Clarivate(クラリベイト)は9月22日、近い将来ノーベル賞を受賞する可能性の高い研究者が選出される「クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞」の2021年版を発表した。

同賞は、同社の学術文献引用データベース「Web of Science Core Collection」をもとに、論文がどの程度引用され、学術界にインパクトを与えたのかなどを考慮し、ノーベル賞クラスと目される研究者を選出するもの。これまで同賞の受賞者の中から59名が実際にノーベル賞を受賞している。

  • 日本人

    クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞の受賞者でノーベル賞を受賞した日本人(出典:クラリベイト)

2016年までは、トムソン・ロイター引用栄誉賞という名称で発表されていたが、同賞を担当するトムソン・ロイターの知的財産事業部が2016年にクラリベイトとして独立したのに併せて名称が変更された。

同賞はノーベル賞の科学系4賞(生理学・医学賞、物理学、化学、経済学)と同じカテゴリで構成されており、2002年以降、毎年9月に発表されてきた。

その選出方法は、2000回以上引用されている学術界に与えた影響が大きい論文といった定量的な要素をベースに、研究への貢献度や他の賞の受賞歴、過去のノーベル賞から予想される注目領域などの定性的要素を含めて検討されるものとなっている。同社によると、引用回数2000以上という数値は、1970年以降に発表された5000万件以上の論文の6500件程度(0.013%)だという。

同賞は毎年最大36名(各分野3トピック×3名×4分野)が選出されるが、2021年は16名が選出された。研究者の所属機関の国別内訳は米国が9名、日本が3名、フランス、韓国、シンガポール、イタリアがそれぞれ1名となっている。

  • 受賞者数

    2021年のクラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞の国別受賞者数(出典:クラリベイト)

選出された3名の日本人のうち、2名が医学・生理学部門での受賞となり、「インターロイキン-6(IL-6)の発見とその生理的・病理的作用機序の解明により、医薬品の開発に貢献した功績」として大阪大学 免疫学フロンティア研究センターの岸本忠三 教授と量子科学技術研究開発機構の平野俊夫 理事長(大阪大学 名誉教授)が表彰された。

  • 大阪大学 免疫学フロンティア研究センターの岸本忠三 教授と量子科学技術研究開発機構の平野俊夫理事長(大阪大学 名誉教授)

    医学・生理学部門で受賞した大阪大学 免疫学フロンティア研究センターの岸本忠三 教授と量子科学技術研究開発機構の平野俊夫理事長(大阪大学 名誉教授)(出典:クラリベイト)

また、化学部門から「金属触媒を用いたリビングラジカル重合の発見と開発」の功績で、中部大学 先端研究センターの澤本光男 教授(京都大学 名誉教授)が受賞者として選出された。

  • 中部大学 先端研究センターの澤本光男 教授(京都大学 名誉教授)

    化学部門で受賞した中部大学 先端研究センターの澤本光男 教授(京都大学 名誉教授)(出典:クラリベイト)

医学・生理学部門で受賞となった研究テーマのIL-6は、免疫応答や炎症反応の調節において重要な役割を果たすサイトカインであり、慢性の炎症状態にはIL-6が深く関わっていることを岸本氏、平野氏が発見した。両氏が開発したIL-6の受容体に対する抗体は、関節リウマチなどの治療に使用され、100万人以上の患者がこの抗体を用いた治療薬を使用しているという。

岸本氏は受賞に際し「開発した抗体を最初にキャッスルマン病の患者に使用した際に、なにをしても治らなかった症状がすぐに治まったときはとても嬉しかった」と長年にわたる研究を振り返った。

同じく受賞者の平野氏は日本の若手研究者に向け「一度でもよいから目の前の山を登りきってみてほしい。目の前のひとつひとつの山を登り切れば、必ず夢は近づいてくる。たとえ夢をかなえることができなくても、その過程が人生、研究を充実したものにしてくれる」とエールを送った。

化学部門で受賞者となった澤本氏は、ラジカル重合を中心に不可能であると言われていた精密重合を可能にする触媒を発見し、これまで作ることのできなかった構造のポリマーを自由に設計して作ることが可能となったことで、新たな先端高分子材料を開発可能とした功績で受賞となった。

澤本氏は「受賞した業績である精密重合の知識に基づいて、連鎖制御高分子をつくる方法を開発していきたい。次の世代の方々には、絶え間ない好奇心を誠実さをもって追及していくことで充実した誠実な人生を送っていただけたらと思う」と自身の研究の展望と次世代の研究者へのメッセージを寄せた。

なお、同賞はその年のノーベル賞受賞者を予測するものではなく、将来、ノーベル賞を受賞するだけの成果を挙げた研究者に授与されるものである。

2002年から2021年までの間、引用栄誉賞を受賞した日本人研究者は今回の岸本氏、平野氏、澤本氏を併せると、合計で31名(故人含む)となっている。