コンパクト化した艦載ミサイル発射機を生み出すに際して、第441回で取り上げた、ロッキード・マーティン製のExLSとは違うアプローチをとったのがBAEシステムズ。こちらはADL(Adaptable Deck Launcher)という製品を2018年に発表しているが、まだ採用事例はないようだ。

BAEシステムズのADL

ADLが面白いのは、発射筒を真上に向けるのではなく、斜め向きに固定設置すること。そして、ミサイルの装填はMk.41用のキャニスターをそのまま使う。実は、Mk.41用に各種ミサイルに対応するキャニスターを製造しているのがBAEシステムズなので、手持ちの資産をうまく使ったことになる。

  • Mk.41にミサイルを装填している場面。Mk.41自体はロッキード・マーティンの製品だが、キャニスターはBAEシステムズ製 写真:US Navy

    Mk.41にミサイルを装填している場面。Mk.41自体はロッキード・マーティンの製品だが、キャニスターはBAEシステムズ製 写真:US Navy

そしてADLでは、架台の上にMk.41用のキャニスターを4個、横並びに搭載する構造になっている。真上向きに設置するのと比較すると、ミサイルを撃ち出す向きが固定される分だけ柔軟性は落ちる(ADLに旋回俯仰の機能はない)。しかしもともと、空母の個艦防空用にESSMを搭載する手段として提案したので、限定された用途のために割り切って、こういう設計になったようだ。キャニスターひとつに4発のESSMが入るから、ADLひとつで16発を搭載できることになる。

面白いのはブラストの処理。キャニスター後端から噴出したブラストは、ADLの後端部に設けたU字型のダクトを通り、上に向いた排気口から排出する。

  • ADLのイメージ。斜め向きに固定した発射機で、ブラストは後方のハッチから排出する。4個並べたキャニスターのうち2個のハッチが開いている様子を描いており、ESSM用のクワッド・パックが顔を見せている 引用: BAE Systems

    ADLのイメージ。斜め向きに固定した発射機で、ブラストは後方のハッチから排出する。4個並べたキャニスターのうち2個のハッチが開いている様子を描いており、ESSM用のクワッド・パックが顔を見せている 引用: BAE システムズ

ADLは “Deck Launcher” という名前の通り、甲板の上に設置するので垂直発射システム(VLS : Vertical Launch System)みたいに、上部構造や主船体の内部に食い込むパーツはない。十分な広さと強度を備えて、開けた場所にある甲板を用意すれば搭載できる。

ただし、発射器をかなり寝かせて搭載するから、その分だけ広い場所を必要とする。ADLにはタクティカル・レングスとストライク・レングスの2モデルがあり、幅は同じ152インチ(約3.86m)、全長はタクティカル・レングスが284インチ(約7.2m)、ストライク・レングスが318インチ(約8m)というから、かなり大きい。

なお、Mk.41の発射管制ユニット(LCU : Launch Control Unit)やローンチ・シーケンサー(LSEQ)に相当する機器の存在、あるいは構成については、公開されている情報は確認できなかった。ただし、発射管制システム(Launch Control System)が存在しており、それの重量が4,300lb(約1,952kg)あることは分かっている。

搭載可能なミサイルは、基本的にはMk.41で撃てるものすべて。艦対空ミサイルはSM-2、SM-6、ESSM。弾道弾迎撃ミサイルはSM-3。巡航ミサイルはトマホーク。さらに対艦ミサイルとしてハープーンと、ノルウェーのコングスベルク社が開発したNSM(Nytt Sjønomålsmissil / Naval Strike Missile)の名前も挙がっている。全長が長いミサイルを収容するには、奥行きが大きいストライク・レングスのADLが必要になる。

ADLのメリット

現時点で、ADLを米空母に載せる話は出ていない。ただ、然るべきスペースと強度を備えた甲板さえあれば載せられる構造は、違った用途につながるかもしれない。

米海軍は最近、有人の水上戦闘艦や空母とともに無人船(USV : Unmanned Surface Vehicle)や無人潜水艇(UUV : Unmanned Underwater Vehicle)を導入する構想を進めている。そして、イージス艦からの指令を受けて、USVに搭載した発射器からSM-6艦対空ミサイルを撃つ実証試験を実施している。

ということは、USVに艦対空ミサイルや巡航ミサイルを載せる手段として、ADLは有用ではないだろうか。公式にそんな話が出ているわけではないようだが、上構や船体内部に食い込むパーツがなければ、例えば既存の艦船を改造してUSVに仕立てたときに、後付けでミサイル発射器を載せる際の手間が少なくて済む。

また、既存の艦に対して手っ取り早く火力を増強したいという場面でも、ADLは役に立つかもしれない(スペースの確保という課題はあるにしても)。もしかすると、民間籍の貨物船か何かを買い上げて甲板にADLを搭載して、ミサイル搭載艦に仕立てる使い方もあるかもしれない。

いずれの場合も、発射の際に必要となるデータや指令は、ネットワーク経由で他の艦から受け取れば済む。指揮管制システムやセンサー機器まで、ADLと一緒に載せる必然性はない。ADL搭載艦船は、遠隔で発射指令を受ける「外付け発射器」である。乱暴な例えをすれば、大容量のハードディスクを内蔵する代わりに、NAS(Network Attached Storage)を置くようなものだ。

しかも、ADLではMk.41と同じキャニスターを使うわけだから、同じミサイルをキャニスターに入れた状態で、Mk.41に装填することも、ADLに装填することもできる。これは運用面の柔軟性を高める要素となるし、調達面では経費節減につながる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。