イオングループにおける金融領域の事業会社として、国内全域でさまざまな決済サービスを提供するイオンクレジットサービス株式会社(以下ACS)。決済が多様化する環境変化の中、イオングループのシナジーを活かし、顧客のニーズに合わせたサービス創出・強化を目指している。同社は、その取り組みのキーとなるDX推進に向け、NTTデータが人員面の支援を行う「デジタルテクノロジーディレクター®」を導入し、組織横断による課題解決を力強く進めた。

全社横断のDX推進体制と人材不足に課題

経済産業省がキャッシュレス・ビジョンを打ち出した2018年前後から、消費者の支払方法は多様化し、コロナ禍を経てさらに加速している。従来のクレジットカードやデビットカード、交通系/流通系ICカードの電子マネーに加えて、スマートフォンを使うQRコード決済もいまや一般的なものとなった。

ACSはイオングループで決済サービス全般を担う会社だが、単なる決済事業に限らず、イオングループ全体のシナジーを活かす「イオン生活圏」において顧客ニーズ起点の価値を提供している。例えばカード利用者へのWeb・アプリサービスとして「暮らしのマネーサイト」「イオンウォレット」といったコミュニケーションツールを提供するほか、最近では顧客の利便性向上を考え、QRコード決済対応として「AEON Pay」のリリースや、グループ内の「ときめきポイント」「WAON POINT」という2つのポイント制度を統合した。

イオンクレジットサービス株式会社 執行役員 システム本部 システム本部長 光石博文氏

イオンクレジットサービス株式会社 執行役員 システム本部長 光石博文氏

顧客のニーズに応える新たな価値の創造に向け、カギとなるのはやはりデジタル技術だ。多様化が進む決済手段はデジタルの仕組みで迅速に提供するのが前提であり、顧客の利便性・生産性を高めるサービスのリリース、外部サービスとの連携、あるいはなかなか伸びないキャッシュレス比率をグループ内でアップさせるといった文脈でも、デジタルの活用は欠かせない要素である。そのため、スピード感をもったシステム環境の構築と、グループ全体でのシステム基盤の維持・運用が同社にとって重要なテーマとなっている。

こうしたDXを推進していくにあたり、ACS社内には課題があったと、執行役員 システム本部長の光石博文氏は語る。

「システムやアプリの構築からリリースまでのスピード感が従来以上に求められていますが、安全・安心なサービス提供は大原則であるため、品質を維持しつつ、いかにビジネススピードに追従できる開発を実現するかが肝になります。そのためには従来の開発スキームを企画段階から検討し、ウォーターフォール型だけでなくアジャイル型の開発手法も積極的に取り入れていく必要がありますが、当社には全社横断で推進できる体制がありませんでした。また、新規案件が日々増える一方で現行システムの追加開発・維持運用に追われており、デジタル人材の確保も急務になっていました」

顧客目線でデジタル化を支援する人材ソリューション

組織横断の体制と、柔軟・迅速な開発手法の適用、そして人材不足。同社ではこの3つの課題解決に向けて、新たなアプローチを模索した。必要なのは、組織横断的に検討できる人員、将来的なシステム構想を企画できる人員、そしてデジタルの専門的スキルやマネジメント力・調整能力を持つ人員。こうした人的リソースを求めて、同社はNTTデータに支援を依頼した。

「NTTデータはパートナー会社としてさまざまなシステム開発を以前から依頼している関係で、もともと当社のシステム構想について理解があります」と光石氏。実は前述のポイント統合も、双方のシステムを運用していたのがNTTデータであり、そのおかげでトラブルなく統合できたと光石氏は振り返る。「加えて、NTTデータは金融業界の業務に数多く携わっており、そのスキルとノウハウは極めて高いと判断しているので、おのずとNTTデータに支援を依頼することになりました」と話す。

ACSの支援依頼に対し、NTTデータが提案したのが「デジタルテクノロジーディレクター」の活用だ。ACSの課題解決に中心となって参画した技術革新統括本部 デジタルテクノロジ推進室 の窪園晃一氏は、デジタルテクノロジーディレクターについて次のように説明する。

株式会社NTTデータ 技術革新統括本部 デジタルテクノロジ推進室 課長代理 窪園晃一氏

株式会社NTTデータ 技術革新統括本部 デジタルテクノロジ推進室 課長代理 窪園晃一氏

「顧客企業のデジタルに関する様々な課題に対して顧客の目線・視点で解決を支援し、顧客のDX推進をミッションとする人材をデジタルテクノロジーディレクターと呼んでいます。DXといっても何から始めればよいのかわからない、全体のシステム構想を立てられない、企画推進したいが組織横断的な推進が難しいといった悩みに、顧客企業に入り、顧客の立場から解決をサポートします」

課題をヒアリングして分析し、解決につながる施策の提案、さらには企画立案まで行うのがデジタルテクノロジーディレクターの特徴だ。一見するとコンサルティングのようだが、一般的なコンサルタントと異なり、より技術的要素に寄った立場であると窪園氏。対象業界は限定しておらず、所属メンバーの技術的背景や得意な業界・分野等に応じて適材適所で配置しているという。

デジタルテクノロジーディレクターという仕組みが本格的にスタートしたのは2019年4月のこと。その直接的なきっかけとなったのがACSとの取り組みだった。前述のようにACSとはシステム開発で以前から関わりがあったが、現在のデジタルテクノロジーディレクター部門の前身組織が発足して間もない頃、組織横断体制の欠如や人材不足の課題についてACSから相談を受け、デジタルテクノロジーディレクターの目的にマッチする案件であったことから提案したという背景がある。

