第438回~439回で、ロッキード・マーティンが製造している艦載用のミサイル垂直発射システム(VLS : Vertical Launch System)、Mk.41を取り上げた。Mk.41は汎用性とスケーラビリティを備えた優れた製品だが、大型で重く、おそらくは高価である。小型艦に載せるには大掛かりに過ぎる。
シングルセルからExLSへ
では、小型艦にVLSを装備するにはどうすればよいか。まず、Mk.41の「8セル単位」では大きすぎるので、もっとコンパクトにする必要がある。すると必然的に、搭載するミサイルも小型のものに限られることになるが、どのみち小型艦は小型のミサイルしか積まない。
第438回で書いたように、Mk.41は深さが異なる3種類のモデルがある。そのときには書かなかったが、8セルで構成するモジュールの平面寸法は、3.4m×2.54m。これをこのまま小型艦の船体に突っ込むと場所をとるし、設置できる場所が限られてしまう。
そこで手元の資料を見返してみると、2006年にリリースしたブローシャで「SCL(Single Cell Launcher)」と題するものがあった。セルを1つだけにして、そこにRIM-162 ESSM(Evolved Sea Sparrow Missile)艦対空ミサイルのクワッド・パックを装填する。つまりSCL1つで4発のESSMを撃てる。
しかし、これがそのまま製品化されることはなく、2010年代に入ってから、新たにExLS(Extensible Launching System)の開発を始めた。直訳すると「拡張性を備えた垂直発射システム」となる。何が “Extensible” なのかというと、横並びの3セル単位で構成するモジュールを組み合わせる。4×2列ではなく3×1列だから、設置場所を決める際の柔軟性は増す。
また、個々のセルではミサイル収容スペースの直下に電源などの付属機器をまとめており、側面にはみ出さない。その構造の関係で、ミサイル収容スペースの高さはMk.41より小さい。
搭載できる兵装として挙げられている(いた)のは、以下の製品である。
NLOS-LS(Non Line-of-Sight - Launch System)。米陸軍が開発していた地対地ミサイルで、これを艦載化する構想があった。しかし開発は頓挫した
RIM-116 RAM (Rolling Airframe Missile)ブロック2艦対空ミサイル
Mk53ヌルカ。対艦ミサイルをおびき寄せるための囮
CAMM(Common Anti-air Modular Missile)。ヨーロッパのMBDAが開発した個艦防空用の艦対空ミサイル
ExLSもMk.41と同様に、ミサイルは直接装填するのではなく、キャニスター(ExLSではExLS Munition Adaptorsと呼んでいる)を介して装填する。つまり、装填するミサイルの違いはキャニスターが吸収するから、汎用性がある。
セルに装填するミサイルの識別は、Mk.41と同様に、搭載するミサイルごとに専用のキャニスターがあるわけだから、そこに識別情報があればよい。搭載するミサイルの機種など、所要の情報を書き込むためのプログラマブルROMか何かを組み込んでおけば済むのだろう。
このExLSは、ブラジル海軍が計画している(が、起工が何度も延期されている)新型フリゲートと、カナダ海軍の新型フリゲート・CSC(Canadian Surface Combatant)で採用が決まっている。ちなみにCSCが使用する個艦防禦用の艦対空ミサイルはMBDA製のCAMM、対空捜索レーダーはロッキード・マーティン製のAN/SPY-7(V)に決定済み。
正直なところ、CSCは決して小型の艦ではないので、Mk.41でも載りそうではある。しかし、コンパクトなExLSの方が、艤装設計に際しての柔軟性は高そうだ。SM-2やSM-6やトマホークを載せるつもりがなく、個艦防禦用の短射程艦対空ミサイルだけあればよいのなら、ExLSで用が足りる。
ミサイル発射器とLCUの関係
ところで。”Extensible” ということで気になったのが、ミサイル発射器と指揮管制装置を結ぶネットワークの構成。ミサイル発射器はそれ単独で存在しているものではなく、指揮管制装置と接続するネットワークが必要だ。しかも、”Extensible” を標榜するなら、数を自由に増減できるようになっていないと困る。
Mk.41は、指揮管制システムとVLSの間に発射管制ユニット(LCU : Launch Control Unit)が入っており、そこから8セル・モジュールごとに設置するローンチ・シーケンサー(LSEQ)につながっている(第439回で掲載した図を参照)。
ではExLSはどうか。ブローシャを見ると、やはりLCUを使用しているようで、そこから個々のセルの底部に納まっているExLCM(Extensible Launch Control Moduleの略だろうか?)に線がつながっている。いきなり個々のセルに接続するほうが、セルの増減に対応しやすいだろう。
複数のモジュールあるいはセルを接続する際に、かつてのSCSI(Small Computer System Interface)インタフェースのようなディジー・チェーン型だと分かりやすいが、抗堪性の面で問題がある。ネットワークがダウンしたり、戦闘被害で物理的に壊されたりしたときに、すべての発射器が使えなくなってしまうからだ。その点、LCUからスター型に分岐するほうが良いし、その組み合わせを複数用意すれば、冗長性が向上する。
ExLSで面白いのは、ミサイルだけでなく対艦ミサイル避けの囮も発射すること。そのため、囮となるヌルカの発射指令を別系統で用意している。AN/SLQ-32電子戦システムが、飛来する対艦ミサイルの誘導レーダー電波を受信したら、妨害のために囮を発射する流れ。その指令が入る先も、やはりExLCMだ。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。