地球から最も明るく見える星、「金星」。古代バビロニアでは女神イシュタールとされ、古代ローマでは美の女神ビーナスとなった金星。太陽系で地球の内側を巡る第2惑星ですね。いま、夕空にとにかく明るく、目立っています。今回は、金星とちょっと掘り下げてご紹介しますねー。

とにかく明るい金星。宵の空によく見えています

このところ、夜7~9時ごろの宵の空に金星がよく見えています。

その時間に空を見渡して、圧倒的に明るい星が金星です。

ちなみに西の空に見えますが、方向なんてわかんなくても、明るいのが金星です。

この状態は、7月の半ばまで続きますが、夏休みに入るころには高度をさげ急速に見えにくくなり、8月はまったく見えなくなります。

でも、安心してください。9月半ばになると、今度は夜明け前の空で見えるようになりますよー。

東京から見て、日の入り45分後の金星の場所を作成してみました。

この状況は2月ごろからなのですが、こんなに長い期間、金星が宵の明星として見えるのはなかなか珍しいことです。しかもここ1ヶ月くらいは10時近くまで見られます。ぜひ楽しんでいただきたいです。

  • 東京から見て、日の入り45分後の金星の場所

金星が明るいのは、近く、表面が白く、そこそこ大きいため

さて、この金星ですが、明るさは-4等級です。これは並の1等星の100倍もの明るさで、恒星で一番明るいシリウスの-1.5等級に対しても10倍の明るさになります。

地球からここまで明るく見える星は、超新星爆発でも無い限りまぁないので、他の追随をゆるさない、とにかく明るい星なのでございます。

ところで、金星はなぜ明るいのかというと、理由は3つあります。

1つは、地球と太陽に近いこと。距離は変化しますが、遠くて2億km、近くで4000万kmです。月の40万kmは別格として、通常、地球に最も近づく惑星です。また、太陽にも近く太陽からの距離は地球の1.5億kmに対して、1.1億kmほどになります。

2つ目は、表面が白いこと。金星は、太陽の光を反射して光る惑星ですが、金星の写真を撮ると、日の光が当たっているところは真っ白に写ります。これは、全体が白っぽい雲で覆われているためで、反射率は地球の0.3に対して金星は0.65で、太陽系の惑星で最大です。完全にマットで白い理想的な球体が1ですから、金星がずいぶん白っぽい星だということがわかります。ちなみに、衛星まで入れると土星の氷の衛星エンケラドゥスが1.4程度になります。マットではなく光線照射方向に強く光を反射するためです。

3つ目は、そこそこ大きいためです。金星の大きさは地球とほぼ同じです。これは太陽系の惑星としては6位で5位の地球とほぼ同じ。7位の火星の倍の大きさです。もし金星の大きさが火星程度であれば、明るさは単純計算で4分の1となり、等級は-2.5等級程度と木星なみになります。ちなみに惑星として大きさ1位の木星は地球の11倍もの大きさがあり、反射率0.5ですが、太陽や地球からの平均距離が7~8億kmと遠いため、明るさで金星に後れをとることになります。

満ち欠けする金星

金星は、望遠鏡で見ると月のように満ち欠けをします。ただし、月は新月、半月、満月、半月、新月が1週間ずつの間隔で変化し(新月~新月が4週間=1か月)ますが、金星は、ほどんどの期間が半月と満月の間で推移します。

金星の満ち欠けは540日ほどですが、10日ステップで地球から望遠鏡で見た様子をプロットしてみました。大きく欠ける時期は短いことがわかります。また、大きく欠けるのは地球に近づいている時で、その分、金星が大きく見えることにも注目です。一番大きいときは新月と同じ状態になってしまい見えなくなっちゃいますけどね(太陽に近すぎて観測も危険です)

  • 金星の10日ごとの形と大きさの変化

こうした満ち欠けのパターンは、金星が太陽の周りを回っていることを雄弁に語っており、かの「それでも地球は回っている」といった? 17世紀にほぼ最初に望遠鏡で宇宙を見たガリレオ・ガリレイは、金星の様子を望遠鏡で見て、自分の考えを確信したと考えられているんでございますな。

しかし金星を覆う雲は何なんだろう?

