インフレが抑えられ、金利が安定に戻っても、米ハイテク企業のレイオフが続いている。2021年に人員削減が始まった時には、景気減速に備えた間接費の削減と見られていたが、それにとどまらない。最近のレイオフ・ラウンドは長く続いた雇用バブルからの方針転換を示している。→過去の「シリコンバレー101」の回はこちらを参照。

Spotifyが黒字報告の直後に人員削減を発表

ダウ平均、S&P 500が史上最高値を更新し、テック企業の23年10〜12月期の業績報告は軒並みアナリストの予想を上回った。しかし、年初から、Amazon、eBay、Google、Salesforce、Twitch、PayPalなど、技術産業における人員削減の発表が相次いでいる。

通常、ビジネスが好調な時期には、雇用主が従業員を確保しようとするものだが、現在の技術産業の動向は必ずしもそうでないことを示している。2023年12月に、Spotifyが1年半ぶりに黒字を報告した直後に約17%の人員削減を発表した際には多くの驚きの声が上がったが、そのようなレイオフが今や珍しいことではない。

  • Apple:売上高2%増、純利益13%増
  • Amazon:売上高14%増、純利益 約38倍
  • Meta:売上高25%増、純利益 約3倍
  • Microsoft:売上高18%増、純益33%増

テック大手の2023年10〜12月期は、売上高に比べて純利益の伸びが顕著である。これは、コロナ禍の巣ごもり需要からの反動、利上げによる景気減速に備えて2021年に始まったリストラや調整の効果が現れたものだ。

当時は、景気が回復すれば雇用も戻るとの楽観的な見方がされていた。しかし、業績が向上してもさらなる削減が続いており、最近のレイオフ・ラウンドはテック産業の雇用動向の変化を示し、シリコンバレーでは長く続いたパーティーの終焉を覚悟する声が広がり始めている。

  • 2022年にオープンしたGoogleのBay Viewキャンパス

    2022年にオープンしたGoogleのBay Viewキャンパス

人材をポケモンカードのように集めている?

ここ数年のテック産業の雇用がどのようなものだったのか、例を1つ紹介すると、昨年3月に元Meta従業員が投稿したTikTok動画が話題になった(現在は非公開)。

投稿者によると、Metaに入社して配属されたグループでは仕事がなかった。新しい何かを創造する自由な時間を与えられたわけではない。特定の業務のために雇われたものの、その業務にはすでに十分な労働力が割り当てられていて、出社してもやる仕事がなかった。

そこで、社内で別のキャリアを築けるように行動しようとしても上司の許可を得るのが難しく、「(競合他社に取られないように人材を)ポケモンカードのように集めていた」というのが彼女の見解だった。

過去およそ10年以上にわたって、米テック企業は、さまざまな優位性の恩恵を受けてきた。低金利時代の安価な資本、スマートフォンの普及に伴うモバイル市場の拡大、そして寛大な規制環境が歴史的な富と権力の集中をもたらした。勝者総取りの競争の中で成長を最優先し、市場での優位性を確保するために大胆な投資を行ってきた。

その結果、必ずしも必要ではない労働力の過剰雇用が見られた。しかし、そのような状況を永遠に続けられるわけはなく、利上げによる資本コストの上昇とともに、これまでの運営スタイルを見直さざるを得なくなっている。

レイオフは将来の収益につながる効率性を追求する試み

現在のレイオフは、単にコスト削減のためだけではなく、将来の収益につながる効率性を追求する意図的な試みである。好業績の中でさらなるレイオフに踏み切った最初の企業がSpotifyだったというのは偶然ではないだろう。

Spotifyは、音楽ストリーミングでApple Musicとトップを争う人気サービスだが、そのビジネスモデルは構造的に収益を拡大するのが難しい。音楽やオーディオコンテンツを配信するインフラを提供し、収入の大部分はロイヤリティという形で音楽レーベルやアーティストに支払われる。そのため、今日のように新規事業への投資が難しい状況において、収益を向上させていくには効率性を高める必要がある。

Spotifyのダニエル・エクCEOは、人員削減について説明する従業員へのメッセージで、「本当にインパクトのある機会に貢献するより、仕事のサポートや、仕事の周り仕事をすることに専念している人が多すぎる」と述べた。「インパクト」とは利益であり、余剰人員を整理し、人的資本を可能な限り最小限に配分する最善の方法を見つけ出そうとしている。

テック企業の体質改善は投資家から歓迎され、過去2年間においてレイオフは株価を押し上げる要因となっている。Amazon、Google、Microsoftなどの大手企業が、deadweight(企業にとって価値が低い、あるいは生産性が低い要素や人員)の削減を継続する現状は、テック企業が将来の雇用機会の構造を根本的に変えようとしていることを示唆する。雇用機会の減少と労働市場の縮小が今後も続くだけではなく、効率的で生産性の高い運営が新たな標準になろうとしている。

テック大手で楽に高給を得られる可能性があった時代は終わり、労働者は新たな標準に適応できるかが問われている。この1年で解雇された技術系労働者が再就職に苦労するようになった一方で、米国のハイテク部門の求人広告の年収中央値は1万ドル以上も上昇している。高度なスキルを持ち、それをビジネスの提案として捉えられる労働者には高い報酬が提供される一方で、適応できない他の労働者は市場での位置を失っている。