今回のお題は、B-52Hストラトフォートレス爆撃機。といっても、「同じ名称のままで、中身が別物の機体が作られた」という従来のパターンとは異なる。今回の場合、「同じ機体が時代を経るにつれて別物になってしまった」である。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照。
すでに60年選手
ある程度の年齢の方なら、B-52と聞くと「ベトナム戦争における北爆」を連想しそうだ。実際には南ベトナム領内でもいろいろやっているのだが、それはともかく。
米空軍機のシリアルナンバーは、発注した会計年度の数字が入っているので、いつ発注した機体かが分かりやすい。そしてB-52Hの場合、最初の機体が「60-0001」つまり1960会計年度、最後の機体が「61-0040」つまり1961会計年度。2年度で一気に102機を製造した。実際に機体が完成して納入されるまでには少し間が空くが、なんにしても機齢は60年を超えている。
しかし、シリアルナンバーと見た目は大して変わっていないものの、中身はすっかり別物。近年では極超音速ミサイルの試射にもB-52Hが使われている。1960年代に作られた機体に、2020年代の最新型ミサイルという組み合わせ。
電子機器を交換また交換、そしてエンジンも
B-52Hは、共産国の防空システムから身を護るために電子戦システムを何度も更新しており、設置スペースを稼ぐために胴体の延長改造までやっている。その他のアビオニクスも更新また更新。近年ではCONECT(Combat Network Communications Technology)改修により、ネットワーク化への対応も図っている。
また、核爆発の際に発生する閃光から乗員を保護するために熱線遮蔽カーテンをひいて飛行できるようにした。その状態では外が見えないから、外部視界を得るための低光量カメラと赤外線センサーを、機首の下面に追加した。
-
B-52Hの機首。下面に張り出しているのがAN/ASQ-151 EVS(電子視界システム)で、AN/AAQ-6赤外線センサー(右側)とAN/AVQ-22低光量TVカメラ(左側)で構成する 撮影:井上孝司
もちろん、搭載できる兵装も変化した。B-52というと「核爆弾を搭載する爆撃機」というイメージが強そうだが、自由落下形の核爆弾から長射程の巡航ミサイルに、そして時代を経るにつれて通常兵器の搭載が増えた。それも、1990年代以降は精密誘導兵器が主流になった。
こうして新しい兵装に対応する度に、機体側の改修や管制システムの追加または交換が必要になるのは当然のこと。逆に、尾部に備えていた20mm機関砲みたいに、後になって降ろされた装備もある。
そしてとうとう、エンジンをプラット&ホイットニー製TF33ターボファンから、ロールス・ロイス製BR700ターボファンに載せ替えることになった。これについては第317回でも少し触れているので、繰り返さない。
こうなると、現時点で飛んでいるB-52Hにおいて、製造当初と同じパーツはどれだけ残っていることか。そして、これからエンジンを載せ替えるということは、まだ当分は使うということである。その間にまた、機器やパーツの交換が行われることであろう。
長寿は中身の変更を伴う
なにも飛行機に限った話ではないが、長く使っていれば、老朽化する部分、陳腐化する部分が出てくる。モノが高度で高価な製品であるほど、簡単にホイホイと後継を用意して取り替えるわけにはいかなくなり、老朽化したパーツを交換したり、陳腐化した機器を更新したりしながら使い続けることになる。
とりわけ運用期間が長いB-52Hにおいては、そうした傾向が顕著に出る結果となっている。そのB-52とワンセットになる空中給油機のKC-135にも同様の傾向があり、こちらは1980年代からすでに、エンジン換装機が出現していた(KC-135EのエンジンはB-52Hと同じTF33だったが、それをCFM56ターボファンに換装したのがKC-135R)。
また、KC-135では航法用アビオニクスの更新も行われている。民間の航空管制システムが新しくなると、それに対応する必要があるからだ。そうしないと、民間機と同じ空域を飛ぶのが難しくなってしまう。
B-52Hと同様に、米空軍のAFGSC(Air Force Global Strike Command)が所掌する、LGM-30GミニットマンIII大陸間弾道弾も同じ。ロケット・モーターも、誘導制御用の電子機器も、核弾頭を内蔵する再突入体も新しくなり、「いつの間にやらほとんど新品」といっても過言ではない状態になった。
特に航空機の場合、機体構造の寿命や疲労といったところがクリティカルになる。それはすなわち、長い運用期間の間に手を入れる場面が出やすいということ。そして軍用機では、搭載するミッション・システム(センサー機器、コンピュータ、電子戦システム、通信機器など)の陳腐化問題も出やすいから、これがまた、長い運用期間の間に何度も取り替えられる仕儀となる。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。