第363回で取り上げたシコルスキーのH-53シリーズ第364回で取り上げたベル・テクストロンのH-1シリーズは、同じ機体でもエンジンが増えて、外見が変わった。

ところが、今回取り上げるF-15イーグルの一族は、外見に大差がないのに、中身に大差が生じている。どんな違いがあるのだろうか。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

登場のきっかけ

もともと、F-15イーグルは制空戦闘機として作られた。つまり空対空戦闘が表芸である。一応、爆撃も可能ではあるが、「どうしても」という場面でなければ、爆撃はやらないだろう。

  • こちら、制空型のF-15Cイーグル。クリーン状態ということもあるが、見た目はスッキリしている 撮影:井上孝司

ところがその後、米空軍がF-111アードバークの後継となるDRF(Dual Role Fighter)の計画を立ち上げた。そこでマクドネルダグラス(当時)は、複座型F-15の戦闘爆撃機化を考えた。対して、ゼネラル・ダイナミクス(当時)はF-16をごっそり改設計して、クランクドアロー翼と呼ばれる、ダブルデルタの変形みたいな主翼を付けたF-16XLを提案した。

米空軍が採用を決めたのはF-15案であり、これがF-15Eストライクイーグルとなった。複座の制空型・F-15Dとの目立つ外見上の違いは、胴体の左右に取り付けられたコンフォーマル燃料タンクに兵装架がズラッと取り付いているところ。真下に向いたパイロンと斜め下を向いたパイロンがあり、そこに前後に3個ずつのボムラックを組み込んである。

また、夜間低空侵攻を前提としたため、そこで飛行と目標捕捉・指示を司るために、左右の空気取入口下面にLANTIRN(Low Altitude Navigation and Targeting Infrared for Night)ポッドを追加した。

  • こちら、F-15Eストライクイーグル。兵装ステーションを6カ所取り付けたコンフォーマル燃料タンクが加わり、さらに空気取入口の下にLANTIRNのポッドを吊るしているので、だいぶ印象が違う 撮影:井上孝司

平面型は大して変わっていないが、中身はまるで別物。アビオニクスが違うのは当然として、機体構造からごっそり再設計した。なぜか。

低空飛行は負荷が大きい

対レーダー・ステルス技術を適用していない機体が、地上・海上に設置された敵防空レーダーによる探知を避けようとすれば、低空飛行するしかない。そこで、F-15Eは夜間低空侵攻を前提とした設計になった。すると、機体構造にかかる負荷が問題になる。

高度が低ければ大気の密度が高く、おまけに気流の影響も受ける。高度を下げて、地形に紛れて飛べばレーダー探知を避けるのに有利だが、地形の変化に合わせて上昇・下降・旋回すれば、機体構造に大きな負荷がかかる。

そこでF-15Eでは、外見は変わらないものの、機体構造の六割ぐらいが改設計された。しかも、多くの爆装を搭載して飛ばなければならないから、最大離陸重量は二割方増やされた。と、ここまでは機体側の話。

ところが、夜間低空飛行を行おうとすれば、パイロットにかかる負担が大きい。それをなんとかしようということで、F-15Eには前述したLANTIRNという新装備が加わった。

まず、AN/AAQ-13 LANTIRN航法ポッドは、広視野の赤外線センサーと地形追随レーダーを内蔵して、夜間低空飛行に必要な情報を提供する。赤外線センサーの映像はHUD(Head Up Display)に表示するので、そこだけ(赤外線映像だが)前方の景色が見える。AN/AAQ-13のおかげで、夜間に手放し地形追随飛行ができる。

一方、AN/AAQ-14はLANTIRNターゲティング・ポッド。これはレーザー誘導爆弾の目標捕捉と誘導に必要な、狭視野の赤外線センサーとレーザー目標指示機を内蔵する。さらに、機首の射撃管制レーダーはAN/APG-70に変わり、これは合成開口レーダー(SAR : Synthetic Aperture Radar)の機能によって前方の地形のレーダー映像を得られる。

見た目は制空型と似ていても、任務はまったく別となったF-15E

つまり、F-15Eは夜間に低空侵入して一発必中の一撃を叩き込むためのハードウェアを備えた対地攻撃機。見た目は制空型と似ていても、任務はまったく別。デュアルロールといっても、身を護るために必要なとき以外は対戦闘機戦闘は行わないといわれている。

その後に登場したさまざまな派生型は、実はすべてF-15Eに連なる系譜。内部構造が違う複数のモデルを並行生産するのは合理的ではないし、価格も上がってしまう。そして、戦闘機も多様な任務に対応することが求められたので、もはや制空専用のモデルに出る幕はなくなった。

しかもアビオニクスの新型化により、F-15E系列の機体は機体構造だけでなく、アビオニクスの方もすっかり別物になった。エンジンも、当初の制空型はプラット&ホイットニーのF100シリーズだけを使用していたが、F-15E系列の機体にはゼネラル・エレクトリックのF110シリーズを搭載するモデルもある。当然、エンジン・ベイの設計も変わっている。

とうとう操縦系統まで変わってしまった

さらに、サウジアラビア向けF-15SAやカタール向けのF-15QA、米空軍向けの最新型・F-15EXイーグルIIでは、操縦系統がフライ・バイ・ワイヤ(FBW)化された。

ここまで化けると、当初のF-15A/Bと同じ部品が残っているんだろうか? と思ってしまう。「名前は同じでも機体は別物」を地で行っている。

  • これがF-15EXイーグルII。見た目はF-15Eに似ている 写真:USAF

  • FBW化によって使用可能になった、外舷側の新しい兵装ステーションから空対空ミサイルを試射するF-15EXイーグルII 写真:USAF

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。