英Omdia主催の「第41回ディスプレイ産業フォーラム」が2021年8月末までバーチャル・オンデマンド形式で開催された。従来は、Omdia(元IHS Markit)所属の日台韓中駐在FPDアナリストたちが東京会場に集結し年2回開催されてきたが、新型コロナウイルスの感染拡大防止に伴う渡航制限や三密回避のため前々回(2020年夏)からバーチャルオンデマンド形式で開催されるようになり、今回はバーチャル形式の第3回目の開催として、新型コロナウイルス感染症のディスプレイおよび関連産業への影響について主に議論された。

2021年のFPD業界天気予報はほぼ晴れ

まず、フォーラムの冒頭、OmdiaのFPD技術担当アナリストであるCharles Annis氏(日本駐在)が恒例のFPD産業天気予報を示し(図1参照)「FPD業界にとって、2021年は、製造装置への投資を除いては、ほぼすべてのセグメントにとって最高の年になると予測されている。例外的に製造設備への投資は中国での大型投資のはざまで雨模様だが、2022年には投資再開で回復する、その一方で、2022年以降、パネルが供給過剰状態になる可能性がある」と述べた。

このほか、以下のような指摘も行われた。

  • ディスプレイパネル市場は2021年7月までは非常に健全に推移してきている。しかし、懸念が高まっており、パネル市場は8月にピークに達する可能性がある。
  • ITパネル(特にノートパソコン用ディスプレイ)の市場は引き続き非常に堅調である。同時に2021年のノートパソコンの需要は非常に強い。
  • LCD工場の収益性はOLED工場よりも高いため、パネルメーカーはLCDの生産能力を拡張しようとしている。
  • ディスプレイ製造装置の支出は2021年には抑えられているが、2022年に22%増加し、2025年まで比較的高いままであると予測される。
  • まだ最終決定していないが、BOEがファブB17+を構築することになれば、月産18万枚の生産能力を備えた3番目の第10.5世代工場となり、業界全体に大きな影響を与えることになる。業界全体に供給過剰をもたらし、レガシー工場の存続を脅かし、平均TVパネルサイズを拡大させ、価格を下げ、新たなTV用ディスプレイ技術開発の絶好の機会となろう。
  • 現在、パネルは受給バランスが取れているが、2022年に急激に過剰レベルになる。このような過剰レベルは、長期にわたって持続可能ではないため、新工場の建設計画のいくつかは遅延か中止となり、古い競争力のない工場の閉鎖やパネル値下げによる需要喚起が生ずるだろう。
  • 今のところ、FPD市場のサプライチェーンのほとんどのセグメントにとって2020年に続き好調な2年目を迎え続けている。しかし、生産能力が増加する一方で、パンデミックが進むにつれ需要の伸びは低くなり、2022年に受給サイクルが下降局面を迎える危険信号がともり始めている。ディスプレイ産業のいくつかの分野で景気急変があるかもしれない。
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    図1 FPD業界天気予報 (出所:Omdia、2021年7月末時点)

コロナ前後でディスプレイ産業の状況は大きく変化

Omdiaのシニアディスプレイ調査ディレクタのDavid Hsieh氏(台湾駐在)は、ディスプレイ業界の最近の動向について解説し、次のような異変が起きていると話した。

パネルメーカーの営業利益とセット(最終電気製品)メーカーの営業利益は相反関係にあり、長年にわたり、パネルメーカーの利益が上がるときはセットメーカの利益が下がってきた。しかし、2020年第3四半期と直近の2021年第1四半期は、パネルメーカーとセットメーカーの利益が同時にのび、win-winの関係が生まれているのは注目に値する。

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    図2 2015年-2021年の四半期ごとの代表的なパネルメーカー2社(LG DisplayとAUO)とテレビメーカー2社(LG Electronicsホームエレクトロニクス部門、Samsung Electronicsコンシューマエレクトロニクス部門)の営業利益の前年同期比増減率の推移 (出所:Omdia)

同氏は、FPD産業が新型コロナによって大きな影響を受けているとして、2019年(新型コロナ前の実績値)、2020年(新型コロナ中の実績値)、2021年(新型コロナ後の推測値)、2022年(新型コロナ問題が解決した場合の予測値)の4段階に分けて、13項目の指標のめまぐるしい変化の様子を一覧表で示した(表1参照)。

まず、FPDの需給バランスについては、新型コロナ前は供給過剰だったが、新型コロナ中はパネル工場の操業中止で供給不足に陥り、いまは需給バランスが取れているが、2021年位は供給過剰に陥ると予測されている。

TVパネルの需給関係はFPD全体の動向と同じだが、ITパネルの場合は、新型コロナ前はバランスが取れていたが、新型コロナ中および新型コロナ後はともに供給がタイトだが、2022年に新型コロナ問題が解決したら、タイトな供給は改善に向かうだろう。

デイスプレイドライバICの供給に関しては、新型コロナ前はCOF(Chip on Film)の供給不足に悩まされたが、2020-2021年は、200mmファウンドリの生産能力がひっ迫したため、ドライバICの生産能力確保が難しく供給不足に陥っている、2022年以降は、300mmウェハへ移行することで快方に向かうだろう。

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    表1 新型コロナウィルスの影響による2019年から2022年に至るFPD業界の主要指標の変化の概要 (出所:Omdia)