前回は「上方を見るセンサー」を紹介したが、上方の話が出てきたからには、「下方を見るセンサー」の話も出すのが筋というものであろう。ということで今回は、特に「下方」に特化したセンサー機材の話を。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

下方を見るためのレーダー

飛んでいる飛行機から下方に向けて、何らかのセンサー機材を使用するのは、下方にある何かを探知したいから。そして、飛んでいる飛行機から下方を見ると、地表や海面が見える。だから、下方を見るためのセンサーは基本的に、地表や海面の上にある何かを対象とするもの、となる。

地表を見る場合

例えば、地表であれば、合成開口レーダー(SAR : Synthetic Aperture Radar)を用いて地表の凸凹をレーダー映像にする使い方がある。SARには地上移動目標識別(GMTI : Ground Moving Target Indicator)の機能を備えたものもあるが、これは地上を走り回る車両が対象。

どちらにしても、レーダーのアンテナは胴体の下面に設置するのが最善となる。降着装置が引き込み式になら、飛んでいる間、胴体下面はクリーンだから具合が良い。

その一例が、米空軍が運用している戦場監視機E-8C J-STARS(Joint Surveillance Target Attack Radar System)。中古のボーイング707を買ってきて、胴体下面に細長いアンテナ・フェアリングを追加した。この中にSARが収まっている。

  • E-8C J-STARS。地上にいる状態で見ると、胴体下面のアンテナ・フェアリングは地表ギリギリだ 写真:USAF

E-8Cを正面から見ると、そのアンテナ・フェアリングを頂点として左右に広がりを持たせた、扇形の範囲をレーダーで走査することになると分かる。そして機体は常に前進飛行しているから、走査する範囲が機体の進行方向に沿って変化する。

海上を見る場合

では、海上ではどうか。海上で空中から下方を捜索するニーズというと、まず低空を飛翔する対艦ミサイルがある。艦船が搭載するレーダーでは、ターゲットが水平線から姿を現すまで探知できないが、上空にヘリコプターを飛ばして捜索レーダーを作動させれば、もっと広い範囲を捜索できる。言い換えれば、早いタイミングで脅威の飛来を知ることができる。

また、潜水艦が海面上に潜望鏡やシュノーケルを突き出すことがあれば、それをレーダーで探知することで潜水艦の存在を把握できる。もっとも、潜水艦の側もそれは心得ているから、潜望鏡やシュノーケルを出すタイミングには気を遣うのだが。

すると、こちらの用途で使用するレーダーも、胴体下面、あるいは機首や尾部に下方向きに設置するのが一般的となる。分かりやすいのは、SH-60系列の哨戒ヘリコプターが前部胴体の下面にレーダーを備える事例だろう。SH-60Bの場合、AN/APS-124というレーダーを使う。

この機体が装備するレーダーは回転式のアンテナを使用しているのか、胴体下面に取り付けられたレドームは、深いお盆をひっくり返したような形になっている。

  • 海上自衛隊のSH-60K。胴体下面にお盆のようなレドームがある様子が分かる 撮影:井上孝司

AN/APS-124のレドームはかなり大柄だが、SH-60Bの前任であるSH-2F/Gシースプライトは、比較的、小柄なレドームを胴体下面に突き出させている。

  • こちらはSH-2G。同じように胴体下面にレーダーを設置しているが、だいぶ小柄 撮影:井上孝司

ヘリコプターは速度が低いせいか、単純な円筒形のレドームを設けることが多いが、速度が上がってくると空気抵抗にも配慮したい。だから、固定翼哨戒機のP-2VネプチューンやP-2Jといった機体は、胴体下面に流線型のアンテナ・フェアリングを突出させていた。海自で使用していたP-2シリーズの場合、面白いことに、後から出てきたP-2Jの方が、アンテナ・フェアリングが小さい。

写真偵察機とカメラ窓

ここまではレーダーの話だったが、光学センサーの事例もある。たとえば米海軍の艦上偵察機・RA-5Cヴィジランティは、当初は核爆弾搭載スペースとして設けた胴体中心線上の空間に、下向きのカメラ機材を設置した。

そのカメラのために、窓を開けた張り出しが胴体下面に突出している。下方向きのカメラは下面に窓があるが、前下方を見るためのカメラもあり、そちらの窓は張り出しの最前部を斜めにして、そこに設けてある。こうしたカメラ窓の設置手法は、多くの写真偵察機に共通する。たとえばRF-4Eファントムもそうだ。

  • RA-5Cの胴体下面に設けられたフェアリング。手前が前方で、前方向きと下方向きのカメラ窓を設けた様子が分かる 撮影:井上孝司

もっとも、何にでも例外はあるもの。第二次世界大戦中に作られた写真偵察機の中には、コックピット後方に側面向きのカメラを載せた機体や、コックピット後方の胴体側面に斜め下向きのカメラを載せた機体もあった。ロールを打って機体を傾けないと地面が見えない、なんてことにならなかっただろうか?

胴体下面はクリアランスが問題になる

このように、胴体下面にレーダーを取り付けてフェアリングで覆った機体はいろいろあるが、胴体下面に設置するとなると、ひとつ問題がある。胴体と地面の間の空間は決して大きくないが、そこに押し込めなければならない。

だから、SH-60BのAN/APS-124レーダーは平べったいフェアリングを使用している。また、E-8Cが地上にいるときの写真を見ると、アンテナ・フェアリングと地面の間の隙間はギリギリまで抑えられている様子が分かる。

「それなら引き込み式にしたら」という意見もあろう。確かにそうすればクリアランスの面では有利だが、胴体下面に大きな開口を設けなければならないし、上げ下げするためのメカが増える。そして機内には、引き上げたアンテナ一式を収容するスペースが要る。つまり、機内のスペースを余分に食う上に重量が増える。

「引き込み式がダメなら、降着装置を長くしたら」という考えもある。しかし、これはこれで難点がある。降着装置が長くなれば、その分だけ重くなる上に、収容スペースも大きくなる。日本海軍の局地戦闘機「紫電」みたいに伸縮式の降着装置を使えば、複雑になって故障の原因が増える。

それであれば、高さを抑えつつも要求通りの性能を出せるアンテナを開発するために手間とコストをかける方がマシ(かもしれない)。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。