今回も前回に引き続き、“interchangeability” という言葉について書いてみる。前回は “interchangeability” の必要性に関する話が主体だったが、今回はそれをどのようにすれば実現できるか、という話を主体に。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照。
モノは違っても取り替えが効くということ
繰り返しになるが、この話を取り上げたきっかけは、戦略国際問題研究所(CSIS : Center for Strategic and International Studies)において国際安全保障プログラムのシニアフェローを務めている、トーマス・カラコ(Thomas Karako)氏とのディスカッション。
そのディスカッションの席で “interchangeability” という言葉が出たときに、真っ先に思い当たったのが、海上自衛隊で使用している艦対艦ミサイルの話だった。海自では、まずアメリカ製のRGM-84ハープーンを導入して、後に国産の90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)が加わった。
ハープーンと90式のいずれも、ミサイル1発ごとに筒型の発射筒に入れて保管しており、使用する際にはその発射筒を架台に載せる。だから外見はよく似ているが、見慣れれば容易に識別できる程度の違いはある。実はそれだけでなく、発射筒を載せる架台や、発射の際に使用する管制システムに共通性があるという。
発射筒のボルトとナットからデータ伝送に至るまでの共通化が必要
ということは、同じ艦がハープーンを載せて撃つことも、90式を載せて撃つこともできる理屈となる。もっとも、本当にそれを実現しようとすれば、細かいところでいろいろと、そろえなければならない部分がある。パッと思いつく範囲では以下のようになるだろうか。
- 発射筒を架台に載せて固定する金具の位置関係、固定に使用する金具(つまりボルトとナット)の統一
- 管制システムとミサイル発射筒をつなぐケーブルやコネクタの、物理的な配線、ピン配置
- 管制システムとミサイル発射筒をつなぐ部分のインタフェースにおける、電気的特性、データ記述形式の統一
先にも書いたように、こうした項目の統一を図ることで、“interchangeability” を実現できるわけだ。艦対艦ミサイルであれば、入力すべき項目は「ターゲットの緯度・経度」「レーダー捜索のパターン」「飛翔パターン」あたりになるだろうか。
似たような話で、フランスでR550マジック空対空ミサイルを開発したときに、先行したAIM-9サイドワインダーと同じ発射機を使えるようにした事例が挙げられよう。我が国でも、同じ戦闘機がAIM-9を積んだり、国産の90式空対空誘導弾(AAM-3)を積んだりしている。
たぶんウクライナでは苦労している
そこで時事ネタを持ち出すと。NATO各国がウクライナに対して、さまざまな装備を供与して支援している。ところが、どこの国も自国の手持ちを提供しているわけだから、ときには “interchangeability” を欠いたものを提供する場面も発生し得る。
現に、ウクライナ軍が使用している旧ソ連系の戦車と、提供が始まっているNATO諸国の戦車では、戦車砲の規格が違う。もちろん、使用する弾も違う。つまり “interchangeability” がない。
すると、ウクライナ軍にしてみれば、兵站業務が複雑なことになってしまう。旧ソ連系の戦車を配備している部隊には、それに合わせた125mm砲弾を。NATO系の戦車を配備している部隊には、それに合わせた120mm砲弾を。それぞれ補充しないといけない。撃てない弾を送っても意味がない。
独自性と共通性の両立
我が国も例外ではないが、あれやこれやの事情や思惑により、自国で独自の装備品を開発・生産したいという話になりやすい。しかし、同じ価値観を共有する複数の国が連合・連携して任務に従事するとなると、「我が国独自の装備品」も程度問題となる。
なぜかというと、隣の友軍との間で替えが効かない装備を各国が使用していたのでは、前回にも書いたように「隣の友軍から代わりを借りてくる」ことができない。そういう事態を避けなければという考えもあってのことだろう。NATOは昔からSTANAG (Standardization Agreement)という標準化仕様を策定しており、さまざまな分野において、加盟国同士で円滑なやりとりができるように配慮している。
それこそが、まさに “interchangeability” の問題。「我が国独自の装備品」を作るのはいいが、その際には同盟国が使用する同種装備との間で相互に替えが効くような配慮も必要ではないか。そうすれば、運用面の柔軟性が高まるし、継戦能力の向上にもつながる。それでいて、独自の技術や工夫を盛り込む余地は残し得る。同じように技術力を活かすのであれば、“interchangeability” を実現するために使ってみてはどうか。
そこでは、物理的な構造・寸法の話だけでなく、通信プロトコルや電気的インタフェース、射撃指揮におけるデータ記述形式の問題が関わってくる。という話はすでに書いた。そこが、「ITとの関係も大あり」という話だ。
最悪なのは、「我が国独自の」が独善と化して、わざわざ独自の仕様、独自の規格、独自のインタフェースなどを盛り込みたがることであろう。それは結果として、同盟・連合の力を弱める方向に働いてしまうかもしれない。部分最適にのめり込んで全体最適を忘れてはいけないし、技術を手段ではなく目的にしてしまってもいけない。まず「それを使って何を実現するのか」を第一に考えるべきではないか。
そういう話になると、「ミッション・エンジニアリング」「モデルベース開発(MBD)」「モデルベースのシステム工学(MBSE)」といった話が関わってくる。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」が『F-35とステルス技術』として書籍化された。