中小型ディスプレイの動向

第47回ディスプレイ産業フォーラムにおいて、OMDIAの中小型ディスプレイ調査担当主幹アナリストである早瀬宏氏は、中小型ディスプレイ市場の見通しを語り、スマートフォン(スマホ)用ディスプレイの主流が従来の液晶から有機EL(OLED)へと変化したことなどを説明した。

同紙は、中小型ディスプレイ市場を取り巻く状況について次のように説明している。

  • ウクライナ情勢は長期化とともに膠着化。不安定な中東情勢によるエネルギー価格の高止まりなどを背景に世界経済全体でインフレが続くものの、新型コロナウイルス感染症に対する規制が全面的に解除されたことで、人流、物流ともに回復。経済の活性化とともに中小型FPD需要のもととなるスマホ、スマートウオッチなどのモバイル機器需要の伸びが期待される。
  • 中小型FPDの第2の市場となる車載市場も、中国の電気自動車(EV)販売が減速する一方で、ハイブリッド車(HEV)の販売が好調と伝えられるなど堅調な需要が見込まれ、成長率は減速するものの車載モニター用FPDの出荷も安定的に推移している。
  • 過去数年にわたりさまざまな要因によって需要の変動を受けた中小型FPD市場だが、2024年は日常の回復とともに堅調な需要で推移すると見込まれる。ただし、中国のFPDメーカーが急速にAMOLEDの生産能力を獲得・拡張してきたことで、携帯電話向けFPD市場で新たな波が起きようとしている。

中小型ディスプレイの今後の動向について、早瀬氏はつぎのように見通しを示している。

  • ウクライナへのロシアの侵攻や経済のインフレが続くものの、新型コロナに関する規制の全面的解除による人流・物流の回復に基づく経済が活性化、中小型FPDの需要の源泉となるモバイル機器アプリケーションは全般的に堅調な需要が見込まれる。
  • 中小型FPDの大口需要となる携帯電話市場は、2024年に入りLCDからAMOLEDへの移行が急展開。出荷数量全体の伸びはないものの、スマホ向けではAMOLEDの出荷数量がLCDを逆転。OLEDが数量でも優位に立つとともに、2024年の中小型FPDの出荷金額全体の成長にも貢献する見込みである。
  • その他アプリケーション向け全般として中小型FPDの出荷が堅調に伸びることが見込まれる。中でも車載モニター市場でのFPDの大画面化・高精細化による付加価値の向上が続いており、2024年の出荷金額の増加の押し上げ要因の2番手となっている。
  • 携帯電話市場は全世界的に普及したことから、2025年以降「セット需要」によるFPD出荷の伸びはほぼ見込めない一方、パネル破損への対応となる交換部品用FPDが一定規模の需要を形成し始めており、今後どの様な規模の需要を形成するか注目したい。
  • 2024年の中小型FPD全体の出荷数量が上振れ。携帯電話用FPDも引き続き安定した需要が見込まれることから、2024年以降の中小型FPD出荷数量全体も上振れする予測。また、携帯電話用FPD市場におけるLCDからAMOLEDへの移行が加速するとともに、LTPSからLTPOへの付加価値の向上も加わることで、中小型FPDの出荷金額は大きく上振れることが予測される。
  • 一方、携帯電話セットおよびFPD市場における「韓国vs中国」を含むメーカー間のシェア獲得競争が、今後の中小型FPD市場にどの様な影響を及ぼすかが注目される。加えて世界情勢の変動も今後の中小型FPD市場に大きな影響を与える可能性が有り、中小型FPD市場を取り巻くさまざまな要因の動きについて引き続き注視していく必要がある。

大型液晶ディスプレイ市場の動向

OMDIAの大型ディスプレイ担当シニアリサーチマネージャ(韓国駐在)であるChung Yoon-Sung氏は、大型LCD市場に関して「2024年上期に、液晶テレビ向けパネル需要は比較的堅調であったが、IT向けパネル需要は低調に推移した。ディスプレイメーカー各社は受注生産を中心とする方針を継続したが、稼働率は予想を上回った」と述べている。

また、2024年下半期については、世界的なインフレ、需要の前倒し、および2024年上半期の液晶パネル価格の上昇により、需要は減少すると予測している。多くのテレビブランドは、2024年第2四半期末に2024年のテレビ事業計画の下方修正を開始している」と述べた。

  • 2024年上半期(紫色)および下半期(赤色)の大型ディスプレイの生産過剰割合(%)

    2024年上半期(紫色)および下半期(赤色)の大型ディスプレイの生産過剰割合(%) (出所:OMDIA)

このほか、大型OLEDディスプレイ市場については、以下のような見解を示している。

  • 6か月前の予測と比較すると、出荷台数は5.7%増加したが、最新の予測ではOLEDテレビ向けパネルの出荷台数が3.8%、出荷面積で5.6%ほど減少したため、出荷面積も3.0%減となっている。
  • モニター、ノートPC、タブレットPC向けOLEDは、2024年に前年比3桁の出荷増が見込まれている。
  • 中国のディスプレイメーカーは、2024年にノートPC向けOLEDの普及を拡大させる。その結果、2023年のノートPC向けOLEDの出荷シェアは0.4%ほどであったが、2024年には14.8%へと拡大される見込みである。この結果、韓国勢のシェアは、2023年の99.6%から2024年には85.2%に減少すると予想される。
  • タブレットPC向けOLEDは、AppleのiPad Proの需要により、2024年に増加すると予想されている。2024年のiPad Pro向けOLEDの出荷台数は900万台に達し、タブレットPC向けOLEDの総出荷台数の60.6%を占めると予想される。

(次回に続く)