Avnetが2019年7月に発表したXilinxのUlrtaScale+ MPSoC搭載の評価ボード「Ultra96-V2」。これは96boardsに準拠した開発ボードである。
搭載されているのはXilinxのUltraScale+ MPSoC(FPGA+SoC)のなかでもミドルグレードに属するZU3EGであり、FPGA Fabricは154K Logic Cellで、最大1.8MbitのBlock RAMを内蔵、DSP Sliceは240個搭載されるもので、さまざまなことに対応できる。
さらに、最大1.5GHz駆動のQuad Core Cortex-A53と最大600MHz駆動のDual Core Cortex-R5、加えて667MHz駆動のMali-400 MP2 GPUまで搭載されるといったかなり重厚な構成である。
このUltraScale+ MPSoCに
といった周辺機器と、拡張用の40pin Low-Speed/60pin High-Speed Expansion Headerを85mm×54mmという小さなボードに詰め込んだのがUltra96-V2ボードである。
Ultra96-V2開発ボードの詳細はこちら
国内では、[Avnetのサイト](https://ac.ebis.ne.jp/tr_set.php?argument=HL02euFd&ai=a5fd8a04e50545などで購入でき、値段は¥29,800(税・送料別)ということで、ホビー向けとしては少々高めではあるが、搭載されている機能を考えると納得できる金額でもある。
本稿ではこのUltra96-V2について、Xilinx 製品を長年にわたり取り扱っているAvnetのサポートチームにインタビューした内容を紹介する。
製品について
「¥29,800はちょっと高めといえば高めですが、もっと下のグレードのMPSoC(CG Device)を搭載すればもう少し値段が下がったかもしれません。しかし、これは評価ボードですので、Cortex-A53が2コアのMPSoCですと、4コアが必要なアプリケーションの評価はできませんし。あるいは産業系でNeural Networkはいらないけど画像処理をやってみたい、GPUを使いたいなど、幅広いお客様にこのボードを使っていただきたいと考えると、このグレードで良かったかな、と思います」と話すのはアヴネット ザイリンクス事業本部 PM部 部長の森山 寛嗣氏。
「先日沖縄で開催されたFPT'18では、自動運転系コミュニティの競技会が行われていたのですが、そこでは弊社でも提供しているDigilent社のArty A7やZedBoardなどが使われていました。これが今後はUltra96-V2に移ってくるのかなぁ、という感じですね」と、イベントでの模様を語ったうえで、FPGAボードの使われ方そのものも変わってきたとし、「もちろん本業でFPGAを使って開発されている方が、『ちょっと触ってみようか』ということでUltra96-V2を試してみるというパターンが多いのですが、PYNQ-Z1でPythonを使えるようになったことで、ソフト開発者の方がいろいろ試してみる、という話が出てきている」と所感した。
またアヴネット ザイリンクス事業本部 エンジニアリング部 1課 主任の中村 達也氏は「HLS(High Level Synthesis)に関してはXilinxがMPSoC以前でいろいろとやっていたので、こうしたものを試したいというユーザーが次第に増えています。私自身もソフト設計者向けにSDSoCを使うことで、ハードの設計をしなくてもツールが勝手にハードウェアアクセラレーションしてくれるんだよ、という話をしています。あるいは機械学習などを試してみたいという場合に、とりあえず試すのにいいよね、という話を聞くようになりました」とユーザーの動向を教えてくれた。
情報について
Ultra96-V2の場合、「とりあえず動かしてみる」ための敷居が、従来に比べて極端に低い。説明するよりもこちらの導入ガイドを参照するのが早いが、最低限のキットの他にAC電源アダプタ(とPC)があれば立ち上がる。
こうした情報は、Avnetからも発信されているが、実は草の根の情報に助けられているところが多い。
森山氏も「いまUltra96で検索を掛けると引っかかるコミュニティの方は、ほとんどが実践勉強会に参加して下さった人なんですね。で、お話をしていくと、自分でモノを作って、こんなことをやりました、という発信力を日本でももっとつけないといけない、という話になってくる。そこをもう少し何とかしていきたいということで、弊社も何か協力できることがあれば、貢献していきたいと考えています」と草の根のパワーでUltra96が盛り上がっていることに非常に感謝しているとのことだ。
またAvnet自身も昨年11月から「はじめてのUltra96」というトレーニングを開催している。
これを担当するアヴネット マーケティング統括本部 半導体第3事業部 第2エンジニアリング部 AE課 課長の松本 康明氏は「もともとUltra96がリリースされるという話があったとき、『とりあえずどんなボードなのかを知りたい方が多分いらっしゃるだろう』ということで、2018年9月に東京と大阪で1回ずつ、無償で2時間のUltra96のセミナーをやってみました。そのときは東京で40人弱、大阪でも20人弱の受講者が集まり、このときは本当に紹介のみの内容だったのですが、その2時間セミナーをベースに演習などをつけ加えた本格的なトレーニングを11月から始めました」とトレーニング開催に至る経緯を教えてくれた。
また今年9月には「Ultra96を使ったMPSoCソフトウェア開発入門」「Ultra96を使ったMPSoC用Linux入門」「Ultra96を使ったMPSoCハードウェア開発入門」の、3つのトレーニングが新設されるという。
これらは東京、大阪でそれぞれ月に1回ずつ開催を予定しており、すでに申し込みを受け付けている。人気のUltra96に興味のある方にはぜひ、チャレンジしていただきたい。
なお、来年3月までの受講であれば早期割引で2万8千円(2クレジット : 2TC)だが、4月からは受講料が倍の5万6千円になる予定とのこと、検討する場合は早めの申し込みをおすすめする。
現在申し込み受付中のトレーニング
「はじめてのUltra96」トレーニングへの申し込みはこちら
「Ultra96を使ったMPSoCソフトウェア開発入門」への申し込みはこちら
「Ultra96を使ったMPSoC用Linux入門」への申し込みはこちら
「Ultra96を使ったMPSoCハードウェア開発入門」への申し込みはこちら
サポート
ボードに関するサポートは?というと、もちろん第一義的にはAvnetで行い、このうちデバイスに関わる問題が出た場合、それぞれのベンダー(FPGA自身ならXilinx)からの回答をもらうという形になる。
Avnetが提供するXilinx製品に関する技術的な問い合わせ窓口
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Avnetでは、傘下の"/ZedBoard"コミュニティのなかでUltra96も取り扱っているが、この部分は今のところ草の根コミュニティに頼るところが大きいという。
ではAvnetのサポートからは何も期待できないのか?というとそういう訳でもない。
アヴネット ザイリンクス事業本部 エンジニアリング部 2部 課長の安喰 俊和氏は「弊社の場合、特に(環太平洋&アジア)地域との繋がりが非常に強いので、他の国での事例というのをお互いに共有しています。今後はそういう事例を多く紹介していくことで、『あんなこともできる、こんな使い方もある』というのを積極的に情報発信していきたいと思っています」と各地域のリージョンと連携したサポート体制を紹介してくれた。
ちなみにサポートについては、Vivadoがリリースされたあたりから、質・量ともにドキュメントが充実してきており、その点においても開発者の負担が軽減されているのではないかということだ。
最後に、Ultra96-V2は評価ボードであり、これまでFPGAを触ったことのないソフトウェアエンジニアなどへ向け、裾野を広げるためのツールであること。ユーザーのアプリケーションを柔軟に実現できる開発評価ボードであることを強調し、話を締めくくった。
[PR]提供:アヴネット