航空機の機体構造を対象とする状態監視・寿命管理というと、よく用いられるのは、機体構造材にセンサーを取り付けて、荷重負荷を測定する手法。どの部位にどれだけの負荷がかかったかを継続的にモニターすることで、どれぐらい傷んだかを知る。アプローチとしては間接的といえる。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

AIソリューションを提供するOdysightという会社

といっていたら、イスラエルの航空機メーカー・IAI(Israel Aerospace Industries)が、 Odysightという会社の状態監視ソリューションを導入する、という話が伝えられた。もともとOdysightは、航空、輸送、エネルギー業界の重要なシステムを対象として、動画ベースのソリューションを提供しているのだという。

Odysightのプレスリリースによると、このソリューションは「動画センサー、組み込みソフトウェア、人工知能(AI : Artificial Intelligence)アルゴリズムを利用する」という。つまり、構造材をカメラで撮影して、その映像をAIで解析することで状態監視を行うわけだ。アプローチとしては直接的といえる。

そして、機体の状態をリアルタイムで把握することで予防保全を可能とするとともに、ダウンタイムの局限やスペアパーツ管理の最適化も図るとの説明だった。対象機種はUH-60ブラックホーク汎用ヘリコプターとのことだが、どこの国の機体かは明らかにされていない。

  • 米国の多用途ヘリコプターUH-60Aの航空自衛隊救難機向けの改造機 引用:航空自衛隊

機体構造の監視、と書くだけなら簡単だが、フレームや外板のあらゆる部分をカバーできるようにカメラを設置して回るわけではないと思われる。理屈の上では可能だが、それでは機材と配線が多く必要になり、機体を重くしてしまう。そうなると、本来の任務に差し障りがある。

そう考えると、機体構造のうち、特に枢要な部分、クリティカルな部分を対象としてカメラを設置して、画像解析をかけるのではないだろうか。ただ、機体構造の、そのまた内部の話である。場所によっては十分な光量を得られない可能性が考えられそうだし、飛行中には振動の影響もあり得る。

そうした中で、状態監視に使える品質を備えた映像を得るのは簡単ではないだろう。それこそがまさにノウハウであり、Odysightが得意とするところということだろうか。

Odysightが提案する用途いろいろ

そこでUH-60の話をいったん離れて、Odysightがどんなユースケースを提案しているのかを見てみた。例として挙げられているものには、ベアリング、クランクシャフト、配管の漏れ対策といったものがあった。

ベアリングの場合、ScoutCamという会社の映像センサーを組み込んで、映像による状態監視を行うのだという。動作しているベアリングの映像を解析して、微量の変形を見つけ出すだけでなく、変形の進行や発展の状況を見張る。こうすることで、クリティカルな事態に至る前に手を打てるようにする、との話であった。

分かりやすいのは配管の漏れ対策かもしれない。実際に漏れが起きた後なら、圧力が低下したり、出てくるはずのものが出てこなくなったりといった事象が発生するから、それを受けて配管の点検を行い、漏れが発生している部位を突き止める。

そこで配管にセンサーを取り付けて映像で見張り、解析していれば、漏れに至るクラックが発生する前に、その予兆を把握して予防的な対処を行えるのではないか。これは、機体構造のクラック対処にも通じる考え方、といえるかもしれない。

そして、AIによる画像解析全般に通じる話だが、「どういう画が出てきたらクラックや変形の予兆なのか」のデータを収集・学習させて、誤警報がなるべく少なくなる仕組みを構築する必要がある。いくら有用そうなシステムでも、誤警報が多発したのでは、ただの狼少年になってしまう。どれだけのデータを収集して、適切な学習を行えるかが鍵になる。

映像以外の材料は?

機体構造材が対象であれば、映像の解析で目的は達せられそうだ。では、機体構造以外の部分、例えばエンジンやトランスミッションはどうだろうか。

上でベアリングや配管の例を挙げた通り、こうしたダイナミック・コンポーネントでも、もちろん映像解析の出番はあると思える。しかし「動く機械」が相手の場合、音や振動も、不具合を知るための重要な材料になるのではないか。

ただ、飛んでいるヘリコプターの機内はけっこうやかましいので、そこで故障の予兆を示す音や振動だけを検知して拾い出すには、相応のノウハウが求められそうだ。筆者が思いつくぐらいだから、どこかの会社がこうした課題に取り組んでいても不思議はないと思えるが、どうだろうか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。