景気後退の予兆が世界経済を覆う中、半導体の市況も急激に減速している。第3四半期の各社の決算が明らかになる中、Intelの不調が目立った。
2025年末までに最大100億ドル(約1.4兆円)のコスト削減を発表したIntel
昨年までの供給不足が嘘のように、流通在庫が積みあがる現況を反映して、Intelの第3四半期の決算はかなり厳しいものになった。好況と不況のサイクルを繰り返す半導体市場ではいつものことではあるが、前年同期比で売り上げが20%、純利益が85%減という今回のIntelの業績を見ると、Intelが市場全体の状況に加え下記のような同社特有の問題を抱えているという印象がある。
- パソコン用のCPU市場で圧倒的なシェアを誇るIntelであるが、世界的なPC市場の退潮の影響をもろに食らった。CEOのGelsingerはインタビューでCPUの流通在庫は下降傾向にあり、第4四半期から持ち直すだろうと語ったが、厳しい目を向けるアナリスト達の反応は冷ややかだ。PC市場で競合するAMDはかつてIntelが支配していた高価格帯製品市場を侵食している。Intelは値上げを発表しているが、市場に受け入れられるかは未知数である。
- なんといっても大きな問題はIntelのこれまでの驚異的な利益率を支えてきたサーバー用CPU市場で競合AMDにシェアを着実に奪われていることである。この事実はGelsingerも認めるところで、「サーバー市場でのシェア奪回の可能性は将来製品のでき次第だ」と、かつてのIntelを知る人間には信じがたい弱気な発言も飛び出した。
- IDM 2.0と称する受託生産事業への本格参入という大プロジェクトを進めるIntelは巨額の設備投資を果敢に進めていて、コスト削減を徹底し収益改善を図る構えだ。
1.4兆円という巨額のコスト削減は、かたや設備投資を加速する中で並行して行われるため、大きな人員削減は避けられないであろう。しかし、先端微細加工技術でTSMCやSamsungに大きく後れを取るIntelは、開発部門の人員削減はなんとしても避けたいところなので、対象となる部門は営業・マーケティングと管理部門ということになり、Intel営業の前線を支える各国の拠点でのモラル低下は大きな問題となりそうだ。今後は製品ミックスの大幅な変更なども視野に入れたコストカット策が出てくる可能性は十分にある。
社内ファウンドリ事業モデルの導入の発表をしたIntel
来るべきIDM 2.0に向けて設備投資を果敢に進めるIntelだが、決算と時を同じくして受託生産のキャパシティーの一部を内製品の生産に振り向けるという発表もしている。
今までの発表では、自社製品生産とファウンドリ事業を切り離して各々が独立した事業となるという説明であった事から考えると、大きな戦略変更がなされた印象がある。今回発表された大規模なコスト削減は人員カットだけでは到底可能ではないので、今後の設備投資削減の一環であるとも考えられる。
2017年にIntelが2兆円以上の価格で買収した自動運転技術のMobileyeは、10月26日(米国時間)にIPO(新規株公開)が行われた。これについて質問されたGelsingerは「資金調達のためではなく、あくまでIntelが将来的に自動運転分野に打って出るための準備」と答えているが、Mobileyeの企業評価額は当初伝えられていた水準の3分の1以下になっており、タイミングの悪さは否めない。CEO就任2年目になるGelsingerはあくまで当初の計画の初志貫徹を目指しているが、巨額の設備投資を進めるIntelのファウンドリ事業には下記のような懸念が論じられている。
- 先端デバイスの顧客はTSMCのプロセス技術に慣れている。これらの顧客がIntelのプロセスに移行するためには大きな負荷がかかる。すでにプロセス技術でTSMCから2世代遅れているIntelは、顧客に対しその負荷を補ってまで移行する価値を提示することができるだろうか?
- 今までのIntelのウェハサイクルは高性能CPUの大量生産にチューンアップされてきている。多くの顧客を相手にするファウンドリ事業では実に多種多様なウェハサイクルに対応する必要がある。この経験を持つ人材は現在のIntelにはない。
- 社内ファウンドリ事業モデルの導入により、顧客はキャパシティをめぐってIntel製品の競合となる。Intelの自社ブランド製品の市場における主導権が問われている現在から考えると、Intel製品よりも優先順位が高い顧客は生まれにくい。
足元に大きなチャレンジが迫っているGelsinger率いるIntelの今後は相当な困難を伴う事が予想される。
見事なタッグでIntelを突き放すAMD/TSMC
Intelから1週間後に決算を発表したAMDの好調ぶりは株価の上昇につながった。Intelとガチ勝負をするAMDはIntelとの明確なコントラストを印象づけた。半導体市場全体の影響を受けてはいるものの、データセンター部門の売り上げは前年同期比で45%増加し、40%減収となったパソコン用CPUのビジネスを補って全体を支えた。突出して利益率が高いサーバー市場で引き続きIntelのシェアを奪っているのが大きな原動力になっている。
製品サイクルが長いサーバーCPU市場では、一旦セットされたトレンドはそう簡単には翻らない。これは前述のようにIntelのGelsinger自身が認めていることだ。AMDはさらに新たなサーバーCPUの発表を控えておりその勢いには減速する気配がない。また台湾メディアの報道によると、AMDと強力なタッグを組むTSMCは、アリゾナ州の大規模な5nmベースの新ファブの建設を続ける中、その隣接地に第2棟目のファブを建設する計画があるという。また1.4nmの最先端プロセスを移植したファブを新竹に建設、2027年の量産を目指すらしいと言った報道もされている。
設計と生産を切り分ける半導体ファブレスモデルの優位性を見せつけるAMD/TSMCに垂直統合のIDMモデルでもって挑戦するIntelの今後は引き続き業界全体の関心事だ。