家庭内のWi-Fiブラックスポットの問題は、無線帯域幅の一部をメッシュネットワークノード間の接続に割り当て、無線ローカルエリアネットワーク(WLAN)の範囲を拡張するWi-Fi 6メッシュアクセスポイントによって、ほぼ解決されています。ただ、この方法は家庭内の多くの状況や小規模なオフィスでは有効ですが、完璧な解決策とは言い難いのが現状です。

より大きな建物では、Wi-Fi 6メッシュアクセスポイントでも一部の車庫、副次的住戸、屋外に確実に電波を到達させるのは難しいと言えます。そのため、遠隔ロックシステムや防犯カメラなど、IoT機器への信頼性の高い接続が制限されます。

将来のIoTアプリケーションを実現するためには、現在のWi-Fi規格の通信距離の制限を克服することが大きな課題となっています。通信距離の制限は、単純な物理法則に起因しています。Wi-Fi 4、5、6は、2.4GHzと5GHzの周波数帯で動作し、最新のWi-Fi 6Eでは6GHz帯が追加されました。これらの高い周波数帯は、より広いチャンネルと高速なパフォーマンスを可能にしますが、低い周波数帯はより良いカバー範囲とペネトレーション(透過性)を実現します。そのため、Wi-Fiメッシュシステムを含む今日のWi-Fiネットワークは、高い周波数帯の範囲制限にさらされています。

「Wi-Fi HaLow」は、IEEE 802.11ah規格をベースにWi-Fi Allianceが認定した最新の無線プロトコルです。Wi-Fi HaLowは、より低い周波数と狭い帯域幅を使用し、高い周波数で動作する従来のWi-Fiネットワークと比較して10倍長い到達距離を実現します。Wi-Fi HaLowは、特に非構内環境における新しいIoTの展開において、Wi-Fiメッシュを不要にする一方で、Wi-Fi 6、または近々登場するWi-Fi 7メッシュテクノロジーと組み合わせた場合にも次の重要な利点を提供します。

1. 電波の届きにくい場所に向けた二次ワイヤレスバックホールの提供

Wi-Fi HaLowは、Wi-Fi 4、5、6などの他のWi-Fi規格と比較して、より長距離のデータ伝送や素材へのペネトレーションが可能なサブGHz帯の周波数で動作します。

5GHzおよび6GHzのWi-Fi技術は、近距離のメッシュノード間で数Gbpsのバックホール・リンクを提供できますが、Wi-Fiメッシュノードの間隔が離れるとリンクの品質は急速に悪化します。実際、ほとんどのWi-Fiメッシュアクセスポイントのベンダーは、ユニットの間隔を10メートル以下にすることを推奨しており、信頼性の高い接続を保証するために、ユーザーが離れた場所にメッシュノードを設置することは認めていません。

Wi-Fi HaLowは、メッシュアクセスポイントがより遠くまで届くようにし、メッシュノードの間隔が離れていても、より堅牢で信頼性の高いインフラを構築することができます。サブGHz帯のリンクは、二次バックホールとして使用することができ、現在では到達できない場所でもWi-Fi接続を可能にします。

また、チャンネルが狭いため、スループットはWi-Fi 5および6よりも低くなりますが、Wi-Fi HaLowデバイスは30Mbpsを超えるスループットを提供できます。これは、オーディオストリーミング、ビデオ会議、あるいはNetflixをHDで視聴するなど、帯域消費型のアプリケーションには十分な速度となります。

2. Wi-Fiメッシュネットワークを簡素化する「Wi-Fi HaLow」

ワイヤレスメッシュネットワーキングは、様々なノードが協調して信頼性の高い堅牢なネットワークを構築する必要があり、それぞれがワイヤレス・ネットワーキングの動的な性質に対応する必要があるため、本来困難です。Wi-Fiメッシュネットワークは、隣接する他のWi-Fi機器や、Bluetoothヘッドセット、Zigbee電球、Z-Waveセキュリティセンサーなど、家庭内の様々な無線機器からの干渉を受けやすいのです。

Wi-Fiメッシュアクセスポイントのベンダーは、エンドユーザーのためにこうした複雑な問題を隠すために多大な努力を払ってきましたが、それでもノード間の接続が失われたり、断続的になったりした場合には、苦労することになります。例えば、通信距離の問題、トラフィック量、干渉などにより、問題の診断が困難または不可能になることがあります。

ワイヤレス・メッシュ・ネットワークの設定とメンテナンスは、機能的なメッシュに本来依存する高速データプレーンと、ノード間の信頼性と堅牢なリンクを必要とする制御プレーンを分離することによって、大幅に簡素化することができます。Wi-Fi HaLowは、各メッシュノードに独立した帯域外無線を搭載し、マスターと任意のエンドノードとの間で直接通信を行うことができます。これにより、信頼性の高いネットワーク設定、問題の診断と復旧が可能になり、使い勝手が向上し、全体的なWi-Fiの管理とパフォーマンスが最適化されます。

3. メッシュネットワークの未来に備える

調査会社のIDC(International Data Corporation)社は、ネットワークに接続されるIoTデバイスの数が大幅に増加すると予測しています。2025年には400億台を超えるIoT機器が登場し、最大80ゼタバイトのデータが生成される可能性があると予測しています。これらのデバイスをネットワークに接続することは、今後数年間で大きな課題となります。

Wi-Fi HaLowは、IoTを1GHz以下の帯域に移行することで、高い周波数帯域の帯域を解放することができ、低消費電力や通信距離などの利点から、多くのIoT機器への搭載が始まっています。そのため、今メッシュアクセスポイントにWi-Fi HaLowを追加することで、将来的にネットワーク機器を追加することなく、それらの機器を接続することが可能になります。Wi-Fi 6とWi-Fi HaLowの両方を搭載したメッシュノードは、従来のWi-Fiアプリケーションをサポートしながら、IoTデバイスの接続性を強化することができます。

メッシュネットワークの開発とWi-Fiの継続的な進化は、消費者にとって大きな恩恵となっています。在宅勤務、スマートホームデバイスの実現、オフィスでのカバー率の向上、IoTの活用など、標準ベースのアプローチによるネットワークの拡張は、ケーブル配線や追加スイッチのコストを回避し、大きな利益をもたらします。

(次回は5月30日に掲載予定です)