ベルギーimecの年次イベント「ITF World 2023」にて、日本の国策半導体会社として2022年に設立されたRapidus(ラピダス)の小池淳義社長が登壇、「Scaling moonshot – a journey to explore true prosperity of human beings through semiconductor technology and manufacturing innovation(微細化に向けた挑戦的な計画 - 半導体技術および製造革新を通して人類の真の繁栄を探る旅)」と題し、自社の戦略説明を行った。

小池氏は、まず「Rapidusが自分と元東京エレクトロン(TEL)社長の東哲郎(Rapidus会長)と12人の“侍”(=個人株主)とで設立した2nm未満のプロセスに対応するロジックファウンドリで、日本を代表する8社が73億円を出資している」と自社の説明を行ったほか、「日米の両政府の支援も受けており、2022年度は700億円、2023年度は2600億円の資金援助を経済産業省から獲得できている」と、日米両政府のバックアップを強調した。

Rapidusの売り物は、少量多品種のAI半導体チップを中心に設計から製造・パッケージングまで受託生産し、社名(rapidを意味するラテン語)が表しているように迅速なビジネス、つまり短TAT(英語ではshort cycle time)であるとする。小池氏は、さまざまな造語をちりばめて、Rapidusの新たな戦略を以下のように説明した。

「DTCO」から「DMCO」へ

現在の半導体製造では、回路設計とプロセス技術を同時に最適化しなければ面積の微細化や高い歩留りの実現が難しい。その中で微細化には、「DTCO(Design Technology Co-Optimization)」と呼ばれる手法が欠かせない。

そのためには、「DFM(Design For Manufacturing:製造容易化のための設計手法)」が活用されてきた。これに対してRapidusは、AIとセンサを活用して製造工程で得られたビッグデータを活用して設計の効率化をはかる「MFD(Manufacturing For Design:設計のための製造)」という概念を新たに取り入れ、設計と製造の同時最適化である「DMCO(Design Manufacturing Co-Optimization)」を目指すという。

また、小池氏はMFDによる設計効率化の方法を、製造工程のすべてを従来の25枚単位のバッチ式処理ではなく1枚ずつ搬送・処理する枚葉式で行うことを掲げ、それによる半導体チップ完成までの時間短縮を図るとする。

AIと先進センサを活用して1枚ごとのシリコンウェハの処理時のさまざまな多変量情報をビッグデータとして収集。多数のウェハを一度に製造するバッチ式と比べ100倍ものデータが得られる試算で、これらのビッグデータを設計側にフィードバックすることでMDFが可能となり、PDKにおけるプロセスマージンや設計マージンを広げることにつながると主張した。

IDMやファウンドリからRUMSへ

Rapidusの戦略としては、現在の半導体産業では設計・製造・OSAT(パッケージング)の水平分業が主流だが、同社はそれぞれの間に立ちはだかる壁を取り払い、設計・ウェハ工程・パッケージングを一体化した「RUMS(ラムス:Rapid&Unified Manufacturing Service)」という新形態を採用することで、開発効率と製造速度の向上、そしてコスト削減も同時に図っていくという。

半導体事業は、もともとは垂直統合型のIDMが主流であったが、1980年代後半に、設計と製造を分離独立させた水平分業であるファブレス・ファウンドリモデルが登場したことで、現在の半導体産業の繁栄に至った。これに対してRUMSは、AIチップの顧客が企画を立てて仕様だけ決めれば、後はRapidusが設計から製造・パッケージングに至るまで一気通貫で受託するサイクルタイム短縮の新たなビジネス形態だという。これを同氏は「Integrative Co-Creation」と呼ぶとしている。

ファブからIIMへ

従来、半導体製造棟は「ファブ(Fabricationの略)」と呼ばれてきたが、Rapidusでは、ファブとは呼ばずに「IIM(Innovative Integration for Manufacturing:イーム)」と呼ぶことにしたとする。

Rapidusの製造棟は、オール枚葉処理や完全自動化に加え、グリーン化にも注力しており、従来のファブとは差異化を図ることを目的に新たな言葉を生みだしたようだ。北海道千歳市に最初に建設される予定の「IIM-1」は2023年9月1日に起工式が執り行われる予定だという。

本当に差異化が図れる新概念かは検証が必要

最後に、小池氏は、人生100年時代を迎えるにあたり、いままでの「教育→就職→定年退職→余暇」という人生のサイクルを改め、生涯現役で退職無き人生を提案した。つまり、就職後も、会社にすべてをささげるのではなく、家庭を大切にし、ボランティア活動も行い、趣味も楽しみ、生涯教育も受けて、徐々に仕事以外の比率を増やして生涯現役で働き続けるとともに人生の楽しみを享受する人生のモデルを紹介し、「No Retirement!」をかかげて話を結んだ。

なお、小池氏は、新たな概念には新たな言葉が必要とばかりにRapidus、DMCO、MFD、RAMS、Integrative Co-Creation、IIMといった新語を連発していたが、はたして本当に従来の半導体ビジネスと差異化を図れる新概念であるかどうかについては検証が必要だろう。製造装置から収集したデータをAIによる多変量解析に基づき、フィードバック/フィードフォワードすることは先端半導体工場ではもはや常識化しているし、RUMSというビジネスモデルは、もはやファウンドリではなく、IDMへの逆戻りのようにも見える。いわば「企画力無きIDM」であり、本当にそれが勝ち残れるビジネモデルであろうか。また、半導体の人材不足が叫ばれる中、設計からパッケージングまで幅広い分野で高度な人材を集められるかどうかという点も疑問符が付く。まだ具体的な姿が見えておらず、評価できる段階でもないことを考えれば、今後、実際にサービスの提供開始までにどうビジネスモデルがブラッシュアップされていくかを注目していく必要があるだろう。