「アップサイクル」と呼ばれる、廃棄予定のものや不用品に手を加え、付加価値をつけて生まれ変わらせる手法を近年少しずつ目にするようになった。リサイクルやリユースとも異なる、サステナブルな取り組みの1つである。

そんななか、ブランドとコラボしてアップサイクルを行い、“循環型ファッション”の実現を目指すファッションコミュニティ「NewMake(ニューメイク)」が2021年7月に誕生した。アパレルメーカーのみならず、多種多様なメーカーや小売業界、SDGs(持続可能な開発目標)に関心を持つ著名人などから注目を集めるNewMakeを立ち上げたのは、STORY&Co. 代表取締役の細川拓さん。

  • SDGsビジネスに挑む起業家たち 第3回

    STORY&Co. 代表取締役の細川拓さん(内容や肩書は2022年4月の記事公開当時のものです)

東急不動産と連携し、拠点となる「NewMake Labo」も開業。神宮前6丁目エリアという好立地にあるビルの1Fに工房を構える。Laboでは会員であるクリエイターたちが、NewMakeの思想に賛同するパートナー企業から提供される洋服や小物類を材料に、Laboに置かれたミシンやプリンターをはじめとする機材や資材を活用して、新たな価値作りに挑戦している。

「NewMakeの活動を通して、服を作るプロセスを可視化し、カスタマーの服を買うこと、選ぶこと、着ることへの意識を変えたい」と話す細川さんは、起業前にはリクルートに9年勤めていたが、NYで過ごした学生時代、仲間と共にアパレルブランドを経営していた。4年ほど続けたが思うようにいかず、“在庫ビジネス”の難しさを身をもって感じてきた。

ファッション業界が抱える三大課題ともいえる、大量生産・大量消費・大量廃棄に向き合うソリューションとして、ロス品から新たな価値を持った作品を生み出すNewMakeを率いる細川さんに、NewMakeができるまでの過程や目指す未来を聞いた。

「社会課題解決」の体験をパッケージ化して提供

  • SDGsビジネスに挑む起業家たち 第3回

    NewMakeの拠点「NewMake Labo」の内観

NewMakeは、新型コロナウイルス(以下、コロナ)の感染が拡大する中で産声を上げた。

コロナの感染拡大により、STORY&CO.が2017年から運営する、共感でつながる体験サイト「AND STORY」は大きなダメージを受けた。

サービスをオンラインに切り替えたり、他社サービスを試したりしたが、リアルの体験と比べるとオンラインのそれは劣ると感じた細川さんは、AND STORYのオンラインのみで完結する体験の提供をストップすることを決断した。同時に、この未曽有の事態の中で、AND STORYだからこそできることがあるのではと考え始めた。

そこで思い至ったのは「コロナによって否定された体験」だった。すると、ライブやショー、お稽古ごとなどのエンターテインメント型の体験が浮かび上がってきた。

それらは軒並み中止されたり、延期されたりと大きなダメージを受けていた。一方で、人々の「リアルな体験を楽しみたい」という気持ちはますます募っている。しかし、「人が集まる場に出ていってコロナにかかったらどうするんだ」と責められたくはない。

そのため、過剰に行動を抑制し、小規模なイベントすら参加できないという状況があった。ここに、何らかの「免罪符」を付加することで、可能な限り安全に、罪悪感なく人々に楽しんでもらうことができるのではないか。そう考えた。

また以前、母親向けのイベントを開催した際、細川さんは、子どもを預けて自分が美容院に行くことに罪悪感を持つ女性がいるのを知った。誰かから咎められているわけではないが、子どもの面倒はずっと自分で見なければならないと思い込むなど、抑圧された社会で生きているからこそ、何かを体験しにいくための“理由”が必要なのだと。

この2つのエピソードから、細川さんは「“社会課題”の解決を目的とした体験を提供しよう」とひらめく。体験が何らかの社会課題解決に寄与するなら、変に後ろめたく感じることもなく、堂々と外に出ていけるようになる。

注目したのは、自らも思い入れがあり、コロナ下でかつてない苦境に立たされたファッション業界。前出の構造的問題だけでなく、多くの人々の手を通じて想いを込めて生み出された新しい服が、一度も着られることなく廃棄されていく事実だった。

作られた服が形を変えて誰かのもとへいき、誰かがその服を纏うことで1つの物語が生まれる--そんな世界を、体験を扱うAND STORYだからこそ作り上げることができるのではないか。その考えが元となって、ブランドと個人が共創するコミュニティとしてNewMakeができた。

東急不動産とともに事業化に向けて動き始めると、グローバルブランドの参画や大手百貨店などから商品の取り扱いなど多数のオファーがあり、AND STORY事業を通じてつながりのあったブラザーからもミシン提供の申し出があるなど、NewMakeの始まりは順調そのものだった。各社にとっても新風を吹かせる好機となる。

優れたクリエイター、素晴らしいブランドが集まり続ける仕組み

  • SDGsビジネスに挑む起業家たち 第3回

    コミュニティメンバーでラボ内の内装設計からスタート

NewMake発足に向けて準備を進めていた2021年5月、NewMake Laboコミュニティメンバーの募集を開始した。アーティスト・デザイナー・パタンナーやそれらを目指す人などのクリエイターが対象となる。

登録料や材料費、会費は無料、完全予約制として最大5人まで利用可とした。オープンから3カ月で約500人集まり、今や630人を超える大きなコミュニティとなった。想定よりも早く、かつ多くのメンバーが集まったことを細川さんはこう語る。

