モノ書きプラットフォーム「Medium」が今年1月にMastodonインスタンス「me.dm」を立ち上げ、招待制からスタートして、3月6日に有料サブスクリプション(月額5ドル/年額50ドル)の特典の1つとして提供を開始した。下はそれを報じたThe Vergeの記事のタイトルだ。

Medium wants you to pay $5 a month to join its Mastodon server」(Mastodonサーバーへの参加に月額5ドルの支払いを求めるMedium)。

記事中でもサブスクリプションが月額5ドル/年額50ドルであることを紹介した上で、「Mastodonインスタンスは通常無料で参加できます」とつけ加えている。「Mastodonインスタンスを有料提供するのはどんなものか」と言いたげな論調だ。

だけど、私は無料で使える@mastodon.socialのアカウントを持っているにもかかわらず、Mediumのサブスクリプションを再開した。「me.dm」という魅力的かつ伝えやすいドメインであるのが理由の1つ。Mastodonインスタンス(サーバ)の多くが自発的に運用しているボランティアに頼っている現状のままで、Mastodonの普及はおぼつかないと感じていたのが2つめの理由。そして、Mediumはよく利用しているサービスでユーザーコミュニティとの関わりがすでにあったからだ。

  • 3月時点でMediumのMastodonインスタンスのアクティブユーザーは約8,800人 

Mastodonは分散型の短文投稿SNSだ。イーロン・マスク氏がTwitterを買収し、Twitterの運営に同氏の意向が強く反映されるようになってから、自分達が選択できる自由を求める人達の移行先の一つになっている。Twitter買収直後からMastodonを試す人が急増し、昨年12月時点でアクティブユーザーが約30万人から8倍以上の約250万人に拡大した。

しかし、過去に何度かあったMastodonブームと同じように、分散型サービスの困難さや見通しの不透明さから定着しないユーザーが多く、1月上旬に約180万人、下旬には150万人以下に急減したと報じられている。

Twitterとの違いを簡単に紹介すると、全てがTwitterのサーバで処理される中央集権型のTwitterに対して、分散型のMastodonはいくつものインスタンス(サーバ)のつながりで構成される。メリットの視点でいうと、誰でもインスタンスを立てて自分のサービスを運用でき、または数多くあるインスタンスから自分に適したインスタンスを選べる自由がある。

逆の視点で言うと、どのようにMastodonを利用するかを計画しないと始められない。自分でインスタンスを立てられるといっても、簡単なことではなく、知識もコストも必要だ。そのため、多くの人はどこかのインスタンスに加えてもらってMastodonを利用しているが、このインスタンス選びが悩ましい。

どのインスタンスでも同じというわけではなく、インスタンスにはそのインスタンスの運営者によるローカルルールがあり、狭いコミュニティの中でご近所トラブルが起こることが珍しくない。また、インスタンスの多くは有志によるボランティア的な運用になっているのが現状であり、ある日突然サービスが終了になるということが起こり得る。安心して使い続けていくには自分でインスタンスを立てるのが最善、しかしそれには知識もコストもかかるという、マイナス循環からMastodonは抜け出せずにいる。

The Vergeは無料でTwitterを使えるのに「Mastodonに月額5ドルなんて」と言いたいのだろうが、Twitterが広告ベースの無料ソーシャルメディアであることが今のTwitterが抱える問題の根幹をなしている。今日のMastodonインスタンスは多くが無料で使えるサービスとして提供されているが、今のようにインスタンスを運用する多くのボランティアに頼る現状は持続的とは言いがたい。持続性をいかに確立するかが、Mastodon普及の課題になっている。

MediumのMastodonインタンスは、これまでMediumを使っていこなかった人がMastodon目的で契約すると月額5ドルの負担でしかない。だが、すでにあるMediumのサブスクリプションの新たな特典であり、MediumユーザーにとってはMediumを従来の「Medium+Twitter」以上に便利にしてくれる。Mastodonのローカルタイムラインを通じてMediumのコンテンツに関する議論が広がり、コミュニティユーザーのつながりが面白いコンテンツの発見につながっている。

サーバーのコストをまかなえる持続的な運用が必要なMastodon、広告に頼らない有料サブスクリプション・モデルで収益化を図るMedium、そしてMediumを支援したいユーザーのいずれにも利のある互恵的な仕組みなのだ。

  • コミュニティがMastodonの魅力であり、どこかのインスタンスを利用するなら自分にとって快適なコミュニティを選ぶのが重要

Mastodonにはインスタンスごとに特色や文化があり、それぞれが1つの街のようであるのが大きな魅力である。有料サブスクリプションを提供するサービス、顧客やユーザーとのつながりを深めたい企業やサービス、顧客やユーザーのコミュニティを発展させたい企業やサービスにとってMastodonインスタンスを提供するメリットは大きい。

Mediumのような企業やサービスによる提供が増えることで、Mastodonの中に特色を持った街が増え、私達が自分にとって快適な街を選べる自由が広がる。そうなることで、Mastodonは普及のプラス循環を生み出せる。