに限界を感じながらも、セキュリティの問題からクラウド シフトに踏み切れなかったという森ノ宮医療大学。その理由は、「機微な個人情報」をはじめとする、医療大学ゆえに取り扱われる機密性の高い情報にありました。柘植 氏とともに情報システムを担当する、森ノ宮医療大学の角 容子 氏は、こう説明します。

「グループウェア システムは、ユーザーが教職員だけであることを鑑みると、単体でみれば機密性はさほど高くありません。ですが、この取り組みは今後のクラウド シフトに向けたモデル ケースとするべくすすめたものでした。将来的に『機微な個人情報』を取り扱うことも、可能性としてゼロではありません。そうした場合にも対応可能な高いセキュリティ水準をプラットフォームと運用体制の両面で備えることが、はじめから必須条件だったのです。こうした背景から、本取り組みの検討にあたっては、本当にクラウドでセキュリティを担保できるのかという抵抗が少なからず学内にありました」(角 氏)。

コンピューティング、ストレージ、データベース、ネットワークなど、インフラ領域に関わる機器の調達、そして運用が不要になることは、クラウドの持つ大きなメリットです。しかし、これは反面、学外にあるインフラ領域についてはセキュリティを管理することができないことを意味します。

クラウド シフトを進める場合、こうした従来とは異なる考え方、そして従来とは異なる運用プロセスへの対応が求められました。仮に今回のモデルケースが失敗だという判断になっては、今後の教育サービス拡充の可能性を狭めたり、また、クラウドからオンプレミス環境に戻すためのコストが発生したりしてしまいます。クラウド シフトの第一歩となるグループウェアシステムの移行は、森ノ宮医療大学にとって大きなチャレンジでした。

学外にある環境をセキュアに運用管理する。クラウド シフトに欠かせないこの条件を達成するためには、SOC のような体制をもってクラウド環境を厳格に管理することも求められます。ただし、セキュリティとクラウドに長けた人材を育てる、また拡充したりすることは、人的リソースの観点から現実的ではありません。

森ノ宮医療大学 情報システム担当の森岡 伸哉 氏は、このような理由から、クラウド シフトにあたって、構築だけでなくセキュリティ運用も任すことのできるベンダーを求めたと明かします。さまざまな検討を重ねた結果ベンダーとして選定されたのが、西日本電信電話株式会社 (以下、NTT 西日本) でした。同氏は、パートナーに NTT 西日本を選んだ理由についてこう述べます。

「NTT 西日本に期待したのは、窓口の一元化によるワン ストップでの支援です。同社は SI、NI の双方の機能を持っているため、基盤構築、クラウド接続の両面での支援を期待できます。くわえて SOC についても、グループ会社である NTTネオメイトの SOC サービスをもった一気通貫での提供が可能だと提案いただきました。グループウェア システムの移行は、クラウド シフトに向けて失敗したくない取り組みであり、これを確かに成功させるうえでは NTT 西日本とともに作業を進めることが最適だと判断したのです」(森岡 氏)。

  • 森ノ宮医療大学 事務局 総務室 情報システム担当 主任 柘植 浩 氏、角 容子氏、森岡 伸哉 氏
  • NTTネオメイトが提供する MC-SOC。2018 年からは、Microsoft Azure にも対応している

    NTTネオメイトが提供する MC-SOC。2018 年からは、Microsoft Azure にも対応している

森ノ宮医療大学は、NTT 西日本と共同でクラウド プラットフォームについての検討を開始。その結果、Microsoft Azure の採用を決定しました。柘植 氏は「プラットフォームとしての高い信頼性を評価しました」と、採用の理由を説明。つづけて、同取り組みを支援した NTT 西日本の岸本 恵美 氏と澤井 大輔 氏は、Microsoft Azure の有する信頼性についてこう補足します。

「マイクロソフトは国内でもっとも早く CS ゴールドマークを取得した実績を持っています。Microsoft Azure であれば、将来的に機微な個人情報を扱うとなった場合でも強固に情報を保護することができますし、ExpressRoute を利用すれば、大学とクラウド間での通信面もセキュリティを強化することが可能でした。また、Microsoft Azure のデータセンターは国内に設置されています。管轄裁判所が国内となるため、万が一の場合でもオンプレミスへデータを戻すことができる点もポイントです」(岸本 氏)。

「PaaS を豊富に備えることも魅力です。お客さまの期待の 1 つに、クラウド化による運用リソースの削減がありました。今回のグループウェア システムの移行では IaaS ベースでこれを稼働させていますが、今後 PaaS を活用していけば、運用リソースを大幅に削減することが可能です。また、あらたなサービス開発に際しても、PaaS を活用すれば、IaaS 以上に短いリードタイムで作業をすすめていくことができます」(澤井 氏)。

台風による停電下でも、安定してサービスを継続。信頼性の高いクラウド プラットフォームによって、ICT サービスの発展性を獲得

NTT 西日本の協力のもと、クラウド シフトの第一歩となるグループウェアシステムをクラウド移行した森ノ宮医療大学。瀬川 氏が触れたように、この取り組みは無事成功し、大きな効果を上げています。柘植 氏はまず、プロジェクトの進行に焦点をあて、移行完了までの道筋を語りました。

