大廃業時代を迎える日本

大廃業時代を迎えていると言っても過言ではない日本。年間4~5万社の中小企業が休廃業・解散する実態がある。→過去の回はこちらを参照。

中小企業庁が発表した「事業承継ガイドライン」によると、廃業予定企業の約30%は「子どもがいない」「子どもに継ぐ意思がない」「適当な後継者が見つからない」といった後継者難を廃業理由として挙げる。

また「事業承継の意向がない」「事業に将来性がない」はあわせて全体の67%を占めるが、事業に持続可能性を持つ企業が廃業を余儀なくされていることが読み取れる。

同庁の資料「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」でも後継者不足の実情がわかる。それによると、70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は2025年までに約245万人となり、うち約半数の127万人が後継者不在だというのだ。このように後継者不足で廃業する企業が少なくない昨今、事業承継が活発に行われるようになって久しい。

「事業承継というと莫大な資金を要するイメージを持つ方もいたと思いますが、ハードルが下がっています。例えば、町工場のように機材をたくさん持つ会社の場合、承継者に0円で譲渡するようなケースもあります。丸々譲渡すれば機材の処理費用を用意しなくて済むから、というような理由です」

こう語るのは事業承継マッチングプラットフォーム「relay(リレイ)」を展開するライトライト代表取締役 齋藤隆太さん。

  • SDGsビジネスに挑む起業家たち 第7回

    ライトライト代表取締役の齋藤隆太さん(内容や肩書は2022年7月の記事公開当時のものです)

2020年7月にローンチ(当時はβ版)されたrelayの最大の特徴は「オープンな事業承継」を掲げ、これまで事業承継のマーケットで取り残されていた小規模事業者を支えているところだろう。齋藤さんにrelayのシステムやrelayを通じて実現したい世界について話を聞いた。

取り残されてきた小規模事業者を支える

2019年ごろに独立を考え始めた齋藤さんは、事業承継をビジネスアイデアの1つに持っていた。きっかけは「地元で閉じゆく名店」を取り扱った特集番組を目にしたことだった。とある山間部の蕎麦店へ閉店を惜しむ客が駆け込む映像を見て、感動と同時に違和感もあったと振り返る齋藤さんは、もう少し早い時期に店がメディア露出していれば、承継希望者も出てきて、閉店に至らなかったのではないかと考えたのだ。

「有名店であればSNSで情報が回ってきてもおかしくありませんが、少なくとも自分のところまでは届いていませんでした。他にもテレビや新聞の報道で、同じように『閉じゆく名店』を見る機会が何度かあり、事業承継について調べたんです。その過程で、売り手情報非開示の原則が事業承継の阻害要因になっているのではと仮説を立てました。この問題をどうにかできないかと考えるようになり、relay立ち上げに向けて動き出したのです」(齋藤さん、以下同)

事業承継支援に際し、売り手情報の非開示は一丁目一番地ともいえるルール。売り手情報が表に出ると、従業員の離職につながる、取引先や金融機関に迷惑がかかるとの認識が根強くある。だからこそ売り手情報は機密情報として管理すべきで、表に出すなんて言語道断と考えられてきたのだ。

しかし、売り手情報を非開示にすることは、知る人の多い大手事業者にはメリットが多い一方で、知名度の低い小規模事業者にとっては事業の本質が伝わりづらいデメリットがある。

そこで、齋藤さんはrelayで扱う対象を家族経営の企業や取引先が限定された企業などの小規模事業者に絞り込んだ。「後継者がいない」「取引先が多くはない」「金融機関からの借り入れもない」--。この3点は彼らに共通する傾向であり、彼らにとって売り手情報の開示リスクはほとんどない。

売り手情報をオープンに

ここでrelayの仕組みを詳しく紹介したい。relayで後継者の募集をかける際、まずは事業譲渡したい企業(譲渡者)に対してrelayが取材を行う。

現場にプロのライターと写真家が出向き、企業の歴史やストーリー、譲渡者がどんな想いで事業や店舗を営んできたかなどを取材したうえで、事業の持続可能性や共感性を掘り起こして記事化。relayに所属する元出版社勤務の編集者が訴求力の高い文章に整え、relayに掲載し、SNSやイベントで拡散する。

記事は誰でも読めるが、譲渡者に興味を持った承継希望者は、閲覧料を払うと営業情報・財務情報を見られるようになる。

それらの情報を見た承継希望者が引き続き譲渡者に興味を持っている場合は応募し、面談・交渉へと進む。成約し、事業承継が決定した場合、承継者はライトライトに対し、成功報酬として譲渡金額の3%(最低金額は30万円~。0円譲渡の場合も30万円)を支払うが、譲渡者の手数料は0円である。

