「製造業のDXというと、製造過程や情報をどうデジタル化するか、デジタルをどこに活用するか、どのようにして機械に置き換えるか、といったノウハウに着目されがち。だが、製造業のDXを実現するためには、まずネットワークインフラを整備することが重要」——こう語るのは、ジェイズ・コミュニケーション パートナーソリューションBU プロダクト技術部 グループマネージャー 平塚健太郎氏だ。3月15日に開催されたTECH+フォーラム 製造業DX Day 2022 Mar.「事業革新のプロセス」で、製造業・工場のDXに必要なネットワークインフラの整備方針について解説した。

  • ジェイズ・コミュニケーション パートナーソリューションBU プロダクト技術部 グループマネージャー 平塚健太郎氏

製造業の現場が抱える、Wi-Fi設置における5つの課題

DXに必要不可欠なノートPC、スマートフォン、タブレット、IoT機器などをサポートするネットワークインフラとして、オフィス・工場問わず、現状ではWi-Fiが利用されるケースが多い。

ただし、オフィスと比べて工場はWi-Fiネットワークの設置環境が大きく違うことに注意が必要となる。平塚氏は、製造業の現場にWi-Fiネットワークを設置する際の課題を下記の5つの項目に整理する。

  1. エリアが広く電波が届きづらい
  2. 屋外エリアへの対応
  3. 建屋間のネットワーク
  4. 配線しづらい場所をどうすべきか
  5. 多拠点・複数台のアクセスポイントをまとめて管理したい

以下では、この5つの課題を解決する方法について順に紹介していく。

1. エリアが広く電波が届きづらい

電波は、金属に反射する、水分があると吸収されるなどといった特性を持つ。こうした特性がネックとなり、工場内においてはWi-Fiの利用を避けているケースも多い。

しかし、ジェイズ・コミュニケーションが扱うRuckusのアクセスポイントは、内蔵されたさまざまな向きのアンテナを活用する「BeamFlex」という技術が搭載されており、端末と通信する際、端末の位置に合わせて電波の向きが調整される。また、端末がない場所については電波を出さないため、干渉が起きず、混雑にも強い。

また、垂直/水平方向の電波を同時に出力することができる「PD-MRC」という技術により、スマートフォンやタブレット類に適した波形の電波を送信することができる。

これらの特徴を組み合わせることで、端末が移動して影に隠れてしまうケースや、倉庫内での飲料水の運搬やロボットなどの移動により電波特性が変わってしまう場合にも、安定してWi-Fiネットワークを利用することが可能となる。

2. 屋外エリアへの対応

Ruckusのアクセスポイントの屋外モデルは、防水・防塵規格のIP67をサポートしており、塩水噴霧試験も実施済み。最新のWi-Fi6規格にも対応している。

  • 屋外モデルラインナップ

3. 建屋間のネットワーク

離れた建屋にWi-Fi環境を通してネットワークを拡張できれば、同一拠点の各建屋にWAN回線を敷設するコストが削減できる。Ruckusの場合、拡張アンテナを利用することで、見通しが良ければAPの機種によっては2-3kmから5-6km到達も可能となる。平塚氏によると、幹線道路を挟んで100Mbpsのスループットを実現している事例もあるという。免許不要なため、DXに向けたソリューション導入のハードルも下がるだろう。

4. 配線しづらい場所をどうすべきか

建屋内は、天井が高いエリアが多く、配線がそもそもできない、または配線するとコストが掛かってしまうケースもある。Ruckusのアクセスポイントは、「SmartMesh」というメッシュ機能をもっており、アクセスポイント同士をWi-Fiで接続させながらネットワークを拡張できる。

5. 多拠点・複数台のアクセスポイントをまとめて管理したい

Ruckusの「SmartZone」という多拠点・多アクセスポイント向け管理コントローラを用いることで、多拠点かつ数千台におよぶアクセスポイントを一元的に管理することが可能となる。電波状況や利用状況、障害状況のほか、クライアントの接続状況も確認できる。

標準的には1000-2000アクセスポイント、多い場合は数千アクセスポイントの構築実績があり、平塚氏によると最大で3万のアクセスポイントを一元的に管理することも可能という。

コントローラは仮想環境やクラウド上に配置することもできる。また「Ruckus Analytics」というサポート機能では、AIによる障害分析、解析が可能なほか、改善方法のアドバイスも提案される。

コントローラ製品は、クラウド管理型の「Ruckus Cloud」や「Unleashed」など小規模から中規模、大規模ユーザー向けまで幅広くラインナップされている。

  • コントローラのラインナップ

ユーザー事例

最後に平塚氏は、リコーの導入事例を紹介した。同社では、「Virtual SmartZone High Scale」 で、グループ会社も含めた3000程度のアクセスポイントを展開しており、現在も拡張中。Wi-Fi5からWi-Fi6への変更も併せて検討を進めている。

導入の決め手は、Ruckusのアクセスポイントの強みである電波がよく飛ぶという特徴だったが、実際に導入したところ、社内のSNSで「Wi-Fiが早くなった/繋がりやすくなった」という声があがるなど、現場からの評判も良いという。無線LAN環境の変更の際に発生しがちな「使いづらい」といった不満の声もまったくないとのことだ。