前回と前々回に、ロッキード・マーティン製の艦載用垂直発射システム(VLS : Vertical Launch System)、Mk.41を取り上げた。今回のお題も艦載用VLSだが、今度はヨーロッパ製品、フランスのネーバル・グループ(旧称DCNS)が開発したSYLVERを取り上げてみる。

SYLVERとは

Mk.41は、米海軍のみならず、海上自衛隊でも多用しているからなじみ深い。しかし、SYLVERはヨーロッパ製の艦にしか載っていないから、日本ではなじみが薄い。ちなみに、SYLVERはSYstème de Lancement VERticalの略。筆者はフランス語は分からないが、えいやっと解釈すると、意味は「垂直発射システム」となるようだ。

  • 筆者が生で見たことがある唯一のSYLVER搭載艦が、英海軍の45型駆逐艦「デアリング」

SYLVERを上から見たときの外見は、Mk.41と似ている。長方形の区画に4列×2列のミサイル収容区画が並んでおり、その上に四角い蓋を取り付けて塞いでいる。この8発分が1つのモジュールを構成しているところはMk.41と同じで、モジュール1つのサイズは2.6m×2.3m。ただし、SYLVERのセルのサイズは22インチ(55.6cm)四方で、Mk.41より少し小さい。ミサイルはMk.41と同様にキャニスターに入れて収容するので、搭載できるミサイルの外寸はセルのサイズより小さくなる。

  • 45型では、艦橋の前方に突出した箱形構造物の中にSYLVERが収まっている。ここにアスター15艦対空ミサイルとアスター30艦対空ミサイルを収容する

そして、高さが異なる複数のモデルが存在するところもMk.41と同じだ。高さが増えると、より大型のミサイルに対応できる。その陣容は以下の通りで、「A○○」の「○○」は高さをメートル単位で示した数字になっている。フランスの製品だから、フィート単位やインチ単位にはならない。以下、各モデルの特徴だ。

SYLVER A35

高さ3.5m。MICA空対空ミサイルの艦載型、VL MICA専用で、これだけ4発分で1モジュールとなる。つまり、小型艦向けにコンパクトにまとめたモデル。

SYLVER A43

高さ4.3m。VL MICAに加えて、クロタルVT1艦対空ミサイルとアスター15艦対空ミサイルにも対応する。

SYLVER A50

高さ5m。VL MICA、クロタルVT1、アスター15、アスター30に対応する。

SYLVER A70

高さ7m。艦対空ミサイルはアスター15とアスター30、それとMdCN(Missile de Croisière Naval)巡航ミサイルに対応する。

SYLVER A70にトマホークを搭載できるという説があるようだが、トマホークは外径が21インチ(53.3cm)あるから、物理的に収まりそうにないと思える。なお、見た目はMk.41と似ているが、メーカーでは「ミサイル発射時に発生するブラストの排出に使用する排気ダクトがMk.41より大きく、その分だけガスを放出する際の圧力が下がって安全性が向上する」といっているそうだ。

汎用性はいかほどか?

Mk.41の場合、「大は小を兼ねる」ので、トマホークに対応するストライク・レングスのモデルであれば、トマホークより小型のミサイルでも搭載できる(もちろん逆はできない)。だから、Mk.41に対応したミサイルであれば、任務様態に応じて配分を変えることもできる。対空戦が主体になると予想される任務なら対空用のSM-2を多く積む、対地攻撃しかなさそうだからトマホークを満載する、といった按配になる。

ところがSYLVERの場合、事実上は搭載するミサイルごとにVLSを使い分けているようだ。フランス海軍のアキテーヌ級フリゲート(汎用型)を例にとると、MdCN用にSYLVER A70が8セル×2基、アスター15用にSYLVER A43が8セル×2基といった具合。ただし、同じアキテーヌ級でも防空型になると、SYLVER A43もSYLVER A70もやめて、同じスペースにSYLVER A50が8セル×4基となる。長射程のアスター30を積むにはSYLVER A43では長さが足りず、SYLVER A50が要るからだ。

  • これは実物ではなく、展示会用の模型。左がアスター30艦対空ミサイル、右がVL MICA艦対空ミサイル。アスター30のブースター・ロケットのサイズが、SYLVERのセルにギリギリのようだ

これが米海軍なら、「とにかくストライク・レングスのMk.41を載せておけば中身はどうとでもなる」と考えるところではないだろうか。そう考えると、SYLVERのやり方は非合理的に見える。しかし、同じSYLVERシリーズのことだから、共用できるコンポーネントは少なくないだろうし、艤装設計も共通化できる。まるっきり異なるモデルの発射機を載せるよりは、同じSYLVERファミリーの中でモデルを変える方がマシではある。

つまりこれは、「全体最適化を重視したMk.41」と「部分最適化を重視したSYLVER」という違いなのかもしれない。それにSYLVERの場合、MBDA製ではないミサイルが載ることは、まずないだろう。組み合わせるミサイルの種類を限定すれば、発射機の設計がいくらか楽になる。

そして、使用するミサイルの機種が決まっていれば、「どこのセルにミサイルがあるか」を知る必要はあっても、「どの種類のミサイルか」を知る手間は省けそうではある。もっとも実際には、VL MICAとアスター15・アスター30の兼用があり得るので、そうも行かないかもしれないが。

SYLVERの謎

Mk.41を搭載した艦を上から眺めると、8個のセルで構成するモジュールが、くっついて並んでいる様子が分かる。これは縦方向でも横方向でも同じだ。ところがSYLVERは、短辺側は隣のモジュールとくっついて並ぶものの、長辺側は必ず、隣のモジュールとの間に空きスペースがある。

前回に載せたMk.41の図を見ると、キャニスターを固定するフレームの横に取り付く機器、すなわちローンチ・シーケンサー(LSEQ)、モーター・コントロール・パネル(MCP)、配電盤、プログラマブル・パワー・サプライ(PPS)の箱は、モジュールが占める直方体の空間からは突出しない。

だから、隣接するモジュールとくっつけて並べられる。しかし、SYLVERでは長辺側で何らかの突出があり、隣接するモジュールとくっつけることができないのだろうか?あるいは、保守点検用の通路スペースを確保しているのかもしれないが。

それぞれ、自分のところの「お家の事情」に合わせたものを設計しているから、Mk.41のやり方と、SYLVERのやり方と、どちらが正しいと軽率に断言できるものではない。ただ、設計に際しての考え方の違いを知ることには意味があると思う。

参考
UK Armed Forces Commentary
DCNS Sylver Vertical Launching System (VLS)

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。