神戸学院大学 薬学部の稲垣冬彦教授が、大気から選択的に直接CO2を回収する吸収・放出剤を開発した、そんなニュースが報じられた。

このニュースのすごいところは、大気中のCO2を”選択的”に吸収できるところだ。では、この稲垣教授が開発したCO2を回収する吸収・放出剤とはどのようなものなのか、今回はそんな話題について、紹介したいと思う。

  • 神戸学院大学 薬学部の稲垣冬彦教授

    神戸学院大学 薬学部の稲垣冬彦教授(出典:神戸学院大学)

なぜ大気からCO2を回収するのか?

では、まずCO2を回収する吸収・放出剤がなぜ必要なのだろうか。

近年、気候変動への対策の話題が各方面で出てきている。日本でも気候変動枠組条約締約国会議(COP21)のパリ協定では2030年までにCO2を26%削減することや2050年カーボンニュートラルなどがうたわれているのだ。そのため、日本ではさまざまな取り組みがなされているが、中でもDAC(ダイレクトエアーキャプチャー)という方法でCO2を大気から直接吸収する技術の開発が進められている。

NEDOのムーンショット事業の目標4で、金沢大学の児玉昭雄教授がプロジェクトマネージャとして活動されている「大気中からの高効率にCO2大量資源化システムの開発」が開始されたり、名古屋大学の則永行庸教授がプロジェクトマネージャーとして活動されている「冷熱を利用した大気中二酸化炭素直接回収の研究開発」が開始されたりしている。

他にも、民間企業でも国内外でDACの取り組みは始まっている。先日紹介したスイスのClimeworksやカナダのCarbon Engineering、米国のGlobal Thermostatが海外では取り組みを開始している。

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日本では、IHI、東邦ガス、川崎重工業などが実施しているのだ。この大気から回収したCO2を地中深くへと貯留したり、カーボンクレジットとしてのビジネスや農作物などへ供給するなどのビジネスが計画されている。

大気から選択的直接CO2を回収する吸収・放出剤とは?

上述したDACでは、CO2を大気から吸収するのはアミンなどが使われるのが一般的。アミンは、安価で入手が容易というメリットもある。しかし、アミンは、親水性が強くCO2と一緒に水も取り込んでしまい、CO2回収の効率が悪いというデメリットもある。

そこで神戸学院大学の稲垣教授は、このアミンに改良を加えた。アミン基に疎水性のあるフェニル基をつけることで、CO2だけを選択して吸収する割合が飛躍的にアップした。これは、フェニル基が水の侵入をブロックしているためとX線による結晶構造解析で確認したという。

  • 神戸学院大学稲垣冬彦教授が開発した新技術

    稲垣教授が開発した新技術(出典:神戸学院大学)

いかがだっただろうか。大気中のCO2を回収する取り組みは、CO2を排出しているさまざまな企業にとって、排出量を削減してくれるので、今後の重要な位置付けになっていくことだろう。

稲垣教授が開発したこの改良アミンは、とても重要なものになっていくに違いない。