社員と同じ立場で真に良いものを提案

実際に窪園氏がACS内のチームに参画し、最初に行ったのが、マネジメント力を活かし、縦割り化した組織を横断的に取りまとめる作業だった。ここでまずACSのさまざまな立場の社員とコミュニケーションパスを築いたうえで、老朽化したレガシーシステムを統合基盤として仮想環境に集約する更改の企画推進、Windows10端末の全社的なリモート対応の展開をはじめ、さまざまな案件の支援に携わった。

「多数の関係者の調整や強い推進力が求められる組織横断の案件を積極的に支援してもらいました。直近では、ACSのDX戦略と今後の方向性を考え、システム本部の中期経営計画を作成する作業も窪園さんと一緒になって行いました。独りよがりに技術だけを提案するスタンスではこちらも受け入れ難いのですが、デジタルテクノロジーディレクターは社員同様の立場で、当社にとって何がいいかという観点で提案してくれるのがとてもありがたいですね」と光石氏。NTTデータの長所については「人材自体も優秀ですが、そのバックにNTTデータという会社がしっかりあること。問題が起きたとき、NTTデータが会社全体でソリューションを提案してくれる点は本当に心強いと思います」と指摘する。

デジタルテクノロジーディレクターとして仮想環境への集約を推進した統合基盤は、それまでシステム単位で各パートナー会社がハードやソフトを個別に作っていたもので、保守性が悪いうえにコストもどんどん膨らんでいくという、まさに“2025年の崖”に直結しかねないジレンマに陥っていた。今回はコンセプトを統一した基盤としたことで、コストを大幅に抑えられただけでなく、基盤としての品質・信頼性も格段に高まったと光石氏は評価している。

協業を強化しデジタル技術による課題解決を加速

統合基盤の集約は2022年3月時点でほぼ終了。この成果を受け、ACSとデジタルテクノロジーディレクターは“次の波”に向けた取り組みをスタートさせている。

「次のテーマはクラウドシフトとアプリケーション開発のコンテナ化です。オンプレのシステムをクラウドに移行してよりオープンに利用できる方向に持っていき、それに合わせて開発のスピードアップも実現しなければならないということで、いままさにデジタルテクノロジーディレクターとともに企画を練っているところです」と光石氏。デジタルテクノロジーディレクターとして行っているクラウド化に関わる検討支援について、窪園氏は次のように解説する。

「クラウド化に関して直面している大きな課題で言うと、レガシーな構成のシステムをどうクラウド化するかという点です。これまでオンプレミスで作りこんできた信頼性や性能面について、クラウド化する際に同じレベルで作りこむには大きなコストがかかります。特にOracle RAC構成について信頼性を維持したままクラウド化する手法や、ネットワークレイテンシによるシステム影響を極小化する方式については、ACS社内環境におけるクラウド化の大きな障壁となっており、主要クラウドベンダやNTTデータ以外のSIerからも情報収集しつつ、最適な構成方針について光石さんと議論しながら進めています」

2025年は目前に近づいている。レガシーシステムからの脱却に向け、最新技術を駆使して積極的なクラウドシフトを提案すること自体は簡単だが、そこには当然ながらコストの問題がつきまとう。光石氏は語る。

「足踏みしていると世の中から置いていかれてしまいます。有効な打開策を早急に考え、レガシーシステムのクラウドシフトを進めていくのが大きなテーマですが、まだ結論が出ておらず、デジタルテクノロジーディレクターとともに引き続き検討していきます」

これまでは他社と“協業”しても、ACS側の指示待ちでなかなか自発的に動いてくれないケースが多かったと光石氏。NTTデータのデジタルテクノロジーディレクターは、方針を示せば細かい指示を出さずとも判断や調整をどんどん進めてくれるといい、その点も高く評価する。

「当社社員とタッグを組み、当社の弱いところは補完してくれながら、一緒にいろいろなものを形にしていくところは、本当に力になっています。2022年4月からは、中期経営計画にも掲げた「システム戦略企画部」という、アジャイル開発手法を中心としてマーケットイン型だけでなくプロダクトアウト型も取込む開発推進組織をシステム本部内に新設いたしました。これまで以上に、システム開発を理解した人員による上流企画の推進が求められますので、今後もさらに加速した支援をお願いしたいと思います」

一方、NTTデータとしても、ACSとの取り組みはデジタルテクノロジーディレクターの目的と合致したプロジェクトであり、実際にACSの構想検討推進にも貢献できた事例になったと考えている。同様にDXをどう推進すべきか悩む顧客は増えているため、ACSへの支援で得たノウハウをデジタルテクノロジーディレクターの今後の取り組みに活かしていくという。そのためにも、企画という上流案件から、顧客の利便性向上や品質の作り込みを意識しながら支援できる人員の確保と人材育成を進め、顧客のDX推進を力強くサポートしていく。

「デジタルテクノロジーディレクター」は、株式会社NTTデータの登録商標です。

イオンクレジットサービス株式会社
2012年11月にイオンフィナンシャルサービスのクレジットカード事業のノウハウを引き継ぎ、 小売業発の総合金融グループの中核事業会社として創業。 イオングループを始めとし、国内全域で決済サービスを提供する。 「お客さまの未来と信用を活かす生活応援企業」として、利便性の高い決済プラットフォームの開発や、 蓄積したデータを活用した加盟店さまへのソリューション提案を通じ、「安全、安心、便利で、お得に」暮らせる キャッシュレス社会の実現に取り組んでいる。

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