今回のお題は、日本でもなじみ深いMk.41垂直発射システム(VLS : Vertical Launch System)。ロッキード・マーティン社の製品である。その名の通り、ミサイルを立てて収容しておき、そこから直接、真上に向けて撃ち出す仕組み。

Mk.41の特徴は汎用性

VLSにはさまざまなモデルがあるが、Mk.41で先見の明があったなあと思うのは、スケーラビリティと汎用性を持たせたところ。

まず、スケーラビリティの話。ミサイルを収容・保管する「弾庫」と、ミサイルを撃ち出す「発射筒」の機能を兼ねる部分のことを、Mk.41では「セル」と呼んでいる。Mk.41の特徴は、そのセルを4列×2列、合計8セル束ねて、1つのモジュールとしているところ。

搭載するミサイルの数を増やすには、そのモジュールの数を増やす。2個のモジュールを並べれば16セルになるし、縦横それぞれ2個ずつ並べれば32セルになる。モジュールは横長なので、横に2列、縦に4列、合計8モジュールを並べれば64セルになる。

  • Mk.41の主要構成要素。ミサイルをキャニスターに入れて装填する様子や、8セル単位のモジュールを組み合わせる様子が分かる 写真:US Navy

    Mk.41の主要構成要素。ミサイルをキャニスターに入れて装填する様子や、8セル単位のモジュールを組み合わせる様子が分かる 写真:US Navy

そして、汎用性。個々のセルにミサイルを装填する際には、直接装填するのではなく、ミサイルの種類ごとに用意した専用のキャニスターを使用する。例えば、SM-2ブロックII/III艦対空ミサイルならMk.13、トマホーク巡航ミサイルならMk.14といった具合に、それぞれ専用のキャニスターがある。ミサイルが違えばキャニスターの内部構造は変わるが、外形・外寸は同じだ。

ミサイルの保護・保管機能を受け持つのは、このキャニスターで、キャニスターごとMk.41のセル内に降ろす。内蔵するミサイルを発射した後に、排気ガスでススまみれになったキャニスターをMk.41から抜き出して、別のミサイル搭載済みキャニスターを入れれば再装填が完了する。

キャニスターは単なる「入れ物」ではなく、ミサイルに対して発射前に目標位置などのデータを送り込むための、アンビリカル・ケーブルも組み込んである。だから、装填が終わったら発射機とキャニスターをケーブルで接続する。キャニスターとVLSをつなぐ情報伝送用に145ピンのコネクタがあり、これは使用するミサイルの種類に関係なく同じ。

こうした構造のため、Mk.41の本体には「発射筒」に相当するパーツはない。キャニスターを固定するフレーム、ミサイル発射時にキャニスターの下部から噴出する排気ガスを排出するための仕掛け(これについては次回に書く)、キャニスターの上部に設けた蓋、といったあたりが主な構成要素になる。

そのフレームの高さ(深さ)の違いにより、Mk.41には3種類のモデルがある。自衛用の短射程艦対空ミサイルにのみ対応する「セルフ・ディフェンス」、最大18.5フィート(約5.64m)までの長さを持つミサイルに対応する「タクティカル・レングス」、もっと長いミサイルに対応する「ストライク・レングス」。例えば、トマホーク巡航ミサイルは全長6m以上あるから、「ストライク・レングス」でなければ収まらない。

  • 3種類のMk.41。左から順に、「セルフ・ディフェンス」、「タクティカル・レングス」、「ストライク・レングス」 写真:Lockheed Martin

    3種類のMk.41。左から順に、「セルフ・ディフェンス」、「タクティカル・レングス」、「ストライク・レングス」 写真:Lockheed Martin

基本的には多様なミサイルに対応できる設計になっているが、ときにはMk.41の側に手を入れなければならないこともある。例えば、イージスBMD用のSM-3ミサイルを発射するには、発射前にミサイルに対してデータを送り込むための光ファイバー回線を増設する必要があった。

管制用のコンピュータが不可欠

前回にも述べたように、ミサイル発射機から正しいミサイルを撃ち出すには、発射するミサイルを選択・指示する仕掛けが必要である。Mk.41のような汎用VLSでは、同じセルにトマホーク巡航ミサイルを装填する可能性も、弾道弾迎撃用のSM-3を装填する可能性も、潜水艦攻撃用のVLA(Vertical Launch ASROC)を装填する可能性もある。

さらにややこしいことに、RIM-162 ESSM(Evolved Sea SparrowMissile)艦対空ミサイルは、サイズが細身なので、1つのセルに4発ずつ装填して搭載数を増やしている。すると、セル番号だけでは不十分で、「どのセルの何番目のミサイル」という指示が不可欠になる。ちなみに、ESSM用の4発入り(クワッド・パック)キャニスターはMk.25という。

だから、どこのセルにどの種類のミサイルを装填したかが分かっていないと、仕事にならない。ミサイルの種類が違えば、発射前に送り込まなければならない情報の種類も、そのためのプロトコルやデータ記述形式も違う。

  • Mk.41から発射するミサイルの種類は、時代が進むにつれて増えているから、発射器の側もそれに適応して進化しなければならない 写真:US Navy

    Mk.41から発射するミサイルの種類は、時代が進むにつれて増えているから、発射器の側もそれに適応して進化しなければならない 写真:US Navy

話の流れとしては、以下のようになるだろうか。

(1) ミサイルを入れたキャニスターを装填してケーブルを接続すると、どのセルにどのミサイルを装填したかというデータが送られる。

(2)使用するミサイルに対応する指揮管制装置が発射に必要な数字を出して、それを、これから撃つつもりのミサイルに送り込む。

(3) 指揮管制システムが発射の指令を出すと、それが発射機にわり、該当するセルのハッチを開いてからミサイルのロケット・ブースターに点火の指令を送り、発射する。

(2)を間違えずに行うには、(1)のプロセスが確実に機能している必要がある。(3)を間違えずに行うには、(1)のプロセスに加えて、どのセルのミサイルにデータを送ったかという(2)のプロセスが確実に機能している必要がある。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。