前回、「同じ名前を引き継いでいるのに、機体の中身はすっかり別物に変わってしまっている事例が多々ある」という概論を書いた。今回から具体的な事例に踏み込んでみるが、その第1弾としてシコルスキーのH-53シリーズを取り上げてみる。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

提案されたのはS-61の拡大発展型「S-65」

H-53シリーズの発端は、米海兵隊がCH-37の後継となる大形輸送ヘリコプターの調達を計画したことにある。それに対してシコルスキーが提案したのが、S-61の拡大発展型、S-65だった。

S-61というとなじみが薄いかもしれないが、かつて海上自衛隊や米海軍で多用されていたSH-3シーキングがその一員だといえば、「ああ、あれか」となる方は多そうだ。

ただし拡大改良型といっても、S-61とS-65の胴体形状にはあまり類似性がない。そのS-65、ペイロードは機内搭載時で3,600kg、外部吊下時で9,070kg。大型化した機体を支えるエンジンは、GE製T64エンジン(3,925馬力)の双発とした。このエンジン、日本でもUS-1やPS-1といった飛行艇、それとP-2J哨戒機で使用事例がある。

どでかい輸送ヘリ

ともあれ、この機体をCH-53という名称で制式採用したのは1960年代末期のこと。それを実際に使ってみると「もっと能力が欲しい」という要求が出てくるのはお約束だ。そこで1970年代に入ってから、強化型のCH-53Eが開発された。エンジンは同じT64系列だが、4,380馬力にパワーアップしたものを3基載せた。

つまり、3,925×2=7,850馬力から、4,380×3=13,140馬力へと、1.67倍のパワーアップになる。数を増やすといっても、ヘリコプターの場合、すべてのエンジンの出力をひとつのトランスミッションにまとめなければならないから、設置場所は制約される。もとからある2基のエンジンは胴体上部の左右に取り付けているが、後から加わった3基目のエンジンはトランスミッションの左舷側に押し込められた。

  • 左斜め後方から見たCH-53E。左側、胴体の「肩」の部分に付いているのが元からあるエンジンで、その右側に押し込められているのが、E型で追加された3基目のエンジン 撮影:井上孝司

エンジンがパワーアップしたから、それに耐えられるようにトランスミッションも強化しているのは当然のこと。そして、メイン・ローター径が2m大きい24.1mとなり、ブレードの数も6枚から7枚に増えた。24.1mというとピンとこないかもしれないが、新幹線電車の車体長が24.5mだから、それとほぼ同等。そして、メイン・ローター先端から尾端までの全長は30.2mもある。学校の25mプールに収まらないサイズである。

こんなデカブツだから、CH-53Eが車両を吊下空輸するとサイズ感がバグる。それがよく分かるのが以下の写真。吊るしているHMMWV(High Mobility Multi-Purpose Wheeled Vehicle) だって決して小さい車両ではないが、そのHMMWVがミニカーに見える。

  • HMMWVを吊下空輸するCH-53E。以前に出した写真と同じ場面だが、画を変えてみた 撮影:井上孝司

性能向上の要求には終わりがない

ところがCH-53Eという機体、大形で搭載量がべらぼうに大きいのはよいのだが、構造が複雑で整備に手間がかかる難点があった。

CH-53Eが老朽化して後継機が必要となったときに、発展型と称するCH-53Kキングスタリオンの導入が決まった。このモデル、スケールアップして能力向上を図るだけでなく、整備性の向上も課題に挙げられた。機体だけでなくエンジンも同様で、新たに採用が決まったGE38(制式名称T408。出力7,500馬力)は、T64と比べると部品点数を3分の2に減らしている。

スケールアップしているのだから、当然、CH-53Kの機体構造はCH-53Eのそれとは別物。先に、CH-53EがHMMWVを吊下空輸している写真を載せたが、CH-53KではHMMWVが機内に収まるというから、ますますサイズ感がバグる。ちなみに、貨物室のサイズは長さ9.1m、幅2.7m、高さ2m。

それを支えるエンジンは1.7倍にパワーアップしているから、もちろんトランスミッションも別物。ロックウェル・コリンズ(現コリンズ・エアロスペース)が担当するアビオニクスも別物である。当然、グラスコックピット化されている。また、大型化に伴う重量増加を抑制するため、機体構造材には複合材料を活用している。

こうなると、外見や基本レイアウトが似ていること以外にCH-53Eの面影はないが、制式名称は「CH-53」のままである。

  • 全規模量産入りが決まったばかりのCH-53Kキングスタリオン 写真:USMC

なお、胴体は大型化されたものの、ヘリコプターの全長はメイン・ローターの先端から測るから、数字の上での全長は変わっていない。艦上での駐機スペースやエレベーターとの兼ね合いといった問題があるから、全長はCH-53E並みにするよう求められたのだろう。

ちなみに、CH-53Kの開発に際しては仮想現実(VR : Virtual Reality)技術を活用しており、まだ実機が姿を見せる前に、製造や整備に関する問題を洗い出す取り組みがなされたとのこと。最近、この業界でも事例が増えつつあるデジタル・ツインの先駆けみたいな話ではある。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。