2021年度のノーベル生理学・医学賞は、人間の熱さや接触を感じるセンサーの発見で、アメリカのデビッド・ジュリアス氏とアーデム・パタプティアン氏の2人に贈られることになりました。

  • David Julius氏とArdem Patapoutian氏

    David Julius氏とArdem Patapoutian氏のイラスト (c)Nobel Prize Outreach/Ill. Niklas Elmehed

それぞれ人間の感覚センサー(熱さ・辛さと圧力)を突き止めたのですが。ノーベル財団による紹介文書の冒頭に「辛さと熱さは同じだよん」からはじまる愉快な紹介が載っております。さらに人間の生理に、インクジェットプリンタなどで使われるピエゾ素子が入っているという話も。いやー、こういうのおもしろいですね。東明は全く門外漢なのですが、ノーベル財団の紹介文を訳しながら突っ込むというスタイルでご紹介いたしますねー。いや、楽しいぜ。これは。

毎年恒例のノーベル賞ウィークになりました。科学3賞は、今年は4日に生理学医学賞、5日に物理学賞、6日に化学賞の発表でございます。だいたい夕方7時(日本時間)とか発表ですね。現地(スウェーデン)では昼飯前でございます。

で、原稿執筆時点(10月4日)で、生理学・医学賞が発表されております。人間のやる気……じゃない、熱さや接触を感じる「スイッチ」「センサー」の発見でございます。下馬評ではmRNAワクチンか~とかありましたが違いました。でも、今回の受賞は本当におもしろいと思っております。そして感覚に関する基礎的なことは、快適をコントロールし、不快や、場合によっては死ぬほどつらいことをヘッジすることにつながるわけですねー。うんスゴイ発見だね。じゃ、一人ずつ見て参りましょう。

今回の受賞理由は原文だと、「They discovered receptors for temperature and touch」。直訳すると温度と触覚に関する受容体(レセプターですが、まあセンサー)の発見です。熱っ! とか、触ったとか、そんなことをどう人体は知るんか? その仕組み、センサー、スイッチを見つけたってわけですな。やる気スイッチも見つけ……まあ、それはさておき、わっかりやすい、そして、人類全員に確実に関係ある発見でございます。

さて、これはどんな発見なのかということは、NHKさんとか日経新聞さんとか、毎日新聞さんとか、マイナビニュースとかに速報や詳報が掲載されております。

んが、ノーベル賞に関しては、ぶっちゃけ、ノーベル財団のプレスリリース科学的背景の解説がお手本になるくらいわかりやすいです。英語だけどな。例えるなら、ワタクシが鬼滅の癸(みずのと)なら、柱クラスです。私が、全然かなわないやつを、サクッと倒しちゃうみたいな。英語だけどね。そこ日本語にいたします。

さて、人間は、様々なことを感じます。火をさわれば、熱いし、むぎゅーとされれば感じます。というか、ほんのわずか何かに触っていても、それがわかりますな。この感じるというのは電気信号でおこなわれています。そう、人間は電気で感じ、動く機械なのでございます。また、物事を感じるのはノーミソで総司令官ですが、総司令官が指示して「寒いから服きないと」という前には、ノーミソへ神経網を通して電気信号で情報がガッと集まっており、その情報は最前線の信号を作り出すセンサー群から発出しておるのでございますな。

それからその、感じ方もおもしろくて、暖かいとか寒いのは15度~43度までは普通に暖かい涼しいと感じるのですが、15度以下とか43度以上だと「痛い」と感じるのですな。これは温度のセンサーが一種類ではないことを示唆しております。今回のノーベル賞のうち、デビッド・ジュリアス氏の授賞部分は、この温度センサー(のパーツのレセプター:受容体)のタンパク質の発見でございます。

レセプターは、刺激を受けると、特定のイオンを通したり停めたりします。イオンは電荷を持つので、それによって電位が発生し、神経や周囲の細胞に信号を伝えます。まあ、センサー・スイッチみたいなもんですな。

ジュリアス氏は、1997年にトウガラシの辛み成分カプサイシンを感じるTRP(一過性 transientな受容体 receptor potential)の1つを見つけました。辛いと対応するイオンを流すのですな。これが、辛さだけでなく43度以上の熱さでも流します。同じセンサーが別の刺激でも動くのですな。そして両方とも辛い、熱い、でなく「痛い」と感じる。

ということで、トウガラシか熱さかどっちでも動くセンサーを発見したのでございます。いや彼はトウガラシの辛さを感じるセンサーを研究していたら、それが熱さと痛さを感じるものだとわかっちゃったということなんですな。それがたとえ冷たいトウガラシでも、カプサイシンという物質があれば熱いと感じちゃう。物質で人間の温感をだまくらかせる(違うやろ)画期的な発見でございました。辛いラーメンを食べると汗が出る理由はここにありました。なるほどー。

さらにもう1人の受賞者のアーデム・パタポウティアン氏と一緒に、今度は冷感センサーになるタンパク質を見つけます。もちろん分子レベルで冷感刺激に応じたイオンの出し入れをして電気信号を発生させるのですな。この研究の発展で、様々な温度に対応した様々なセンサー物質があることを彼らたちは突き止めます。マイナビニュースには、彼らと一緒に研究していた富永先生の監修での解説記事がございますな。

さらに、圧力や接触といった機械的な刺激に対する、全く違うセンサータンパク質を見つけます。PIEZO1とPIEZO2と名付けられたものは、インクジェットプリンタのインクの噴射をコントロールするの圧電ピエゾ素子のように、周囲の圧力によってイオンの出し入れをコントロールするゲートになるのでございます。触覚センサーの発見でございますな。

ということで、今回のノーベル賞は、身体のあちこちにあるタンパク質が、熱かったり寒かったり、辛かったり、熱かったり、さらに圧力を感じたりということと、場合によっては性質が違う刺激によって同じように動く、だまくらかせる、場合のよっては適当な薬とか別の刺激でうまく動かせるということを教えてくれる成果でございます。

そんなことが20世紀の末頃にようやくわかってきたってのはおもしろい限りでございます。いや、まだまだ生物の身体は未知の宇宙なのでございますなー。

そして、誰か、私のやる気スイッチを発見してほしいとおもうわけです(おい)。