「検討に至るまでには多大な期間を要しましたが、移行を決定してから完了まではきわめてスムーズでした。パブリック クラウドの持つスケーラビリティが理由の 1 つといえますが、それ以上に、SI、NI、SOC、そしてベンダー交渉にいたるまで、すべてをワン ストップに提供してくれた NTT 西日本の力が大きいと考えています。たとえば、今回の取り組みでは、本学で利用するグループウェア『desknet's NEO』について、NTT 西日本からベンダーである株式会社ネオジャパンへの働きかけのもとで、Microsoft Azure に対応いただけました。こうしたシステム構築以外も含めて包括的に支援いただいたことが、プロジェクトの成功につながったのだと感じます」(柘植 氏)。

クラウド移行を完了した現在、グループウェア システムはノン トラブルで稼働しているといいます。NTT 西日本の藤島 康紘 氏は、この要因を、システム設計に触れながら説明します。

「Microsoft Azure はきわめて高い SLA を提供しています。西日本と東日本のリージョンをまたいだ物理冗長化設計により、より高い可用性をもって運用することも可能です。さらに、現環境では NTTネオメイトによるネットワークの死活監視も動いています。サービスの停止だけでなくセキュリティ リスクについても常時監視していますので、『安定的かつセキュアに運用可能な環境』が実現できていると思います」(藤島 氏)。

  • NTT西日本 アドバンストソリューション 営業部 営業担当 営業G 担当課長 岸本 恵美 氏、澤井 大輔 氏、藤島 康紘 氏
  • Microsoft Azure のプラットフォームとしての信頼性と、常時走っているネットワークの死活 監視によって、クラウド上の環境はきわめて安定的かつセキュアに運用されている

    Microsoft Azure のプラットフォームとしての信頼性と、常時走っているネットワークの死活 監視によって、クラウド上の環境はきわめて安定的かつセキュアに運用されている

こうしたクラウド移行は、森ノ宮医療大学のどのような効果がもたらしているのでしょうか。角 氏は、移行後に発生したある経験を交えてこう語ります。

「移行を完了した矢先、台風の被害によって停電が発生しました。学内システムは止めざるを得ない状況だったのですが、そうした状況でも Microsoft Azure 上のグループウェア システムは問題なく稼働をつづけていたのです。教職員間で連絡を取り合い即座に学生の安全確認に動く、これは、災害時における大学の大きな使命です。グループウェア システムで教職員のコミュニケーションを円滑にすることで、学生への最適な対応ができました」(角 氏)。

角 氏は、この一件で得られた「クラウドはより安全で安定した環境だ」という実感が、クラウド シフトを進めていく大きな動機づけになったとも述べました。さらに瀬川 氏は、コスト メリットや運用メリットにも言及し、今後の期待をこう語ります。

「機器調達やハードウェアの運用に要するコストも削減できています。現段階ではまだグループウェア システムのみの移行ですのでそれほど大きなインパクトはないものの、今後クラウド シフトをすすめることで大きな成果へとつながっていく手ごたえを感じました。クラウド シフトによって得られるリソース、そしてスケーラビリティを武器に、今後、あらたな教育サービスの企画とその実装をすすめていきたいと考えています」(瀬川 氏)。

実臨床現場と密接にかかわれるような教育をめざす

森ノ宮医療大学では、2019 年度から新たな中期経営計画がスタートする予定です。「臨床現場に近い教育」を実現すべく、学科拡充やファシリティ整備、クラウド シフトへの着手など、戦略的な取り組みを推し進めてきた同学ですが、次期計画ではどのような姿がめざされているのでしょうか。

「この 5 年間の中期経営計画では、関西圏の医療大学の中で『トップ クラス』となることをめざしてきました。さまざまな改革と地域の皆様の支援もあり、幸いにしてこの目標に近づきつつあると考えています。次期計画では、『トップ クラス』の中でも『トップ』になることをめざしてまいります。そのためには、これまで以上に『臨床現場に近い教育』を提供することが求められるでしょう。引き続き学科を拡充し、さまざまな専門職の学生らがコラボレーションできるような環境づくりをすすめていきます。この計画の過程では、ICT を用いたあらたな試みもすすめていく予定です」(清水 氏)。

"病院など、実臨床現場と従来以上に密接にかかわれるような教育も強化していきたいと思います。セキュアでスケーラビリティのあるクラウド基盤を用意できたことで、こういった地域との取り組みに際しても、ICT を有効に活用していけると考えています"

-清水 尚道 氏: 理事長
学校法人 森ノ宮医療学園

クラウド活用はいまや、教育機関においてスタンダードなものとなりつつあります。ただ、コスト削減や運用工数削減といったトラディショナルな活用理由は共通していても、その先にある本質的な目的は、大学固有の強みを伸ばすためのものであるべきでしょう。森ノ宮医療大学の取り組みは、クラウド化が加速する今だからこそ、多くの教育機関の指針の 1 つとなるはずです。

  • 森ノ宮医療大学・NTT西日本一同

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