ISSM 2020では、将来有望な学生に半導体製造に興味を持ってもらうとともに、 半導体製造におけるAIの発展を図るため、初めての試みとして学生を対象とした「ISSM AI技術コンテスト 2020~半導体製造現場データのAI活用~」が実施された。

半導体製造現場では、他産業に先駆けて、プロセス・装置・生産性などの膨大なデータの収集・見える化・分析・活用が進められてきた。一方、近年のIT技術の飛躍的な技術革新、特に、AI技術の革新は目覚ましいものがあり、コンテストを通じてAI技術人材の発掘、および参加者の優れた技術・アイデアから波及する学習・研究へのモチベーション向上を期待する形で実施された。

今回のコンテストは

  1. SEM画像分類のAIアルゴリズムコンテスト部門
  2. 製造現場データのAI活用アイデアコンテスト部門

の2部門で構成された。

「SEM画像分類のAIアルゴリズムコンテスト部門」は半導体製造装置現場で発生する実データを用い、 実践的な研究開発の裾野を広げることを目的とし、コンテスト参加者に、実際の半導体製造に使われた約4000枚のパーティクルSEM画像を、指定されたカテゴリに自動分類する学習モデルを作成してもらうというもの。

パーティクル領域の特定と分類精度について、半導体製造に精通するベテランエンジニアが分類したリストとの一致度を競い、一致率の高かった順に表彰が行われた。

同部門の参加資格は学生(個人あるいはチーム)対象で、世界中の数百の大学でデータ解析技術の演習に用いられているツールである「Kaggle in Class」を用いて、4000枚のSEM画像の欠陥分類をおこない分類正答率でランキングを競うというものとなっていた。基本的な画像認識・分類に関する手法に加えて、データ不均衡・不明瞭クラス・微小欠陥など、半導体製造現場における実運用時に発生するデータ・課題への対応が求められた。

  • ISSM 2020

    ベテランエンジニアが分類した欠陥リストの一例 (出所:ISSMコンテスト募集要項)

同部門の審査結果は以下のとおりとなった。

  • 1位、最優秀技術賞:九州大学/東京工業大学の合同学生グループ
  • 2位、技術賞:九州大学
  • 3位、技術賞:九州大学
  • 4位、技術賞:海城高校
  • 奨励賞:電気通信大学
  • 奨励賞:熊本高等専門学校

一方の「半導体製造ファブデータAI活用アイデアコンテスト」は、工場内に膨大に蓄えられたビッグデータを、活用したAIによって工場におけるさまざまな課題を解決するアイデアを学生から募集するもの。例えば、「半導体チップの歩留りを安定させ、工場のコストを下げて利益を大きくするには?」、「WithコロナやAfterコロナを鑑みて遠隔で半導体チップ製造するにはどうするか?」など、課題に対する若い視点ならではのソリューションアイデアの投稿が期待された。

審査の方法は、ISSM 2020の参加者に学生の発表映像を見てもらい、良いと思ったものに「いいね」ボタンを押してもらい、その数の多さで競うものとなった。

結果は以下の通り。

  • 1位:「シンプルなセンサー機器と機械学習による半導体工場作業者の行動の可視化」(岩手県立大学)
  • ISSM 2020

    シンプルなセンサー機器と機械学習による半導体工場作業者の行動の可視化の概要 (出所:岩手県立大学のプレゼン資料)

  • 2位:「オンライン会議とエッジAIの個別集計システム」(筑波大学)
  • 3位:「半導体産業におけるファジィラフ集合論に基づくバックオーダー予測のための意思決定支援フレームワーク」(中国国立清華大学)
  • 特別チャレンジ賞:「半導体産業へのESG投資の促進方法」(海城高校)

ちなみに両方のコンテストに高校2年生1人が応募し、奮闘ぶりを披露しており、その姿勢は特筆に値するだろう。

なお、ISSMプログラム委員会委員長の今井伸一氏(日立ハイテクソリューションズ 理事)に今回の学生コンテストについて感想を聞いたところ、「ISSM 2020では大学生や高等専門学校生を対象に2つのAIコンテストを新たな試みとして企画させていただいた。特に『半導体製造ファブデータAI活用アイデアコンテスト』は主に経営工学の分野で最新のAI技術を研究している学生たちに半導体製造業界を知ってもらうことを目的に企画したものだ。企画した当初はコンテストそのものが成立するかどうか危惧されるほどであったが、結果的には国内外の大学および高校から8チームのエントリーがあり、32名の学生の皆さんに参加していただいた。順位の決定方法も有識者による審査という形態ではなく、聴講者の投票で順位が決定する仕組みにさせていただき、より多くの人に注目してもらう仕組みとした。多くの人からの投票の結果、岩手県立大学の小村皓大さんが率いるCopiksチームが最も多くの『いいね』ポイントを獲得、1位に輝いた。半導体製造に携わる作業者の作業位置や作業時間をRFタグとAIを使って計測するもので、すぐにでも実用化できそうな点がポイント獲得に結びついたと思われる。清華大のチームや筑波大のチームも独自の切り口でAIを活用したビジネスアイデアを提案し、それぞれ受賞に輝いた。また工場のデータをESGの観点でAIが定量化し、投資市場に出すという斬新なアイデアを提案した、おそらくISSM史上最年少の参加者となる高校2年生に特別賞を贈ることにした。今回の企画の成果、特に若い力を次回のISSMにつなげていきたいと思う」と、若い新たな力の可能性に確かな手ごたえを感じるコメントを寄せていただいた。