はじめに
これまでの2つの記事で、さまざまなADASの歴史を探求しました。この連載最後となる今回は、完全自動運転の重要な要件の1つとして挙げられる運転者監視と眠気検知について説明した後、サラウンドビューとミラー代替についての議論を行い、最後にソフトウェア定義車両や仮想現実および拡張現実など、将来の技術動向について解説します。
眠気検知器と運転者監視
多くのADASと同様に、最初の眠気検知器も機械的な施設で、車線間や路肩に作ったランブルストリップでした。これは完璧な解決策ではありませんでしたが、眠気による衝突統計にかなりの違いをもたらした最初のソリューションでした((NHTSA, 1998)。
1998年に米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)が発表した報告書は、居眠り運転について包括的に取り上げています。この報告書には、実験室や車内での眠気測定ツールが特集されており、当時は眠気を検知するために生理学的信号を測定するのが一般的でした。
ただ残念なことに、これは実験室でしか役に立ちませんでした。なぜなら、一人ひとりについて研究し、データを個別に校正しなければならなかったからです。しかし、報告書ではアイクロージャーモニター、ステアリングセンサー、車線追跡装置などの車載システムが研究中であることが言及されています(NHTSA, 1998)。これらの装置は技術的な制約のため当時は市販されていませんでした(Dinges, 1995)。
おそらく、電子眠気検知器として最初に知られたのはステアリング角度センサーでしょう。2000年代前半に最初の市販システムが登場しました。ステアリングホイールセンサーは、ステアリングホイールの回転角度と回転速度を追跡します。これらの情報だけでは何の役にも立ちませんが、速度、安定性制御(ヨーとピッチ)、カメラ情報に加えて、このデータを利用するソフトウェアアルゴリズムと組み合わせることで、信頼できる眠気推定値を試算することができます。
通常、これらのシステムは高速道路でしか作動せず、また切り返しが多いのろのろ運転ではアルゴリズムが混乱するため、マイクロステアリングのみ測定します。これらのシステムは、各トリップの初期フェーズを運転者をキャリブレーションするためのベースラインとして使用します。多くの人がボッシュをこの分野のパイオニア企業と考えています。ボッシュのソリューションの詳細については、同社の製品ページをご覧ください。このソリューションはかなり有効に機能しますが、最近の車両は自律走行がより進歩しており、自律走行では運転者がまったく運転しない可能性があります。クルマが制御されている場合、車両自体を監視することは無意味です。
この問題を解決するために、人間の運転者と自律走行ドライバーの両方で機能する新しいソリューションが登場しました。このソリューションをドライバーモニタリングシステム(DMS)と呼びます。DMSは90年代後半に研究されましたが、2020年代まで量産には至りませんでした。DMSは、コンピュータビジョン、カメラ、および処理によって、運転者の顔と目の動きを捉え、運転者が注意を払い運転に関与していることを確認します。これは簡単そうに聞こえますが、アルゴリズムが複雑で確実に実装するのは困難です。このEE Timesの記事では、DMSに関する神話を取り上げ、課題を詳しく説明しています(Barnden, 2021)。
Euro NCAPは現在、これらのDMSシステムの使用を義務付けています。2024年までのすべての新車は、最高の衝突安全性評価を得るためにDMSシステムを実装することが必要です。ローエンドからハイエンドまで、かなりの数の独自ソリューションが存在します。自動車メーカーにとって残念なことに、この市場は非常にコストが重視されるため、顧客はこの機能に余分なお金を支払うことを望んでいません。
また、運転者の監視を乗員全員に拡大する傾向もあります。この種の監視を乗員監視システム(OMS)と呼んでいます。自動車メーカーは、このソリューションを快適性および利便性機能として収益化できるため大きな期待を寄せています。運転者はジェスチャーと顔認識を使用して、車両の設定をカスタマイズできます。ビデオ通話やソーシャルメディアアプリは、インターネットに接続された車内でOMSを適用できます。安全機能として、子供が車内に放置されていないか検出したり、空席や安全体重以下の人が座る席のエアバッグを自動的にオフにするなどにOMSを利用できます。セキュリティアプリケーションでは、OMSを室内のビデオ録画に利用できます。
従来のDMSとOMSではハードウェアや光学系が異なります。DMSは通常、グローバルシャッターによる近赤外線イメージングを使用し、OMSは通常、可視光によるローリングシャッターを使用します。ほとんどの自動車メーカーは、DMSとOMSをDOMS(運転者および乗員監視システム)に統合してコストを削減し、ソリューションの小型化を図りたいと考えています。
オンセミの車載イメージセンサは、DMSとOMSの両方のアプリケーションに使用されるローリングシャッターイメージセンサ1個で実現する新しいシステムソリューションを実装し、DOMSに対して理想的かつコスト効率の高いソリューションを実現します。
1つの課題は、DMSは通常ステアリングコラムかダッシュボードに取り付けられますが、OMSはバックミラーの上またはピラーへの配置に適していることです。設計が複雑になるにもかかわらず、コスト削減のために両者を組み合わせた設計が増えています。現在、多くの自動車メーカーがトータルDOMSソリューションを内蔵するオーバーヘッドコンソールを設置しており、バックミラーへの配置が一般的となっています。
