第373回では、「整備のしやすい機体、しにくい機体」など、「航空機の整備性」についていろいろ書いた。その話の流れで、今回はF-35の整備性について書いてみようと思う。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

小さなサイズで中身はギッシリ

F-35Aの全長は15.7m、全幅は10.7m。いずれも、F-16よりちょっと大きいぐらいの数字だ。

ところが、その機体の中に8,278kgの燃料を搭載する。F-16の機内燃料搭載量は3,896Lだというから、比重を0.8とすれば3,117kg。つまりF-35の機内にはF-16の2.65倍の燃料が収まっている。それに加えて、2,000lb級の爆弾(全長が4mぐらいある)を2発と空対空ミサイルを2発収容できる機内兵器倉まで収まっている。

もちろん、真下から見るとお分かりのように胴体の幅はF-16の2倍以上ありそうだし、燃料は胴体だけでなく主翼にも収まっている。とはいえ、このサイズの機体にこれだけの中身が詰まっているのは驚異的だ。当然、機体内部にはさまざまな機器がギッシリ組み込まれることになる。

ところが。中身がギッシリ詰まった設計なら、「整備性に悪影響が出ているのでは?」と思いそうになる。ところがよくよく見てみると、F-35という機体は整備性・作業性についても考えられている。それが今回のお題。

電子機器室には地上に立ったままアクセス可能

F-35の胴体両側面には、電子機器室が設けられている。エンジンは一つだから、コックピット後方左右に設けられた空気取入口からエンジンに向けてS字型のダクトが伸びており、ダクトが内側に曲がることでできる外側の空間に電子機器室、という配置になっている。

その電子機器室には、片側に通信・航法・識別(CNI : Communications, Navigation and Information)関連の機器がまとめられていて、これはノースロップ・グラマン製。反対側にはAN/ASQ-239電子戦装置関連の機器がまとめられていて、これはBAEシステムズ製。どちらの電子機器室も、地上に立ったままで容易にアクセスできる位置になっている。

  • 横に立っている人物との比較から、胴体両側面の電子機器室がアクセスしやすい高さにあることが分かる 撮影:井上孝司

また、コックピットの床下にはコンピュータなどの機器が収まっているが、これは首脚収納室からアクセスできる位置となる。地上にいる時は首脚が降りているから収納室は空いているわけで、そこからアクセスするのは良いアイデア。

同じように、コックピットの床下に機器を収めるのでも、下方からアクセスできなかったらどうなるだろうか。もしも、機器の点検整備・交換に際していちいち射出座席を外さなければならない、なんていうことになったら大変だ。

そもそも、射出座席をまるごと外そうとすると、その前にキャノピーを外さなければならない。大抵の戦闘機は、キャノピーが邪魔になって、そのままでは射出座席を外せないからだ。まずキャノピーを外して、射出座席を外して、上から潜り込む不自然な形で点検整備・交換を実施して、また逆の手順で元に戻して……なんてことをやっていたら、大変な手間がかかってしまう。

機内兵器倉にも地上から容易にアクセス可能

一方、機首に搭載されているAN/APG-81レーダーの機器室はレドーム直後だが、これもちょっとした足場があればアクセスできる高さにある。機首に収まっているセンサー機器類も同様だ。

また、地上で外から操作するスイッチ類や給油口は、胴体両側面に設けたアクセスパネルの中に収まっているから、これまた地上に立ったままでアクセスできる。そしてF135エンジンはもちろん、後方にガバッと引き抜いて交換できる。

  • 給油口は右側面にあり、ここからすべての燃料タンクに燃料を送り込める。こちらも地上に立ったままでアクセス可能だ 撮影:井上孝司

大きな機内兵器倉が胴体下面の左右に設けられているが、ここも「わずかなスペースも無駄にしないぞ」といわんばかりに、機器や配線・配管がいろいろ収まっている。これも、機内兵器倉の扉を開ければ地上から容易にアクセスできる。兵装搭載の際には開ける必要があるし、エンジン始動時にも開けるのが通例だという。

この機内兵器倉、地上に駐機しているときにローアングルで撮ろうとするとムチャクチャ怒られるのに、なぜかデモフライトでは必ずガバッと開けて見せるという謎空間だ。

  • F-35のデモフライトでは、機内兵器倉の扉を開けて見せるプログラムが組み込まれているのが通例。兵器倉の内部に機器・配線・配管がいろいろ収まっている様子が見て取れるだ 撮影:井上孝司

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。