今年に入って、毎日のようにデータセンターへの大型投資の報道記事があふれている。

その投資額の巨大さにはただ驚愕するばかりだが、投資額を示す数字の単位が以前より大きくなっている印象がある。「循環投資」ではないかと一部から懸念されるAI投資の総額について、最近IMF(国際通貨基金)が発表した資料によれば、投資総額はAI企業の自己資金、株式、社債などの総額で1兆4000億ドル(220兆円)になるという。

半導体分野でも大型の投資案件が増えている。最近発表された、日本の対米投融資の一部で、GlobalFoundries(GF)による米国ニューヨーク州に建設予定の新工場建設の投資総額は最大210億ドル(3.3兆円)だという。私が現役のころと比較して、どうも一桁くらい増加しているという感じだ。今回は、巷にあふれる数字の単位について考えてみたい。

1.データセンターや半導体ファブ建設投資額の数字の単位

巨額の投資額を目にする時、それがどれほどのものかは俄かにはわかりにくい。それを理解する際に目安となるのが、身近な数字との比較である。例えば、日本の国家予算が150兆円程度、あるいは最近「世界第4位から6位に陥落」と話題になったGDPが2027年(予想)で4兆5000億ドル(約700兆円)、などの具体的な数字と比較してみるのもいい頭の体操になる。

日本人にとって厄介なのは$(ドル)と¥(円)の換算が必要となることで、かつては1.00ドル=100円で直観的に計算できたのが、今では円換算すると1.5倍になるので簡単な計算をしなければならない。

ドルの場合、表示がMillion(100万)、Billion(10億)、Trillion(10兆)となるが、ゼロの数で追うとドルの場合は3桁ごとにカンマをふるが、円の場合は4桁ごとで非常に紛らわしいので、私は報道を見て頭が混乱してくると下記のような対照表を使うことにしている。

  • 円/ドル対照表

    円/ドル対照表 (著者作成)

数字の単位が大きくなっていくのはデータセンターの投資額だけではない。スーパーコンピュータ(スパコン)の計算能力も年々飛躍的に伸長している。

スパコンの計算性能を示す単位には主にFLOPS(一秒間に実行できる浮動小数点演算の回数)で表現されるが、黎明期に活躍した米国のコンピュータ設計者のSeymour CrayがCDC(Control Data Corp.)社やCray Computer社で開発したスパコン性能の単位は初期のメガ(100万回)FLOPSから、1970年代にはベクトル演算方法の導入でギガ(10億回)FLOPSの時代に突入した。スパコンの開発技術を主導したCray氏の功績は、現在でも優れたスパコン設計者に送られる「SeymourCray賞」としてその名を残している。

その後、1990年代にはCPUにIntelやAMDの汎用CPUを大量に連結するクラスター接続がトレンドとなり、専用プロセッサーの開発費を汎用CPUの数に振り向けることにより性能はさらに向上、テラ(一兆回)FLOPSの時代を迎えた。その後、日本のNECが中心となって開発した専用ベクトルプロセッサーを使用した「地球シミュレーター」とも呼ばれるスパコンが登場し、暫くテラFLOPSの時代の頂点を維持したが、2008年にIBMが発表したスパコン「Roadrunner」がペタ(1000兆回:10の15乗)FLOPSレベルを達成し、ペタの時代を迎える。

ペタ時代では、日本の産総研が2011年スパコン「京」を発表した(京は10ペタ)。この頃には、日米のスパコン開発競争に中国が積極的に参入、開発競争はさらに過熱する。

2020年台になって、スパコンには新たなトレンドの波が押し寄せた。純粋な科学計算に必要な倍精度浮動小数点演算に加えて、AI処理に多用される低精度演算(AI FLOPS)の重要性が増し、ピーク性能値はいきなり上昇し、現在では次の大台であるExa/Zeta FLOPS(Exa:18乗、Zeta:21乗)時代に突入している。

今年の米国展示会CESでは、AMDのCEO、Lisa Suが基調講演で「今後5年間で世界が必要とする計算能力は10ヨタFLOPSに達する」と発言して注目を浴びたが、このYOTA(ヨタ)というのは、ゼタの次に控える数字の単位で、アラビア数字で表記すると「10の24乗」というとんでもない数字である。こうした背景を踏まえて、国際度量衡協会(CGPM)は2022年にさらに大きい単位を2つ加えた。10の27乗を表す「ロナ(RONNA)」と10の30乗を表す「クエタ(QUETA)」である。想定されているのは、世界中のデータ総量とか惑星の重さなどだという。この辺になると、天文学的ロマンさえ感じるまったく持って大きな数字である。

  • 巨大数の日/英対照表

    巨大数の日/英対照表 (著者作成)

2.半導体の製造工程や性能に関する数字の単位

その大きさが重要視されるのがデータセンター投資やスパコン性能であれば、その小ささが重要視されるのが半導体微細加工技術である。業界では「デザインルール」と呼ばれるこの値は大雑把に言えば半導体シリコン上に刻む回路線幅のことだが、これは小さければ小さいほど価値がある。

現在量産可能な微細加工はTSMCの2nm(ナノメーター)ルールであるが、こちらもその技術の発展速度は凄まじい。私が現役時代だったほんの20年前までは、デザインルールの単位は主に「μ(ミクロン)」であった。1μは「1mmの千分の一」で、2000年初頭は「サブミクロン時代」、すなわち1μm以下の数字で、ロジックプロセスで言えば0.8μmから始まって、0.65/0.35μmへと急速に進化していった。

その当時私はAMDでプレス対応の仕事をしていて、「これらの聞きなれない数字の単位を卑近な例で説明するとどういうことになるのか?」という質問をたびたび受けていて、米国本社の知り合いのエンジニアに簡単な計算をしてもらった。

その時の答えが「例えば、0.35μmというのは昆虫採集の標本に使うピンヘッド位の面積に、ニューヨーク市街地図をストリート名まで刻銘に印刷できる技術だ」、という解かりやすい例えをもらったのでその表現を多用した(その正確さは定かではない)。ともあれ、サブミクロンの時代はとうに過ぎ去って、現在では微細加工の表現に「μ(ミクロン)」を使う事はない。最先端「2nm」のナノメーターはミクロンの千分の一だから、その世界はとんでもない微細の世界であることが伺える。その先はと言うと「Å(オングストローム)」であるが、これは分子/原子レベルの単位で、前述の国際度量協会(CGPM)では正式に認められたものではないが、スウェーデンの物理学者の名前に因んだ科学界内での便宜的な単位らしい。この微細加工技術の進展でもたらされるのは、シリコンチップに集積されるとんでもない数のトランジスタ数だ。現在、最も複雑なロジック半導体チップと目されているNVIDIAの「Vera Rubin(CPU+GPU)」には6兆個のトランジスターが集積されているという。

Intel 80386(通称i386)の互換CPUとしてAMDが1991年に発表したAm386チップのトランジスタ数は約40万個であった。Intelからの設計情報に頼らず、80386チップの拡大写真から目視で割り出したロジック設計で独自設計したといういわくつきのチップだが、もはや古き良き時代の思い出になっている。

  • Am386

    Intelのi386の互換CPUとしてAMDが開発したAm386 (編集部撮影)

  • i386

    AMDがAm386を開発するにあたって、拡大したダイ写真から設計を導き出すことになったi386 (編集部撮影)

こうしている今現在でも半導体技術は常に「その次の単位」を目指している。