より高性能なカメラを求めてスマートフォンのハイエンドモデルを選ぶ人は多いと思う。でも、本当に期待しているような写真を得られているのだろうか? 米国のテック系のトップYouTuberであるマーケス・ブラウンリー氏(Marques Brownlee:MKBHD)がスマートフォンで撮影した写真を並べて「良い」と感じた方に投票してもらう公開ブラインドテストを実施した。約2,120万票が投じられた競争を制したのは、一世代前のPixelをベースとした廉価帯の「Pixel 6a」だった。

  • 2022年7月22日に発売された廉価帯モデル「Google Pixel 6a」

公開ブラインドテストは、廉価帯からハイエンドまで2022年に発売された代表的なスマートフォン16製品を選び、各端末で同じ条件で撮影した写真をスマートフォン名を伏せた状態で並べ、参加者に好みの写真を選んでもらう。

前回まではトーナメント方式で、1回戦「Moto Edge」対「iPhone 13 Pro」というように直接対決を最後まで勝ち進んだ製品を勝者としていた。しかし、それだと上位を争える機種が組み合わせによっては1回戦で消えてしまう可能性がある。だが、総当たりにすると数百回も投票しなければならないので投票者の負担が大きい。そこでイロ(Elo)レーティングを採用。「スタンダード(日中)」「ローライト(暗所)」「ポートレート・モード」の3つのカテゴリーで、ランダムに選ばれた対戦に参加者がある程度投票すると、それが全体のランキングに反映される。16製品の順位がより正確に明らかになるテストになったことで、結果発表が大きな注目を集めていた。

  • 2枚の画像で良いと思う方を選択(左)、投票を繰り返して下の進捗バーが右端に到達したら「Submit(提出)」。その場で、参加者の投票に基づいた投票者にとってのトップ3製品をカテゴリー別に確認できる(右)。

最終結果の総合1位の「Pixel 6a」は、カテゴリー別で3位(スタンダード)、2位(暗所)、2位(ポートレート)と安定して強かった。総合2位は「Pixel 7 Pro」(2位、4位、1位)。今回のテストではGoogleの総合的な強さが際立った。逆に、総合4位の「OPPO Find X5 Pro」(1位、3位、15位)のように、ポートレード以外だったらトップという偏って強い機種もあった。

  • 「The Best Smartphone Camera 2022」のトップ8(MKBHDより)

  • 「The Best Smartphone Camera 2022」のワースト8、最下位は「Xperia 1 IV」だった(MKBHDより)

注目の「iPhone 14 Pro」は総合7位(6位、10位、5位)。「Pixel 6a」が「iPhone 14 Pro」を上回り、同じGoogleの最新ハイエンド「Pixel 7 Pro」にも僅差で勝った。そのため撮影方法がカメラ性能を「適切に表現できていないのでは?」といったようなプロセスを疑問視する声も広がり、ブラウンリー氏は結果を公表した10日後に「What is Happening with iPhone Camera?」という考察動画を公開した。

今日のスマートフォンの写真は、単純にイメージセンサーで読み取って「写す」のではなくコンピューテーショナルフォトグラフィで生成されている。露出や深度などを変えて記録した複数のイメージをAIや機械学習も用いて合成して最高の一枚を作り上げる。ハードウェアとソフトウェアの共同作業であり、ハードウェアに適したソフトウェアがあってこそハードウェアの実力が引き出される。

GoogleはPixel 3(2018年発売)でセンサーに適切なソフトウェアチューニングを見つけ、それから昨年のPixel 6aまで同じ組み合わせを使い続けてきた。Pixel 6aのカメラは4年が経過した古いシステムだが、安定して良質な写真を生み出せる傑作の熟成が進み、それがブラインドテストの総合1位につながった。

Pixel 7シリーズでは、50メガピクセルの新しいセンサーにカメラシステムが刷新された。だが、Pixel 3の時のようなソフトウェアとのマリアージュになっておらず、高画素な新センサーで読み取れるようになった豊富な情報を活かしきれていない。結果、シャープ過ぎたり、不自然なHDRなどオーバープロセス(処理過多)が見られる。それはiPhone 14 Proシリーズも同じで、これまではセンサーを新しくしても12メガピクセルの強化にとどまっていたが、昨年48メガピクセルのセンサーを採用している。

最新の上位スマートフォンでオーバープロセスな画像が生成されることがある問題は特に海外の製品レビューで指摘されていたが、画作りの傾向や好みも影響するため不明瞭だった。MKBHDのブラインドテストは、シンプルにその問題を浮き彫りにした。

ただ、ブラインドテストはシンプルゆえに誤解も招きやすい。

1970年代に米国でPepsiが「ペプシ・チャレンジ」というペプシとコカコーラをブラインドで飲んでもらって好きな方が選んでもらう公開ブラインドテイスティング・キャンペーンを仕掛けたことがある。ペプシを選んだ人が目立って多く、「Pepsiの方が美味い」というイメージが定着してその成功からペプシがシェアを拡大した。

Coca-ColaはPepsi対抗として、1985年に甘さを強調した「New Coke」を投入。しかし消費者に受け入れられずに失敗し、逆にコカコーラ・クラシックと命名したオリジナルテイストで復活を果たす。消費者がペプシを美味しいと思っていたのなら、コカコーラ・クラシックが受け入れられたのは道理に合わない。

後に関係者のコメントで明らかになったのは、数口しか飲まない試飲では甘みの強さが印象に残るということ。ブラインドテイスティングでは、甘いペプシが選ばれる可能性が高かったのだ。しかし、最初に美味しいと思った感覚は続かず、飲み続けるうちにまた別の感想が出てくる。本当の好みは、普段の生活の中でしばらく両方を飲み続けてもらうような継続的なテイスティングを行わないと分からないのだ。

MKBHDのブラインドテストは、スペック表をなぞって「50メガピクセルすごい!」と言っているだけの製品レビューに比べたら、はるかに今のスマートフォンカメラを知るのに役立つ情報を提供してくれる。しかし、それは露出とカラーの自然なバランスの写真を簡単に得られるスマートフォンという一面に過ぎない。スマートフォンのカメラ体験は、解像度、オートフォーカスのスピードや性能、圧縮形式、撮影アプリのユーザーインターフェイスなど様々な要素で構成される。露出やカラーについても、上位スマートフォンのオーバープロセスがソフトウェアの最適化の問題であるとしたら、Pixel 7シリーズやiPhone 14 Proシリーズのソフトウェアが改善されていき、いずれ新しいセンサーを活かしてPixel 6aを上回るシャープで自然な写真を得られるようになるとブラウンリー氏は期待している。

試飲テストには限界がある。継続的に使ってみないと分からない違いもあるのだ。