ここまで、さまざまなセンサー機器の話を取り上げてきた。モノによって、機内に収容できる場合と、外部に突出物(ひっつきもの)が発生する場合がある。そして後者では、当然ながら空力的な影響が発生する。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

フェアリングが張り出して速度性能や航続性能が低下

分かりやすいところでは、センサー機器(のフェアリング)が外部に突出した結果として空気抵抗が増えて、最高速度が落ちる事例がある。その一例がB-52ストラトフォートレス爆撃機。

B-52は核兵器を搭載する戦略爆撃機として作られた機体。そこで、核爆発の際に発生する閃光から乗員を保護するために、熱線遮蔽カーテンをひいて飛行できるようにした。

ところが、熱線遮蔽カーテンをひいた状態では外が見えないから、外部視界を得る手段を別に用意した。それがAN/ASQ-151 EVS(電子視界システム)で、AN/AAQ-6赤外線センサー(右側)とAN/AVQ-22低光量TVカメラ(左側)で構成する。

  • B-52Hの機首。機首下面の手前側がAN/AVQ-22、向こう側がAN/ASQ-151 撮影:井上孝司

こんなモノが大きく張り出して、空力的な影響が生じないはずがない。結果として、航続性能が悪化した。高高度を飛行する場合で2%、低高度を飛行する場合で2.7%の減少になったという。空気が薄いところを飛ぶときの方がペナルティが少ないわけで、いわれてみれば「なるほど」と納得する。

具体的な数字は確認できていないが、おそらく、最高速度にもペナルティがあったと思われる。

また、B-52のうちG型では、電子戦機器を追加搭載するスペースを確保するため、胴体を40インチ(1,016m)延長する改造を実施した。これもまた空気抵抗を増やして航続性能に響き、1.1%の減少になったという。機体の表面積が増えて、摩擦抵抗が増えたのだろうか。

フェアリングが張り出して直進安定性が低下

大きなアンテナ・フェアリングが外部に突出したり、あるいは背中にレーダーのアンテナを背負わせたりした結果として、空力的な悪影響が生じて、直進安定性が低下する場面がある。特に、早期警戒機や電子戦機、電子情報収集機に見られる傾向。

例えば、米海軍はダグラスADスカイレイダー艦上攻撃機の胴体下面にレーダーを追加設置して、早期警戒型のAD-3Wを造った。ところがこれは胴体下面に大きなフェアリングが張り出して、その結果として直進安定性が低下した。

そこでどうしたかというと、水平尾翼の真ん中あたりに垂直安定板を追加した。同じような話が、TBMアベンジャー艦上攻撃機を改造した早期警戒型のTBM-3Wでも発生している。

これらは昔の機体だが、近年でも似たような話はいろいろある。エンブラエルのリージョナル旅客機EMB-145にエリクソン(現サーブ)のエリアイ・レーダーを載せた早期警戒型では、T尾翼の先端に設けられた水平尾翼から垂直安定板を生やしただけでなく、後部胴体下面にベントラルフィンを生やし、さらに胴体側面にも小さなフィンを生やしている。

ボーイング737にノースロップ・グラマン製のMESA(Multi-role Electronically Scanned Array)レーダーを載せたE-7ウェッジテイル早期警戒機も、後部胴体下面にベントラルフィンを追加している。

  • オーストラリア空軍のE-7ウェッジテイル。後部胴体の下面にベントラルフィンが追加されている 撮影:井上孝司

  • こちらはオーストラリア空軍のP-8Aポセイドン哨戒機。同じ737ベースだが、こちらは大きな「ひっつきもの」がないので、ベントラルフィンは追加していない 撮影:井上孝司

  • スウェーデン空軍のガルフストリームG550電子情報収集型。これもやはり、後部胴体の下面にベントラルフィンが追加されている 撮影:井上孝司

  • こちらは素の状態の民間型G550。後部胴体の下面にベントラルフィンはない 撮影:井上孝司

影響が生じやすい場所、影響が少ない場所

こうしてみると、センサー機器が外部に突出している機体で、さらにベースの機体にはないフィンが加わっている場合には、何かしらの空力的悪影響があったのだと推察できそうだ。

もっとも、これは致し方ないところがある。ベースになった機体を設計した時点で、「ひっつきもの」が加わることが分かっていれば、それを想定した設計ができるかもしれない。しかし、機体が完成した後で「ひっつきもの」が加われば話は別。

もっとも、「ひっつきもの」がどこに取り付くかという問題もある。機首、胴体の周囲、主翼といったあたりに取り付けば、これはもう空力的な影響は不可避だ。しかし、同じ胴体でも尾端なら、比較的、影響は少なそうではある。

例えば、P-3C哨戒機は尾部にMAD(Magnetic Anomaly Detector)ブームを突き出しているが、それに関連して空力付加物を追加するような真似はしていない。

特に何もしていないヘリコプター

ヘリコプターでも「ひっつきもの」の展覧会になっている機体は多々あるが、こちらは固定翼機と違い、空力付加物を追加する事例はあまりないようだ。

そもそも飛行速度が固定翼機と比べて遅いし、エンジンとローターで浮揚力や推進力を生み出しているヘリコプターでは、固定翼機とは事情が違うということか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。