9月にベルギーで開催された半導体洗浄・クリーン化技術に特化した国際シンポジウム「UCPSS 2023」では、51件の一般応募講演のほか、2件の基調講演と3件の招待講演が行われた。

  • UCPSS2023における基調・招待講演

    表1 UCPSS2023における基調・招待講演 (筆者作成)

基調講演の1件は、筆者が31年前の第1回会議で基調講演した縁もあり、「半導体クリーニング技術の過去・現在・未来」と題して、1947年にトランジスタが発明されて以降の75年間におよぶ半導体表面清浄化の歴史についての解説を行った。金属汚染は半導体産業の黎明期から問題になってきたが、日本で1MビットDRAMの量産立ち上げがなかなかうまくいかなかった1980年代にパーティクル(異物微粒子)対策が大々的に行われた後、1990年に入っての化学(分子状)汚染、特に有機汚染の顕在化などを経て現在に至っている。この間、これらの微小・微量汚染検出手法やウェハへの付着防止策、汚染除去手法が多種多様に開発され実用化してきた。

半導体洗浄技術のホットな挑戦的な課題

現在から将来に向かう挑戦的課題としては、以下のようなものが挙げられる。

  • 複雑化する3D構造のロジックトランジスタやメモリ構造の高アスペクト比回路パターンや閉鎖空間のエッチングおよびクリーニング
  • 3D NANDプロセスにおけるSiO2に対して選択性の高いSiNの枚葉エッチングおよび洗浄
  • Gate-All-Around(GAA) FETにおけるSiナノシートに対して高選択性のSiGeの枚葉エッチングおよび洗浄、SiGeのGe含有量によるエッチングレートの制御
  • Ge/III-V/2D材料を含む非Siチャネル材料、Co/Ru/新合金などの先端ロジックICの新しいメタライゼーション材料、MRAMやPCRAMなどの新しいメモリ材料の洗浄と表面コンディショニング
  • ウェハ表面の非常に小さなナノ粒子を、材料損失と物理的損傷の両方なしに検出・除去
  • 表面張力のない超臨界CO2や、乾燥工程を必要としないドライ洗浄を用いたパターン倒壊のない高アスペクト比垂直構造の洗浄・乾燥
  • EUVマスクやペリクル膜の洗浄
  • SDGsに適応するために、化学薬品や水の使用量削減やドライ洗浄による環境配慮型ウェハ洗浄

これら精密洗浄の課題を研究への挑戦や新たなビジネスへのチャンスととらえて、デバイスメーカー、装置メーカー、薬材メーカー、およびアカデミアの相互協力により、半導体洗浄技術(むしろ表面状態制御技術と呼ぶべきだろう)の今後の進展が期待されると話を結ばせてもらった。

ナノシートベースのトランジスタのエッチングがカギに

もう1つの基調講演は、ベルギーimecの最先端ロジックプロセス研究者であるHans Mertens氏によるもの。「最先端CMOS微細化のためのナノシートベースのトランジスタアーキテクチャ:狭い空間のウェットエッチとガスヘーズエッチの挑戦」と題した講演であった。

従来の半導体の微細化は、単に回路パターンを比例縮小(Scaling)することを意味していたが、近年は微細化するとかえって電気的特性が劣化してしまうようになり、これを補うために、ロジックデバイス構造は従来のプレーナー構造からFinFET構造、さらにはGAA構造へと変化しつつあり、さらには数十年に渡り慣れ親しんできたデバイスを構成する材料そのものも新たな材料に変えて性能向上と低消費電力化を継続させてきた。すでにGAAナノシートFETは実用化段階にあり、将来の実用化に向けてフォークシートFET、CFETなどさらに複雑な3Dトランジスタ構造のデバイスが研究開発されている。

これらのナノシートベースのアーキテクチャの製造に共通する課題は、高アスペクト比の狭い空間のウェットあるいは気相エッチングの最適化であり、現在、imecではこの問題に取り組んでいる。ウェットで行くかドライエッチングにするかを含めて検討中であるとした。

  • ナノシートベースのロジックトランジスタのロードマップ

    図1 ナノシートベースのロジックトランジスタのロードマップ(出所:imec)

3D構造には等方性選択的気相エッチング

3件の招待講演のうちの1つは、米Applied MaterialsのNitin Ingle氏による「3D構造における選択的気相エッチング」と題したもの。微細デバイス構造の3次元化(図2)にともない、エッチングが従来のRIEから選択的等方性エッチングに移行するとともに、ダメージのないドライエッチングの必要性が高まってきていると指摘した。

  • 3次元化するロジック、NAND、DRAMデバイスおよび裏面配線構造

    図2 3次元化するロジック、NAND、DRAMデバイスおよび裏面配線構造 (出所:Applied Materials)

残り2件の招待講演のうちの1つはimecのZ. Kokie氏によるBEOL工程の動向解説、もう1つがフィンランドTurk大学のP. Laakkanen教授による、ウェット処理した水素終端シリコン表面および超高真空中のシリコン表面の原子レベルの化学的、構造的性質についての論文レビューとなっていた。

なお、開催前日にはチュートリアル(初心者への教育的講義)も実施され、「半導体洗浄のサイエンスとテクノロジ」(imec)、「金属汚染の除去」(imec)、「マイクロエレクトロニクスにおける腐食対策」(STMicroelectronics)、「先端技術ノードのCMP後洗浄」(米Lewis大学)の4件の講義が行われた。

次回は、注目を集めた一般講演を取り上げ、その解説を行う。