10月初旬はノーベル各賞の発表があります。特に6つある賞のうち、「物理学」、「化学」、「生理学・医学」の科学3賞が気になりますな。今年はどうなるんでございましょうか。知っていると楽しみが増える情報をまとめておきましょー。

2023年のノーベル賞は10月2日~9日に相次いで発表。受賞者には電話で連絡。ネット中継あり

ノーベル賞は毎年10月の初旬に発表され、授賞式は12月に行われます。

  • ノーベル賞のメダルのレプリカ

    ノーベル賞のメダルのレプリカ

今年の発表日は、生理学・医学賞が10月2日、物理学賞が10月3日、化学賞が10月4日、文学賞が10月5日、平和賞が10月6日、経済学賞が10月9日となっています。時間は日本時間で夜の18時(平和)、18時30分(医学生理学)、18時45分(物理学、化学、経済学)、20時(文学)となっていますが「早くて」なので、これよりたいてい少し遅くなります。

これらはネット中継がおこなわれますので、ワクワクしながら見ることもできますよ。

なお、受賞予定者には発表の少し前に電話連絡が行きます。ええ、電話だそうです。ほんまかいなと疑う人も少なからずいるらしく、国によっては真夜中に連絡がいって、過去には受賞予定者が出なかったり、うるさいといって切ってしまうといったこともあったようです。

1901年にスウェーデンのアルフレッド・ノーベルの遺言と遺産により始まる

世界には様々な表彰があるのですが、その中でもノーベル賞は、最も有名でございます。ノーベル賞が始まったのは1901年。スウェーデンの発明家・実業家のアルフレッド・ノーベルの遺言で、彼の遺産の運用益を使って毎年表彰されております。賞は、物理学、化学、生理学・医学、文学、平和の5つと、1968年に経済学賞が新設され、6つとされています。ただ経済学賞だけはノーベルの遺言によらず国立銀行が創設しています。

毎年各賞最大3人まで、文学賞は1人、平和賞だけはグループもある

ノーベル各賞は、毎年最大3人に与えられ、文学賞は1人ですが、平和賞に関しては「国際赤十字赤新月連盟(1917、1944、1963年)」とか「国連難民高等弁務官事務所(1954年、1981年)」「国境なき医師団(1999年)」のようにグループが受賞することがあります。なお、グループで最大クラスは「国連(2001年)」ですかね。

賞金は1賞あたり1100万スウェーデンクローネ。複数人受賞は按分。日本では賞金は非課税

ノーベル賞の賞金は、各賞1100万スウェーデンクローネです。今年、100万クローネほどアップしました。日本円だとこれ書いている時点の為替レートで1.46億円くらいですな。これはノーベルの遺産の運用益からでていて、減ったり増えたりしています。ちなみに遺産を運用するノーベル財団の運用資金は57.99億クローネだそうで、日本円だと750億円強ですな。

なお賞金は複数人が受賞すると、貢献によって按分されます。2分の1や3分の1ずつになることもあれば、2分の1と、4分の1、4分の1になることもあります。

なお、賞金は日本人が受賞した場合は法律で非課税です。所得税法の第9条(非課税所得)の部分の十三号ホに「ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品」とわざわざ明示されています。他に非課税になるのはオリンピック・パラリンピックの成績優秀者に関係しての金品や、日本学士院賞や日本芸術院賞の関係賞金などがあります。ノーベル賞だけ個別に書かれているのがおもしろいですな。なお経済学賞はノーベル基金でないところから賞金がでるので、現状非課税になりません。まあ日本人で受賞した人いないけど。

身近なノーベル賞受賞者・日本の受賞

さて、下世話な話が続きましたが、身近なノーベル賞受賞者について書いていきましょう。

まず受賞者数ですが、日本はなにげにノーベル賞受賞者が多い国で、Wikipedia先生によると(横着ですみませんが、こういうのは多分正しい)、米(403)、英(137)、独(114)、仏(72)、スウェーデン(33)、ソ連・ロシア(32)についで29人で7位となっています。このうち平和賞が1人、文学賞が3人いますので、科学関係は25人ですな。アジアではインドが12人、中国が8人、台湾が4人などです。太平洋ではオーストラリアが12人、ニュージーランドが3人です。なお、日本の受賞者の29人のうち、19人までが21世紀の受賞です。ノーベル賞が20世紀最初の年から始まっていることを考えると、近年になって急速に日本の受賞が増えたことが分かります。

なお、日本の中には英国籍のカズオ・イシグロさんや、米国籍の眞鍋さん、南部さん、中村さんが入っています。まあ、これは他の国も似たようことがあり、細かいところの順位は無意味かもしれません。

身近なノーベル賞受賞者・対象(生理学医学賞)

ノーベル賞は人類の進歩に貢献したものに対して与えられます。専門的で難解なものもありますが(たとえば、南部陽一郎さんの「自発的対称性のやぶれ」)、身近なことで多数の受賞例があります。

まず1901年の第1号の物理学賞の受賞は、レントゲンによるレントゲン線(X線)の発見です。これはいうまでもなく、医療の応用でごくごく身近なものですよね。

ノーベル生理学・医学賞では、日本の山中さんが2012年にiPS細胞の確立で与えられています。こちらはiPS細胞そのものが有名になったのですが、臨床応用はこれからで身近ではないですね。

  • 山中伸弥 教授

    2019年に開催された「国際科学オリンピック日本開催」シンポジウムにて講演する山中伸弥 教授 (編集部撮影)