さて、明るい金星の原因になっている金星を覆う雲。その大部分は地上から45~70kmという高高度にある硫酸の液滴です。金星の大気の96%は二酸化炭素ですが、残りわずかな二酸化硫黄が光化学反応をして硫酸を常に作っているのです。

ところで、白い雲は太陽光を反射しまくるので、地表はむしろ寒くなるはずです。いつも曇りだと寒いですよね。が、硫酸の雲の下は温度が460℃にも達する高温の大気です。これは二酸化炭素による温室効果で熱をため込むようになっているからでございます。その効果は500度分にも達していて、金星は本来、地球より太陽に3割も近いのにマイナスの温度になるところを、二酸化炭素の温室効果のために、灼熱地獄になっているのです。

そのため、硫酸の雲から落ちる硫酸の雨は、高温で分解して上昇し雲を作ります。金星の雲はそれほど強烈な存在なのですな。

異常に高温になった大気がもたらす、金星の不思議

さて、金星の地表付近は460℃と猛烈にあつく、乾燥した世界です。そして、これは太陽からのリアルタイムの熱や光でなく、ため込んだ熱によるものなので、赤道も北極南極もほとんど温度に差がない異常な世界になっています。

また、金星は243日という長のんびりとした周期で、公転と反対、つまり東→西に自転していますが、上空の雲はたった4日で惑星を一周していることがわかっています。秒速100mにも及ぶ強風であり、スーパーローテーションといわれる風のその速度の源はまだよくわかっていません。日本の金星探査機あかつきが、このあたりのデータを詳しく取っており、太陽熱により大気が持ち上がることが原因の大きな波動のせいではないかとか、地球のジェット気流(ちょっと前の気球の話でやりましたな)ような金星のジェット気流がのたうつように南北運動するのがきっかけじゃないかとかいろんなことが言われております。

まぁ、よくわからないというのはロマンです。あんなに目立つ星の風についてよくわからんというのも、それはおもしろい話でございますな。

参考:あかつき探査機の研究チームのリリース「LIRによって初めて決定された、金星における熱潮汐波の全球構造」

玄武岩の火山だらけの金星表面

金星の表面は分厚い雲に隠されて見えないのですが、1990年ごろからアメリカの金星探査機マゼランが、レーダーを使って雲ごしに地表のマップの作成をしました。そしてわかったのは、多数の火山性の地形があることでございました。当時は5万年以内に噴火した火山もあるとされていました。

しかも、ヨーロッパのビーナス・エクスプレス探査機などで、リアルタイムで吹いている火山があるらしいという報告(熱い溶岩の発見)がありました。

これはある程度予想されていたことでした。金星は地球とほとんど同じくらいの大きさを持っており、比重もほぼ同じです。組成もそれほど変わらないでしょう。となれば、地球と同じように現在も内部放射性物質により熱く、その熱が上昇して地表に火山を生じさせることは当たり前なのです。

金星はクレーターが少ない

金星は全体にまんべんなくクレーターがありますが、わずか1000個くらいで、これは非常に少ないといえます。理由は厚い大気が小さないん石が衝突する前に急ブレーキをかけて蒸発させてしまうため。小さなクレーターができないこと。また表面が火山によって絶えずリフレッシュしているためと考えられています。

クレーターの重なりを研究して、土地の年代を調べる「クレーター年代学」という手法があるのですが、金星はそれが使えません。したがって金星の大地がどれほど古いのか、着陸して詳しく調べないことには全然わからないのです。

また、着陸も表面が460℃、気圧も90気圧という過酷な環境であるため大変であり、旧ソ連の金星探査機は着陸するやいなやぶっ壊れるというのを何度も繰り返しています。

アメリカはこのオーブンの中よりヒドイ状況で動くICなどを開発し、金星の謎に挑む計画を持っています。2031年着陸を目指すダヴィンチ探査機です。金星にはかつて巨大な海があったという説もあり、そうしたことを検証する企てでもあります。イヤー萌えますな。

地球と違うこと、みあたらないプレートテクトニクス、磁場

ところで金星と地球、火山は両方にあるわけですが、違うことといえば、地球では大地震や日本のような弧状列島を作るプレートテクトニクスとそれを引き起こす現象がないことです。

プレートテクトニクスは、水平方向に移動するので、しわ寄せは作りますが、ある場所で成長し続ける巨大火山は形成させません。金星は日本全体が火山くらいのサイズの超巨大火山があります。地球にあるプレートテクトニクスが、金星になぜないのか、あっても良さそうなのに。これも実は謎です。

また、関連して地球のような磁場が存在しません。内部に液体の金属核がなく、流動する金属がないためではと考えられています。そのため、地球では磁場のために太陽風が大気に直撃しないのですが、金星にはバンバン当たって大気を削り続けているようです。

また、太陽風の電気を集める機構がないので、オーロラがおきません。太陽風が押し寄せて、大気があってもオーロラはそれだけでは発生しないのでございます。

いかがでしょう、金星について、あれこれと書いてみました。

ともかく、明るい金星。ぜひ注目してくださいませ。