コロナ禍を経て、オフィスの在り方を見直し、オフィスを刷新する会社が増えている。そこで本連載では、先進的な働き方・オフィス構築を行っている企業に潜入し、思わず「うらやましい」と声を漏らしてしまうその内容を紹介している。「これからのオフィスどうしようか……」と考えている読者の手助けにもなれば幸いだ。→過去の「隣のオフィスは青く見える」の回はこちらを参照。
今回はアマゾンジャパン(Amazon)の品川オフィスを取材した。倉庫をリノベーションして2021年8月に開設したこのオフィスは、世界各地から集めた植物に囲まれながら仕事ができる魅力的な空間だった。
米Amazon.comは、世界中の従業員に原則として「週5日出社」を求める方針を示している。「オフィス回帰」に舵を切り、生産性の向上を追求しているビックテック企業の1社だ。同社の品川オフィスは“出社したくなる仕掛け”が散りばめられており、社員の想像力を掻き立てる工夫がされていた。
品川の倉庫の中でひっそりと佇む小さなジャングル。一風変わった同社のオフィスを紹介しよう。
まるで洞窟、ゆったりとした雰囲気のフリースペース
倉庫として使われていた建物をオフィスにイノベーションしたAmazonの品川オフィス。「壊さない」「過剰に造らない」をコンセプトに、他のオフィス以上に植物をふんだんに取り入れている。1階と3階は顧客とのミーティングを行う会議室、4~6階は社員の執務フロアとして使われている。
エントランスを抜けると受付エリアがあり、早速、目の前に「緑」が広がった。
1階の中央には大きなフリースペースがあり、それを囲むように12の会議室が配置されている。天井まで広がる植物と照度を抑えた間接照明でゆったりとした雰囲気を醸し出している。
これから芽吹く豊かな発想が育まれる地下をイメージしているといい、洞窟のような落ち着いた雰囲気に造られている。一般的なオフィスに比べて窓は少ないが、高い天井と目いっぱいに広がる植物で、開放的に感じられた。
Amazonのロゴをかたどった植物や、気軽に座ることができるハンモックなど、オフィス空間のユニークさも感じる。
会議室にもさまざまなアイデアが反映されていた。部屋ごとに内装やレイアウトが違うため、会議の目的や人数、気分で選べるという。窓の一部が「検索窓」になっていたり、時計がAmazonの段ボールを模したデザインになっていたりなど、“Amazonらしさ”が感じられた。
フリースペースでひときわ目立っていたのが、曲線を描くらせん階段だ。1階から3階までを直接つなぐ階段で、オフィス空間の1つのアクセントになっていた。
らせん階段の横にある「Café binGo(カフェビンゴ)」では、飲み物やサンドイッチなどの軽食やスイーツなどが購入できる。Amazonでは外国人の社員が多いため、日替わりでさまざまな国の食事を提供している。物価高が進んでいる昨今の状況の中、お手ごろな価格でいろんな国の料理が食べられるなんてうらやましい……。
また1階には、社員のための女性用、男性用、オールジェンダー用のシャワールーム3室があった。仕事の合間に休憩がてらにシャワーを浴びて、リフレッシュする社員も少なくないみたいだ。
3階から6階を貫く、高さ18mの“小さなジャングル”
らせん階段を上ると、そこには圧巻の景色が広がっていた。3階から6階を貫く、高さ18mほどの吹き抜けにつくられた森があった。Amazonの品川オフィスを象徴する空間だという。
正面に見える天井まで続く植え込みは、大小さまざまなサイズのボックスを積み重ねて造られている。そのボックスの奥には、会議室用の空調機など、品川オフィスを快適に保つ機器類が収納され、実用性とデザイン性が融合した構造になっている。
植物の水やりには自動灌水を利用。専用のセンサが土壌の浸透率を常に計測し、あらかじめ設定された乾燥率になると、自動的に給水される仕組みだ。給水に使われている水も循環させることで節水しているとのことだ。
また天井には通気口が設けられ、自然光を採り入れるとともに、自然に近い通風を実現しながら、換気が行えるようにしている。
この小さなジャングルともいえる空間にもフリースペースや会議室がある。森の中にいるような心地よさのなか、日々の業務に取り組んだり、会議をしたりできる。また、いたるところに鳥のオブジェが溶け込んでおり、本当に森の中で仕事をしているような感覚に陥りそうだ。
奥にはジムスペースもあり、終業後にトレーニングイベントが開催されることもあるとのこと。自然を感じながら仕事をした後に運動。筆者の生活とはかけ離れているなぁ……。
今回は取材できなかったが、執務フロアにもふんだんに緑が取り入れられているという。フリーアドレス制で、すべてのフロアで、人がいるときだけ照明がつくように、自動センサが備えられているとのことだ。
バナナを1日1本無料で配る「バナナスタンド」
Amazonならではの取り組みもあった。その1つが「バナナスタンド」だ。これは、平日にバナナを1人1本、社員だけでなく近隣の人々にも無料で配る取り組みだ。配りきれなかったバナナは、先ほどの「Café binGo」で販売するバナナブレッドなどに使われており、フードロスを防ぐ工夫もされている。
バナナスタンドの設置は、Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏による「健康的かつ環境にやさしいスナックを地域の人々に無料配布しよう」というアイデアから生まれ、2015年に米国のシアトル本社で始まった。
バナナの皮も一部は堆肥化。オリーブやレモンのほか、多数のハーブが植えられている「エディブルガーデン」で使われている。
昼過ぎの取材だったため、あいにくこの日のバナナの配布は終了していたが、誰もが働きやすい快適なオフィス環境を実現している同社の工夫が垣間見えた。時間がなくて朝ごはんを食べられなくてもバナナがもらえるなんて。うらやましい……。
すっかりバナナの口になってしまった筆者は、取材の帰り道でスーパーに寄り、バナナを1本分だけ買って、食べながら帰路についた。
























