成熟したFMM技術と革新技術として期待されるフォトリソグラフィ/印刷方式

従来のFMM(ファイン・メタル・マスク)を用いたAMOLED技術は、長い時間をかけて開発・製造されてきた経緯もあり、関連機器および材料のサプライチェーンも確立されている。この第6世代から第8.6世代(G8.6)への移行における主な課題は、生産エリアの拡大に伴う均一性に関する歩留まり問題の解決であり、近年の適用用途がスマートフォン(スマホ)からノートPCを中心とする中型パネルへと移行する中で、従来からのFMM AMOLED技術の利点は、顧客の需要を満たす上で優位に立つ可能性があるとTrendForceでは指摘している。

FMM AMOLEDに対し、FMMを用いずフォトリソグラフィを活用するViP技術は、RGBピクセル配列を可能にし、1700PPIを超える解像度仕様を実現するなど、理論的な利点を有していることから、さまざまなサイズとニーズに対応できる可能性がある。しかし、最大の課題はピクセル層を1つずつ選択的に堆積し、封止する必要があるという製造プロセスで、RGBのピクセルを完成させるためには、蒸着、フォトリソグラフィ、封止を複数サイクル行うことが求められ、その繰り返しプロセスにおける歩留まりの制御と向上を実現する必要があるとTrendForceでは指摘している。

また、CSOTはIJP OLEDを長い時間をかけて開発を進め、ようやく最近になって量産化に着手した。印刷プロセスを用いてRGBピクセル配列を形成できるため、従来の蒸着法とは異なり、材料利用率が高く、理論上はコスト面で優位性がある。しかし、プリントヘッドの性能と材料分子サイズの制約により、現状の解像度は350PPI程度が上限となっているほか、溶剤系材料の特性上、製品寿命の面でも改善の余地があることが課題だとTrendForceでは指摘している。現在、CSOTはIJP OLED技術への多額の投資を継続している数少ないパネルメーカーであるが、完全な設備と材料のサプライチェーン構築にはかなりの時間とリソースが必要になりそうだという。

TrendForceによれば、IJP OLED技術の仕様と現在の市場動向を踏まえると。当初はモニター市場で採用される可能性が高く、その後、高PPIノートPC市場へと採用が拡大することが想定されるというが、この流れは今後2年ほどで、IJP OLED技術がモニター市場において優位性を発揮している韓国勢のQD-OLEDおよびWOLED技術と競合することを意味するという。

  • 3種類のAMOLED製造技術の比較

    3種類のAMOLED製造技術の比較 (出所:TrendForce)

AMOLED技術のコストシミュレーション

さまざまな技術的アプローチにおけるコストは、材料利用率、製品歩留まり、性能といった要因などで異なってくる。ViP技術は、当初の歩留まりが低いため、初期段階では16インチノートPC用パネルの生産コストが1000~1500ドル以上にも達する可能性があるとTrendForceでは指摘している一方、同時期の第8.6世代FMM AMOLEDの生産コストは300~400ドルと推定しており、約3~4倍のコスト差が生じることとなる。ただし、ViP技術の歩留まりが急速に向上すれば、コスト削減が加速し、最終的にはFMM AMOLED技術のコストレベルに近づく可能性があるともしている。

またIJP OLED技術のコストは、従来のFMM AMOLED技術と比較して、材料利用率が高く、材料コストを約20~30%削減できる可能性がある一方で、現状では材料性能が従来のFMM AMOLEDよりも低く、歩留まりの低下につながる可能性があることから、16インチノートPC用パネルの生産コストは、当初はG8.6 FMM AMOLEDよりも高い可能性があるとするが、材料性能の向上が進むにつれて、将来的にはコストの最適化と削減が進む可能性があるとする。

