13回にわたり「航空機とセンサー」についてお届けしてきたが、今回は、ちょっと毛色の変わったところで、「使うときだけ外に出てくるセンサー機材」の話を取り上げてみる。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照。
U-125救難捜索機
航空自衛隊に、U-125A救難捜索機という機体がある。ホーカー・ビーチクラフト製のホーカー800というビジネスジェット機をベースにして、所要の機材を搭載して救難捜索機に仕立て直した。
救難機とは、墜落あるいは不時着した機体の搭乗員(サバイバー)を発見・救出するための機体だが、航空自衛隊では「現場に先行してサバイバーを見つけ出す救難捜索機」と「見つけたサバイバーをピックアップする救難ヘリコプター」の二本立て体制をとっている(ただし将来的には、後者だけの態勢になる)。
救難捜索機には「いかにして迅速にサバイバーを見つけるか」という課題がある。そこで、胴体下面には捜索用レーダーを設置しており、このために大きなフェアリングが張り出した。さらに、機首下面に赤外線センサー(TIE)を、側面には目視捜索を容易にするための大きな窓を設置している。
その他の機材として、左舷側の主脚収納室には保命用援助物資の投下装置を、後部胴体には発炎筒の投下口を設けている。前者は、発見したサバイバーが生き延びられるように支援するためのもの。後者は発見したサバイバーの位置をマークするためのもの。
このうち本稿のお題になるのが、機首に取り付けたTIE。
機首下面のTIEは収納式
夜間でも捜索や状況認識を行えるように、赤外線センサーを搭載した機体はいろいろある。たいていの場合、機体の動きと関係なく任意の方向を見られるように、旋回・俯仰が可能なターレットを用意して、そこに赤外線センサーや可視光線用の電子光学センサーを組み込んである。
以下の写真は米空軍のMC-130特殊作戦機が機首下面に備えているセンサー・ターレット。常にむき出しだが、使用しないときはセンサーを後ろ向きにしている。鳥との衝突あるいは大気中の粉塵などによって、センサーや、その前面にあるガラスが損傷しないようにという配慮である。
この「使わないときは後ろに向けておく」は一般的な運用だが、U-125Aでは毛色の違うことをしている。TIEのターレットそのものを、使わないときは機内に引っ込めてしまう。以下の写真は、普段は引っ込めているTIEを出して見せていたときのもの。冒頭の写真と見比べてみて欲しい。
収納式TIEと機体構造の関係は?
収納式のセンサー機材を設置すると、胴体には、それを出し入れするための開口が必要になる。もともとの設計にない開口を設ければ、与圧された機体の内部と、気圧が低い機体外部の間に生じる圧力差を受け止める際の隘路ができそうなもの。
すると、開口の周囲を補強する等の対策が必要になりそうではある。補強を追加すれば機体が重くなるし、改造に際しての工数が増える。もちろんコストにも影響する。
そこで、U-125のベースになったホーカー800の内部配置を調べてみた。問題のTIEは首脚収納室の前方に組み込まれているが、ベースモデルのホーカー800では、ここは気象レーダーを収容するレドームになっている。つまり、もともと与圧範囲外である。
前述したように、U-125Aは捜索用レーダーを胴体下面に設置している。そこで機首のレドームを空き家にして、そこに収納式のTIEを設置した……そういう話になるようだ。これなら機体構造に大きな影響は及ばない。
収納式にすれば、何かにぶつかって損傷する事態を避けられるだけでなく、「ひっつきもの」が出っ張らなくなるから、空気抵抗の面でも有利になる。おそらくはそういう考えもあったのではないか。
速度が遅いヘリコプターなら、「ひっつきもの」が盛大に取り付いていても大した影響はなさそうだし、実際、救難ヘリコプターや特殊作戦ヘリコプターはそんな機体が多い(それがまた趣味的な魅力ポイントでもある)。しかし固定翼機、それも現場に早く駆けつけたい救難捜索機では事情が違う。
意外と事例が少ない収納式センサー
では、他に収納式センサーの搭載事例がないかと考えてみたが、皆無ではないものの、案外と思いつかない。
センサーを収納式にするには、使用しないときに収納するスペースが機内側に要る。しかも、出し入れするためのメカも必要になる。前述したように、与圧されている区画に開口を設けて出し入れすると、機体構造にも影響が及ぶ。
そこまでしてセンサー機材の保護や空気抵抗の低減を図るメリットと、収納式にすることで生じるコストやデメリットを勘案すると、どうなるか。よほどの必然性がある場合を除いて、外部に「ひっつきもの」を突出させる方が現実的。そういう結論に落ち着くのではないか。
U-125Aの場合、好都合の空きスペースがあった事情は無視できないだろう。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第4弾『軍用レーダー(わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。