それよりもがんの研究で多数の受賞例があり、2018年の本庶さんのがんの免疫阻害による治療法(抗がん剤オプシーボ)などは、やや身近な感じがします。2008年のハウゼンさんのHPVとがんの関係は子宮頸がんの予防に光明を与えた発見です。同年にはシヌシさんとモンタニエさんがHIV、いわゆるエイズウィルスの発見で受賞しています。

ところで、身近といえばなんといっても2021年のジュリアスとパタプティアンの「人はトウガラシの辛さを熱さと同じに感じる」という、それはイグ・ノーベル賞ではないのか? という愉快な受賞ですねー。このジャンル不得手な私が思わず解説書いちゃったくらいですからね。

身近なノーベル賞受賞者・対象(物理学賞)

さて、物理学賞にもどると、20世紀初頭はベクレルやキュリー夫妻などによる放射能・放射線関係の発見があります。また1909年には無線通信でマルコーニとブラウンが受賞しています。内容は身近ではないのですが1921年のアインシュタインの受賞は内容より科学者が身近な例ですね。光電効果という電子応用関係では重要な法則の確立で受賞しています。1956年には現在のICT社会を支える、半導体の基礎研究でショックレー、バーディーン、ブラッテンの3名が受賞。2000年のキルビーはICの発明です。1964年にはレーザーなどの発明でタウンズ、バソフ、プロホロフの3人が受賞しています。2009年はイメージセンサーのCCDの発明でボイルとスミス、2014年には青色LEDの発明で赤崎、天野、中村の日本人3人が受賞しています。

また2020年にはブラックホール関係で3人が受賞していますが、うち1人はロジャー・ペンローズです。実はペンローズについては2016年のこの連載で「2人とも実証が難しい理論を作った学者なので、その点はしんどいかもしれません」と書いていますが、受賞しましたね。

身近なノーベル賞受賞者・対象(化学賞)

化学はもともと生活に身近な学問なので、化学賞受賞でも割と「あ、それな」という感じの内容が豊富な気がしますがどうでしょう。

最近では、スマホやPC、クルマや潜水艦! の電源として使われる、リチウムイオンバッテリーが受賞(2019年)していて、受賞者は日本人の吉野さんらですな。また、蛍光するタンパク質をクラゲをすりつぶして調べた下村さんらの2008年の受賞も身近さを感じさせるものでした。

身近とはいえないけれど、おもしろいのは炭素原子が60個くっついてできたサッカーボール型の炭素分子フラーレンの発見で1996年のカール、クロートー、スモーリーの受賞も印象的です。炭素についてはちょっと前のこの連載で書いているのでご笑覧ください。

その前の年の1995年はオゾン層についてで、クルッツェンら3人。1993年には新型コロナウイルスですっかりお馴染みになったPCRの発明でキャリー・マリスが受賞しています。マリスについても前に書いています。1991年はエルンストがNMRで受賞。1961年のカルヴィンは光合成の研究。1958年のサンガーはインスリンの研究で受賞しています。

その前は……ウーム、意外と基礎的なことが多くて身近感は微妙ですねー。そんなものか。うむ。

2023年のノーベル賞受賞者を予想、なんて浅学の私にはできませんが、予想ごっこはできます

ノーベル賞は、物理学、化学、生理学・医学について、なにがすごいものなのかを検討して出すものですが、なにしろ分野が広汎なので、浅学の私にはわからないのでございます。

ただまあ、ノーベル賞を受賞するような業績は、他の賞を受賞していることがよくあることなので、そのあたりから検討をつけることができるってな、話は以前もいたしました。

ノーベル賞に先立ち発表される「クラリベイト・アナリティックス引用栄誉賞」は、まさにノーベル賞候補者の賞みたいなところがあります。2023年はたぶん、この原稿書いている(9月18日の)翌日の発表です。原稿執筆時点では2022年のみが参照可能なのですが、まあ十分は十分でございます。なんしろ「予想ごっこ」なので。

編集注:「クラリベイト・アナリティックス引用栄誉賞」の2023年版は9月19日に発表され、23人が受賞。そのうち2名が日本人となりました。

で、2022年の引用栄誉賞をみると、生理学医学部門で、東京都医学総合研究所の長谷川さんらのALSに関する研究があがっていますね。ALSは、先年亡くなった著名な物理学者のホーキングなどが罹ったことで知られる病気で、筋肉の力がどんどんなくなってしまう難病です。この病気を治療する手がかりを発見したというのですからすごいことですな。

また、米国のチャン・ザッカーバーグ・イニシアチヴの「ナノリットルスケールにおける流体現象」の研究も単純に「おもしろそう」と思いますね。

2021年についてはマイナビニュースTECH+の記事を参照させてもらうと、これはずっと話題になっている大阪大学の岸本さんによる「インターロイキン6」の発見がありますね。免疫の過剰反応をおさえてリウマチなどの治療に効果ありという大勢の人にありがたい素晴らしい成果です。

物理では東大の十倉さんがずっと下馬評にあがっています。2002年、2003年、2004年、2005年、2014年と5回も受賞しているんです。個人的には高温超伝導物質の研究がおもしろいなぁと思うのですが(1990年に仁科記念賞を受賞など)。さあどうですかね。超伝導関係では1987年のベドノルツらがセラミックの超伝導で受賞していますので、なかなかこれよりという感じになるかどうか。

宇宙ではダークマターがまともにノーベル賞をとっていないので、英国のサンドラ・ムーア・フェイバーさんも候補ですね。ワタクシはフェイバー・ジャクソン関係で名前を知りました。

ということで、10月2日からスタートするノーベル週間。楽しみに待とうと思います。