2024年11月16日にマサチューセッツ州ボストンで、米海軍の沿海域戦闘艦 (LCS : Littoral Combat Ship)「ナンタケット」(LCS-27)の就役式典が行われた。この艦には、従来のフリーダム級にない特徴がある。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照。
LCSをどう生かすべきか
第475回で「米ステルス艦における頓挫の研究」と題して、沿海域戦闘艦(LCS : Littoral Combat Ship)の経緯について取り上げたことがあった。
もともと、不正規戦・非対称戦を前提として「敵地に近い沿岸海域に乗り込んで暴れるフネ」として構想されたが、正規軍同士の本格的な海戦を想定すると、いささかミスマッチの感がある。しかも、ミッション・パッケージの開発に難航した挙句に、パッケージ積み替え方式の構想は頓挫した。
そんなこんなの事情もあり、当初に考えられていた建造計画は大幅に縮小。フリーダム級とインディペンデンス級を26隻ずつ建造するはずだったが、前者は16隻、後者は19隻、合計35隻で打ち止めが決まった。しかも初期建造艦は早期退役させられる始末。
2024年12月11日付のUSNI Newsによると、この35隻のうち25隻を現役に残すことになるという。内訳はインディペンデンス級が15隻とフリーダム級が10隻。後者の数が少ないのは、機関に関連するトラブルが出ていた事情が影響したためと思われる。
そして、インディペンデンス級は対機雷戦(MCM : Mine Countermeasures)ミッション・パッケージを搭載して、アヴェンジャー級掃海艦の後継に充てる。一方、フリーダム級は対水上戦(ASuW : Anti Surface Warfare)ミッション・パッケージを搭載する。と、そういう話に落ち着くようだ。そして今回の本題が、そのフリーダム級。
Mk.70 PDSを載せて長射程火力を付与
冒頭で取り上げた「ナンタケット」がボストンに入港する模様を撮影した写真を、米海軍がリリースしている。それを見ると、後部のヘリ発着甲板に、なにやら箱が載っている様子が分かる。
これが、ロッキード・マーティン製のミサイル発射機、Mk.70 PDS (Payload Delivery System)。Mk.41垂直発射システム(VLS : Vertical Launch System)にミサイルを装填する際に使用するのと同じキャニスターを使い、起倒式の4連装発射機に仕立てたもの。再装填の際には、寝かせた状態で一端の扉を開いてキャニスターを出し入れする。
2024年9月10日にニュージャージー州ムーアズタウンにあるロッキード・マーティンのロータリー&ミッション・システムズを訪問したときに、このMk.70 PDSを組み立てている現場も見学コースに入っていた。実はMk.41もMk.70も、製造拠点が別の事業所からムーアズタウンに移ってきている。
そのMk.70 PDSのポイントは、「Mk.41と同じキャニスターを使う」ことと、「箱形の起倒式発射機なのでポン付けが容易」の二点。
Mk.41もMk.70も、発射機本体はがらんどうに近いフレームで、そこにミサイルを装填したキャニスターを填め込む仕組み。キャニスターはミサイルごとに専用のものがあり、ミサイルの形状やインターフェイスの違いはキャニスターで吸収する。そのキャニスターはMk.41とMk.70で共通だから、Mk.41で使えるミサイルは、射撃指揮システムを用意すれば、Mk.70からでも撃てることになる。
Mk.41は名称通りに縦型で、発射機の一式を主船体や上部構造の中に組み込む。つまり艦内のスペースを必要とする。それに対してMk.70はコンテナに収めた起倒式だから、寝かせた状態では横長の箱になる。だから、これを甲板に設置するときに、主船体や上部構造に食い込むことはない。よって、ポン付けが容易にできる。
これらの特徴は、第443回で取り上げたBAEシステムズ製のADL(Adaptable Deck Launcher)とも共通する。ただしADLとMk.70 PDSが異なるのは、ミサイルを撃ち出す方向。ADLは水平からやや斜め上向きに固定設置するが、Mk.70 PDSは普段は寝かせておいて、撃つときは真上に向ける。
すると、ことに対空ミサイルを撃つ場面では、Mk.70 PDSの方が有利ではないかと思える。水平に近い角度で撃ち出すと、それから上方に向けて飛翔コースを変えなければならない。対艦ミサイルや巡航ミサイルなら、水平に近い角度で撃ち出しても良さそうだが。
フリーダム級に長射程火力を付与
フリーダム級にMk.70 PDSを搭載することで、従来の同級に欠けていた長射程火力が手に入る。物理的には、トマホークでもSM-6でも搭載可能である。
ただし発射機だけあれば済むわけではなくて、搭載するミサイルに対応する射撃指揮システムは必要になる。フリーダム級にそんな仕掛けがあったっけ? と疑問に思ったが、後付けする手もあるし、ターゲティング情報はデータリンクを通じて外部から受け取れば良い。
分散海洋作戦(DMO : Distributed Maritime Operations)を標榜する昨今の米海軍では、少数の艦に多数の兵装を搭載するよりも、多数の艦に分散して兵装を搭載する方向にある。すると、ミサイル発射機を持つフネはたくさん欲しい。そこでフリーダム級に目を付けたということだろう。
ただ、Mk.70 PDSを3基載せるというが、そんなスペースがあったっけ? というのが第二の疑問。そこで先に出した写真を見ると、後部のヘリ発着甲板をつぶすつもりだと分かる。Mk.70 PDSはコンテナ式で、必要なときだけ搭載できるから、ヘリコプターが欲しければMk.70 PDSは降ろせばよい。最大3基を載せる考えであるという。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。