「最初に洋服を提供してくださったのは、イタリアのラグジュアリーブランド『Missoni』さんでした。独占輸入販売権を持つ三喜商事さんが間に入っています。1着数十~百数十万円する高価な洋服を用いて、サステナブルな挑戦ができるというワクワクするようなビジョンと他にはないチャンスを示すと、一切コストをかけることなく、魅力的なクリエイターが集まりました。優れたクリエイターが増えると、通常なかなか手を出せないようなブランドも提携してくれるようになる……そんな好循環があります」(細川さん、以下同)

ビジネス自体は、古巣であるリクルートが提唱した「リボンモデル」を踏襲している。個人(利用者)と企業(クライアント、提供者)のマッチングの仕組みをリボン結びの形になぞらえて図式化したものだ。

NewMakeで特筆すべきは洋服メーカーに限らず、ありとあらゆるメーカーや組織が「提供者」になれる点だ。Missoniの他にもColemanやDESCENTEが協賛しているが、細川さんは将来的には美術館とコラボするなど、服にとらわれないチャレンジも視野に入れている。

  • SDGsビジネスに挑む起業家たち 第3回

    「100Sneakers100NewMakers」の作品の1つ

2022年2月には渋谷で「100Sneakers100NewMakers」企画の展示が行われた。協賛企業が廃棄予定品を中心に合計100足のスニーカーをNewMakeに提供し、100人のクリエイターがNewMake Laboでそれらをアップサイクルした。渋谷という多くの人々が行き交う街で、1人でもたくさんの人に、あなたも環境問題解決の一歩を踏み出せると伝える意図があった。

続く3月には阪急うめだ本店で、同店婦人服飾雑貨のデッドストックスカーフを活用したアップサイクル作品を限定販売した。関西在住のNewMake会員であるデザイナーの水野夢子さんが30着のアイテムを制作したものだ。

NewMakeから生まれた作品の多くは保管し、展示か貸し出しを行うが、阪急うめだからは熱烈なオファーがあり、販売するに至ったという。現在は俳優やアーティストからの要望に応じて衣装提供・協力を行い、いずれはファッションショーでの衣装貸し出しも予定している。

見て、知ることで「責任」は自然と芽生えていく

  • SDGsビジネスに挑む起業家たち 第3回

    NewMake Laboで制作するクリエイター

NewMakeを通じて細川さんが目指す最終ゴールは、大量生産・大量消費・大量廃棄とは距離を置いた小売の在り方だ。ただ、業界が抱える大きな課題を、簡単に解決できるとは考えていない。まずは、SDGsで掲げられている「12 つくる責任、つかう責任」において「使う側」に対するアプローチから行っていく。

「“責任”とありますが、責任という言葉はあまりにも重く、安易に押し付けたくはありません。高品質な服を安価に買える現代、服が誰かの手で一着一着作られているなんて、想像できない人はたくさんいます。ボタン1つで服ができると思っている人もいるくらいです」

そうなったのは食事とは異なり、家庭で「服が作られるプロセス」を目にする機会が、昔と比べて激減したからだと細川さんは考えている。裁縫やミシンでの作業は家庭内で対応されず、外注されることが少なくない。

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    NewMake Labo外観。服作りの現場がオープンになっている

「店舗で対応している裾上げや穴直しなどのお直しすら、客の見えないところで作業をしています。そんなふうにクローズドにされている服作りのプロセスを、表参道にあるビルの1Fで見せることに価値があると考えています。自分の目で見れば『服ができるまでこんなにいろいろな工程があるのか』『ここまで時間をかけて1枚の服ができあがるのか』と知り、服を買うこと、選ぶこと、着ることへの意識が自然と変わってくるのではないでしょうか」

「安くて高品質だから」を超える、想いベースの消費体験へ

NewMakeを運営しながら、小売が抱える課題にフォーカスしたシステム開発も進めている。どれだけEC化率が高くなろうとも、ECでの売上が100%になることはなく、リアルの現場に勝機があり、今の小売はそれを活かしきれていないと細川さんは見ているのだ。

ここでNIKEの事例を挙げたい。NIKEは2017年、40の限られた大手スポーツ用品小売事業者にだけスニーカーを卸し、それ以外は自社で独自に販売するやり方に方向転換した。顧客に対しブランドのビジョンやストーリーを直接共有できるような小売のスタイルを選んだといえる。

このような手法が大手ブランドで行われるようになると、小売側はそのブランドを取り扱うことが叶わなくなる可能性があり、モノ(ブランド)の魅力で集客できなくなる。モノに代わって顧客にとって魅力になり得る存在は「販売員」である。店舗での販売員とのやりとり(体験)を通じてモノが購入されるわけだが、顧客にとって店舗はショールームのようなもので、購入はネットで行うかもしれない。

「既存のシステムではオフライン(店舗)とオンラインはシームレスになっていません。店舗を訪れた顧客がオンラインで購入ボタンを押したとき、どの店舗が、またどの販売員が“きっかけ”を作ったのかを計測できる仕組みを作り、リアルの小売を変えていく一助になろうとしています。そこをレポーティングできれば、売上につながる店舗や販売員を適切に見極め、小売は今以上にリソースを効率よく投下していくことができるようになるはずです」

どこまでいっても、小売の現場を大切にしたいという思いがある。「安くて品質もまあまあだから、使い捨てればいい」という理を超えた「あの販売員さんに服選びを手伝ってもらいたいから、あの店に買いに行って大切に着よう」といった“想い”ベースの購買体験が、今後は一般的になっていくと細川さんは考えているのだ。服作りの現場をリアリティをもって伝えるNewMakeを運営し続けることが、そんな感覚の変化に寄与することは間違いないだろう。