SUBARU(スバル)の新型SUVである2020年モデル「レヴォーグ」にはこれまで以上に見やすいカメラが搭載された。
これまでもスバルの自動ブレーキングシステムをはじめとするADAS(先端的ドライバー支援システム)システム「アイサイト」にはON SemiconductorのCMOSイメージセンサが搭載されていた。新型レヴォーグではそのカメラ性能が大きく向上した。ON SemiのCMOSイメージセンサ「AR0231」は、暗い所から明るい所までのダイナミックレンジが120dBと広く、従来の2倍の2.3Mピクセルの画素でステレオの2眼カメラでしっかり見る。加えてLEDフリッカーノイズを抑制する機能も持つ。
ダイナミックレンジが広いということは、トンネル内部のようなくらい場所から出口の明るい場所に移動してもはっきり見えるという意味である。人間の眼にはまぶしすぎて良く見えないことがあり、カメラも同様だ。そこで、暗いトンネル内ではカメラの絞りを開いた映像を撮り、明るい場所では絞りを十分に絞った映像を撮り、それぞれ重ねるのである。このようにしてダイナミックレンジを広げる。重ねた映像はもはや人間の眼を超えている。通常は、1フレームにつき3~4枚の画像を重ねる。
車載用イメージセンサに強いON Semi
また画素数を2.3Mピクセル、と従来の1.2Mピクセルよりも大きくしたのは、左右両側の映像をカバーするためだ。今回の新世代アイサイトに使われるカメラは2眼のステレオ映像であり、両眼で見る映像の視野角を広くした。
ON Semiconductorの車載向けイメージセンサの市場シェアは大きい。撮像を目的とする車載カメラ向けの用途では、58.5%のシェア(図2)、アイサイトのようなセンシングを目的とする車載センシングカメラ市場では77%という大きなシェアを持つ。
ON Semiがこれほどまでに車載用CMOSイメージセンサが強いのは、ZD(Zero Defect:欠陥ゼロ)に対する強い企業文化があるからだという。元々クルマには数千、数万と極めて多数の部品を使うため、1個の部品の故障率がppm(parts per million)では大きすぎて不十分。10億個当たりの欠陥数ppb(parts per billion)レベルで表すという。
ダイナミックレンジを広くとることは、高速に写真を撮るフレームレートと深く関係する。ダイナミックレンジを広くとると、フレームレートが落ちる。画像を何枚も重ねて処理する時間が1枚のフレームにつき必要となるからだ。このため、今回の新製品AR0231では、1フレームを作るのに最大4回露光して120dBのダイナミックレンジを確保する場合は最大30フレーム/秒(fps)だが、1フレームあたり3回露光して120dBのダイナミックレンジを確保するなら40fpsの高速化が可能になる。
また、画素数を増やすため、ピクセルサイズを3μmと微細にしながら低照度でも光量を確保できるように工夫したという。
フリッカーにはシャッター時間を長くとる
イメージセンサでは、交通信号やクルマのLEDヘッドライトやバックライトのチラつき(フリッカー)もなくす必要がある(図3)。このフリッカーは、LEDチップを多数並べる照明用途で伴う。LEDフリッカーを知るためには、LEDドライバの仕組みを簡単におさらいしよう。
LEDドライバは、多数並んだLEDランプをすべて同時に並列に動かすことは不経済である。このため、20個のLEDで照らす場合、例えば5個直列につなぎ、それを4列のストリングとして並列接続する。もし、大量に直列につなぐと1個でも壊れたらすべて点灯しなくなるが、1列のストリングあたり5個直列接続し、それを4列のストリングで並列につなげると、もしLEDが1個故障してもその列だけが故障し、残りの3列は明るく点灯していることになる。
LED照明では、LED1個の駆動電圧が3Vとすると5個直列なら15V必要になる。それが4列のストリングで構成されていれば、LEDドライバは時分割で例えば1列目は20ms間15Vを供給し点灯させたら、次に2列目のストリングに20ms間15Vを供給し点灯させ、3列目、4列目へと次々と点灯させていく(図3)。すべての列が点灯したら元に戻る。これだと経済的にしかも低い消費電流ですべてのLEDを点灯できる。人間の眼には残像があるから、すべてのLEDが一様に点いているように見える。
LED照明をCMOSカメラで撮影すると、点灯していない時間帯にたまたまシャッターを開けたら、そのストリングだけが点灯していないように見える。これがフリッカーだ。そこで、カメラ側ではLEDが点灯している時に、必ずシャッターを開けておくようにカメラ側のタイミング期間を長くとることで、点滅しないタイミングを避けることができる。
次は40fpsと140dBのHDRへ
今回のAR0231の開発は2015年にコンセプトを発表し、サンプルを出荷した。今回の新型レヴォーグに搭載され量産が始まるまでに5年かかった。車載用途では早いほうかもしれない。
次の目標はさらなるダイナミックレンジの拡大と、相反するフレームレートの高速化として、40fpsで140dBが目標となっている。またLiDARやレーダーとの組み合わせもいずれ求められ、センサフュージョンの開発がカギを握ることになる。その製品化はまだ発表できる状態にはないとしている。