変革が進むディスプレイ業界

世界で公になっているG8.6 AMOLED生産ラインは4本。このうち3本が中国勢によるもので、しかもいずれもが異なる生産方式を掲げている。このように中国勢はG8.6 AMOLEDに積極的な戦略で攻勢をかけており、さまざまな技術の実現可能性を探り、リスクを軽減しながら、競合他社に対する優位性の確保と、先行者利益を確保する機会の模索を行っていると言える。

TrendForceでは、中型から大型のAMOLED技術と生産能力が将来どうなるかについて、以下の主要な開発要因に左右される可能性があると指摘している。

AMOLED過剰生産リスクの高まり - 価格戦争と普及率向上

現在の各社の生産計画に基づくと、ノートPC向けAMOLEDパネルの最大生産量は2035年までに1億台に達するという。これは、世界のノートPCパネル市場全体の年間生産量2億3000万台の43%を占める規模であり、TrendForceでは、パネルメーカー各社が稼働率を高め、普及率を向上させることを目的に、より積極的な価格戦略を採用し、ノートPC向けAMOLEDパネルの普及促進をはかる可能性があるとしている。

ただし、パネルメーカーが競争が激化する中において高い利益率を維持できるかどうかは不透明であるともするほか、量産初期段階では中堅企業の顧客基盤が限られているため、パネルメーカーはスマートフォン向けなどほかの用途への生産能力の再配分を検討することも考えられ、そちらの市場での競争激化も考えられるともしている。

サプライチェーンの現地化でコスト削減を狙う中国勢

また、中国内のAMOLED材料サプライチェーンは、過去数年間にわたって第6世代の生産能力拡大に牽引される形で成熟してきたが、現在はG8.6向け部品や材料に目を向けるようになってきているという。

海外と中国サプライヤの価格差は20~30%ほどとなることが多いことから、中国のパネルメーカー各社は、現地生産化を進めることで、徐々にコスト優位性を発揮できるようになる可能性がある。

仮に中国パネルメーカーが国産部品と材料を全面的に採用した場合、材料コストは約30%削減できることとなり、LTPO技術を用いた16インチのノートPC向けAMOLEDパネルを生産する場合、従来の酸化物TFTバックプレーン技術を使用したパネルの生産コストに近づく可能性があり、コスト競争力とサプライチェーンの自律性が向上するとTrendForceでは指摘している。

さらに、新規技術を推進する中国パネルメーカーの初期歩留まり率と仕様は、先行する韓国勢に届かないかもしれないが、中国には巨大な国内市場があり、それを基盤および実験場として活用することで、テレビ市場での成功モデルを再現できる可能性があるともしている。

低い生産コストは、現地OEMやニッチブランドの後押しにもなり、ITパネル向けサプライチェーンの洗練に向けた重要な原動力となる。またLCD市場での成功体験を活かす形での積極的な価格戦略とコスト最適化をAMOLEDでも適用することで、次世代ディスプレイでの優位性の確保を進めることが予想される。

技術開発と仕様細分化で差別化を図る韓国勢

追い上げる中国勢に対する韓国勢にとって、AMOLED市場は絶対に負けられない戦いといえる。中国勢の積極的な生産能力拡大に対し、韓国勢の中核戦略は、より深い研究開発に基づく専門知識と歩留まり管理を活用したAMOLEDの仕様細分化をベースとした製品市場ごとのポジショニングの確立だとTrendForceでは指摘している。

例えばハイエンド市場では、技術の優位性を維持するために、技術ベンチマークを継続的に引き上げることが必要となるとするほか、中低価格帯市場ではコスト最適化と既存生産ラインの減価償却の利点を活用し、収益性を維持しながら顧客に合理的な仕様と競争力のある価格を提供することで後発企業の利益率を圧迫することができるとしている。

なお、TrendForceは、韓国企業であれ中国企業であれ、より包括的なリソースを持つ大規模パネルグループがより有利な立場を占めると結論付けており、そうした企業はすでに新たなAMOLEDの生産能力確保や新製品投入に伴う初期コストの圧力に対して初期段階から適切に対応できる体制を構築済みであるとしている。