「一般的な事業承継マッチングプラットフォームでは、承継希望者が譲渡者の財務状況を確認してから交渉が始まります。relayでははじめは財務情報を見せず、売り手の顔が見える情報だけを見せますが、それだけで売り手と買い手をマッチさせると、財務状況を知ったときに買い手が引いてしまう可能性があります。それを避けるため、私たちが譲渡者にヒアリングして独自でまとめた営業情報・財務情報を販売しているのです。既存のやり方とは真逆のやり方をとっています」

relayでは売り手に一切費用がかからない設計にしているのも特徴的だ。通常は数十万円かかる価値算定も無料で概算を提示する。一方、現状では譲渡者が後継者を探そうとすると、取引金融機関や税理士、仲介会社などの専門家に相談し、進めていくのが一般的だ。

その際に相談料や着手金、価値算定料、中間金、成功報酬などがかかり、譲渡者が抱える金銭的な負担は大きい。事業承継をしたくても踏み出せない事業者は少なくないのだ。「どんな事業でも後継者を気軽に探せる未来を作るため、業界構造を変えていきたい」と齋藤さんは語る。

望まない廃業をなくし、持続可能な地域・産業の発展を

これまでrelayでは、さまざまな業種の小規模事業者を掲載してきた。技術や伝統などの無形物や居抜き物件など、旧来の感覚では「これも事業承継なの?」と思うような事例もあるが、事業承継の範囲を広げることで、より多くのマッチングが生まれることを期待しているのだ。

また、事業内容をそのまま引き継ぐよりも、柔軟性を持たせることが重要で、一口に事業承継と言っても、時代の変化に合わせて承継する部分を変えることが、承継者にも譲渡者にも地域にもプラスに働くケースがある。

一例を挙げてみたい。2021年3月に閉店した宮崎県高原町の「山下書店」は、relayでのマッチングを機に2022年4月「Cafeみなづき」に生まれ変わった。

同書店は1955年に創業し、商店街の一角で街を賑わせていたが、少子高齢化や電子書籍の普及などで売上減となる中、70代を迎えた店主は閉店を決めていた。その後、山下書店がrelayに譲渡希望者として登録したときのことを齋藤さんはこう振り返る。

「店主の尾上さんとお会いしたとき『商店街にシャッターを増やすのが忍びない』とおっしゃって……。60数年に渡って営業してきた町唯一の書店が、申し訳ないという思いで店を閉じるなんて悲しすぎると思いました。尾上さんの意向で書店機能はなくしたものの、カフェで図書館の本を置いたり、文房具を販売したり、児童に無料開放する学習スペースを設けたりと、“本”という要素は残し、事業承継の新しい形を体現できた事例です」

このようなエピソードをふまえると、事業承継はSDGs目標8の「働きがいも経済成長も」と11の「住み続けられるまちづくりを」と密接に関連していることがわかる。

齋藤さんが特に意識するのは「11.a 各国・地域規模の開発計画の強化を通じて、経済、社会、環境面における都市部、都市周辺部及び農村部間の良好なつながりを支援する」だという。

例えば、ある村で営業していたパン屋に後継者がおらず、店を閉店するとなると、周囲に住む人々はパンを買うために隣町まで行かなくてはならない。特に過疎地では公共交通機関がなかったり、あっても本数が極端に少なかったりと、移動がままならない。

高齢になり運転免許を返納した人もいる。そうなるとパンを買いたくても買いに行く手段がなくなる。地域住民のインフラとなるような店や事業所の営業継続を、事業継承を通じて支援することをrelayは目指している。

地元に戻って地域活性に取り組む人を増やしたい

  • SDGsビジネスに挑む起業家たち 第7回

齋藤さんは2008年にサーチフィールドを創業し、2012年に地域×クラウドファンディングサービス「FAAVO(ファーボ)」をローンチしている。

「都市部に出た地方出身者と地方をつなげる」とのコンセプトのもと、FAAVOを運営していたときから、東京の一極集中にアプローチしたい気持ちが強くあった。その考えはrelayを運営する今もぶれることはない。

都市部で働く地方出身者にrelayを見てもらい、興味を持った地元企業の事業承継を行い、経営者になってUターン/Iターンして地元に戻り、地域を活性化させてほしい--。

これが齋藤さんの掲げる理想だ。そのためにもrelayに掲載する事業者(譲渡者)を増やしていくことを考えている。今や事業承継は転職やゼロイチの起業と並ぶキャリアパスの一種となっていることから、売り手:買い手は1:9で買い手の方が遥かに多いからこそ、売り手を発掘し続ける必要がある。

現在掲載している事業者の半分はライトライトから直接声かけをしているが、残りは民間のパートナー企業や関連する自治体、地域の事業承継センターなどからの紹介経由だという。SNSで出回る閉店情報も参考にしている。

また、事業承継を促進させるべく、事業承継業界における統一プラットフォームを作ることを検討している。特に地域の小規模事業者では「親族以外に後継者の選択肢がない」というケースが8割程度にも及ぶという。事業は親族に継いでもらうもの、という考えも根強くある。

しかし、少子化が進む今、事業を子どもや親族に継げない人は決して珍しくない。国もそんな現状を踏まえ47都道府県に事業承継・引継ぎ支援センターを作っている。それらの自治体とも連携し、relayは事業承継の新たなスタンダードを切り拓いていく。