これまで、「名前は同じでも機体は別物」というテーマでいろいろ書いてきたが、締めくくりとして、特定の機種ではなく「いまどきの戦闘機の一群」を取り上げてみることにした。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

ハードウェア主導からソフトウェア主導へ

これまでに取り上げてきた機体ではいずれも、「別物」を意味する相違点として、ハードウェアの相違を挙げてきた。搭載する機材であったり、主翼であったり、機体構造材の設計であったりと対象はさまざまだが、いずれもハードウェアである。

しかし一方で、航空機のさまざまな分野にコンピュータが入り込んできたことで、そのコンピュータを動かすためのソフトウェアが大きな比重を占めるようになってきた。すると、機体の外見やハードウェアが同じであっても、機体や搭載システムを制御するためのソフトウェアが新しくなれば能力が向上する、ということが普通に起きる。

特に、そのことを前面に出している機体としては、御存じF-35に加えて、サーブJAS39グリペンや、ダッソー・ラファールがある。JAS39グリペンのキャッチフレーズは “Smart Fighter” だが、これは外見を指しての話ではない。ソフトウェアの能力向上によって情報処理能力が向上したり、搭載可能な兵装が増えたりする点こそが本筋といえる。

  • サーブJAS39グリペン。ソフトウェアの更新による進化がセールスポイントの一つ 撮影:井上孝司

F-35に見るソフトウェアの改良

もっとも身近な機体だから、F-35を例にしてみる。よく知られているように、F-35には大きく分けると「ブロック1」「ブロック2」「ブロック3」「ブロック4」という分類があるが、これらは機体やミッション・システムを制御するソフトウェアのバージョンを意味している。ブロックごとの違いを簡単にまとめると、以下のようになる。

ブロック1

基本的に機体の飛行試験用で、センサー機器の動作は限定的。ブロック1Aでは速度制限450kt、荷重制限値5G。ブロック1Bではこれが速度制限500kt、荷重制限値5.5Gに引き上げられた。目標指示装置のAN/AAQ-40 EOTS(Electro-Optical Targeting System)が使用可能になったのは、ブロック1Bから。

ブロック2

ブロック2Aでデータリンクの基本機能が動作するようになったほか、AN/AAQ-37 EO-DAS(Electro-Optical Distributed Aperture System)のセンサーがすべて動作する。ただし、ヘルメット・サイトへの表示はまだできない。ブロック2Bで初めて、兵装、センサー、データリンク、データ融合の機能がひととおり動作するようになり、限定的ながら戦闘任務に対応可能となった。

ブロック3

ブロック3iでF-35Aの内蔵機関砲が使用可能になり、ブロック3Fで当初予定の機能がすべて実装された。荷重制限値は、ブロック3Fで当初予定の限界値(A型が9G、B型が7G、C型が7.5G)まで引き上げられた。

ブロック4

搭載兵装の拡大、機体構造の寿命延伸、データリンク機能の強化など、大幅な能力向上を図る。

ソフトウェアの改良で不具合が直ったり機能が増えたり、飛行性能が向上したりしている様子が分かる。一方で、困った話もあった。ブロック3Fでは不具合が発生する度にバグを直して修正版をリリースしたため、2017年10月時点で31種類ものサブ・バージョンができてしまったという。

  • F-35Cの開発試験用機(CF-02)。この写真だとよく分からないが、EO-DASはまだ装備しておらず、センサー窓はふさがれている 撮影:井上孝司

  • こちら、実戦用のF-35C(CF-20)。といっても、写真の機体はロット6量産分だから、まだ仕様は古い部類。もちろんEO-DASは付いている 撮影:井上孝司

F-35に見るハードウェアの改良

ここまではソフトウェアの話だが、ハードウェアも改良されている。こちらはTR(Technical Refresh)という言葉で区分されており、初期型はTR1、現行型はTR2。

これから出てくるロット15量産分から新しいTR3に変わる。ハードウェア仕様が新しくなると、中核となるコンピュータ(ICP : Integrated Core Processor)が新形になり、処理能力が向上する。

面白いのはブロック2Bとブロック3iの関係。ブロック2B仕様機のハードウェアはTR1だが、同じソフトウェアをTR2仕様のハードウェアに移植したのがブロック3i。だから、この両者は能力的にはおおむね同等となる。ブロック4も同じで、まずTR2仕様の機体を使って開発と熟成を図り、それから本来の対象であるTR3仕様の機体が出てくる。

インストールされているソフトウェアの違いも、ハードウェア仕様の違いも、外から見ても分からない。しかし、同じ外見のF-35でも、初期ロットの機体と最新ロットの機体では能力に大差がある。

F-35以外でも事情は似たり寄ったり

情報が豊富なので、F-35について詳しく書いたら、意外と文字数が伸びてしまった。実のところ、他の戦闘機も事情は大同小異だ。

F/A-18E/FスーパーホーネットはブロックI~IIIまであるが、外見は大して変わらない。しかし、ブロックIIでレーダーが機械走査式のAN/APG-73からAN/APG-79に変わるという大変化があり、ブロックIIIでは情報処理能力やネットワーク能力、コックピットの表示機能が強化される。

JAS39グリペンは、最新のMS20ブロック2仕様になるとレーダーがPS-05/A Mk.4仕様になり、空対空の追尾能力が強化される。また、データリンクの機能強化、最新のNATO向け秘話通信機能・敵味方識別機能の導入、IRIS-T(InfraRed Imaging System - Tail/Thrust-Vector Controlled)空対空ミサイルやGBU-49/B誘導爆弾への対応が実現する。

ラファールも、F1、F2、F3、F4と段階的に能力を高めているが、現時点での最新型はF3Rで、F4仕様機もそろそろ実戦配備が実現しそうだ。ハードウェアとソフトウェアの両面から機能を高めているのは他機と同様で、その割に外見がほとんど変わっていないのも同じだ。

  • ダッソー・ラファール。これもソフトウェアの更新で機能を高めている戦闘機の一つだが、外見はほとんど変化していない 写真:USAF

細々した話を書き始めると際限がないが、重要なのは「外見の変化だけで能力的な変化が分かる時代ではなくなった」ということである。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。