サラウンドビューおよびミラー代替
サラウンドビューカメラは、後退時や駐車時の運転者の視認性を高めるために、車の外側に配置された可視光カメラです。通常カメラは、前面1台、背面1台、側面2台の計4台あります。これらのカメラはすべて広角レンズで、魚眼レンズのような画像を作り出します。画像処理と高度なアルゴリズムにより、4つの画像と車の写真が合成されます。その結果得られる鳥瞰図はダッシュボードディスプレイの画面に表示され、運転者が周囲の状況を完全に把握できるように、車両上部のカメラを模倣します。これらのシステムは、オムニビューまたは360°ビューと呼ばれます。
サラウンドビューシステムを初めて搭載したのは、インフィニティと日産が共同開発した2007年「インフィニティEX35」でした。当初のシステムはこの鳥瞰図だけを提供していましたが、新しいシステムでは、特に高級車ではマルチビューを提供します。
車両周囲の超音波センサーと組み合わせることで、サラウンドビューシステムは効果的に衝突を回避し、狭い駐車スペースにも収まります。超音波センサーは、歩行者や動く物体を運転者に警告するのにも役立ちます。
一部のより高度なシステムは、牽引中に車両のボンネットやトレーラーの後方を透視することもでき、X線検査とも呼ばれます。
サイドカメラは、駐車時以外も走行時に従来のサイドミラーの代わりに使用することができます。カメラは非常に小型になりミラーも小さくできるため、車両は空力的に有利になり、燃費を最大4%節約したり、電気自動車で航続距離を伸ばしたりすることができます。
ミラー代替は技術的に機能しますが、運転者は実際のサイドミラーでの運転に慣れているため、多くの運転者はサイドカメラを嫌います。また、国によってはサイドミラーをバックアップとして義務付けているところもあり、ミラーをなくすことで得られるメリット(ただし、駐車目的ではない)が失われます。そのため、カメラミラーの採用はサラウンドビューよりも遅れています(Howard, 2014)。
ソフトウェア定義車両
ソフトウェア定義車両という用語は、自動車の設計が大きく変わることを表す代名詞になりました。特にこの10年間は、自律走行車の実現に向け、膨大な研究開発が注ぎ込まれてきました。自動運転を支えるすべてのセンサーに必要な演算量が膨大なため、車両システムとセンサーの制御方法や利用方法を大きく変える必要があったのです。
2015年以前は、独自のローカルプロセッサやソフトウェアを内蔵するモジュール間に、中央CANまたはLINネットワークアーキテクチャを導入するという、伝統的なアプローチが主流でした。しかし、車両およびそのシステムが複雑になり、より集中化されたコンピューティングが必要になると、必然的にドメインコントローラーでの制御が一般的になってきました。たとえば、さまざまなセンサー入力をすべて組み合わせてデータを処理し、複数の安全システムに命令を送信してADAS機能を実装するにはADASコントローラーが必要です。データレートも増加しており、より高速なデータ転送プロトコルを必要とします。自動運転と高度システムに必要な処理量が非常に多いため、最終的には集中コンピューティング方式になるでしょう(Morris, 2021)。
携帯電話の進化に見られるように、消費者はより多くのデジタル機能とソフトウェア更新による長期的な価値を求めています。自動車メーカーもこのモデルに非常に興味を持っています。なぜなら、新機能やバグのパッチを実装するために、無線ソフトウェアアップデートを使用してアジャイル開発を行う必要があるからです。新機能の開発に加えて、サービスやサブスクリプションを通じて新しい収益源を生み出すこともできます。
こうしている間にも自動車業界全体がこの進化を遂げており、ティアとOEMの間で新たなビジネスモデルが模索されています。一部の自動車会社は、自動車会社ではなくソフトウェア会社であると公言しています。ご存じのように、テスラは2003年に設立され、ハイテク企業としてスタートし、2008年に最初のロードスターの生産を開始しました(Reed, 2020)
仮想現実と拡張現実
仮想現実や拡張現実、Web3.0(一般にメタバースと呼ばれる)などが盛り上がっています。メタバースとは、あらゆるものがデジタルツインを持ち、まったく新しい体験や感情没入、コラボレーションが可能になるWebの3Dバージョンです。
すでにヘッドアップディスプレイ(HUD)を搭載したクルマが走っています。HUDは最終的には運転者のための拡張現実として、より多くのデジタルコンテンツ、たとえば3Dナビゲーションプロジェクションや、おそらく3Dビデオ通話なども重ね合わせることになるでしょう。天気予報はどうでしょう?
極端な場合、ガラス製のフロントガラスはなくなり、フロントは頑丈なユニットになります。ガラス製のフロントガラスの代わりに、巨大なスクリーンが空間を完全なバーチャルビューに置き換えるでしょう。レベル5の自動運転になれば、もはや従来のフロントガラスはまったく必要ありません。
日産はここに魅力的なビジョンを提示します。
まとめ
この連載では、「スピードスタット」と呼ばれる最初の機械式クルーズコントロールから、機械式から電気式へのADASの進化を経て、ソフトウェア定義車両、完全自律走行とメタバースへの感情没入ビジョンに至るまでを紹介しました。
現在の自動車産業における変革は電撃的であり、技術も急速に変化しています。新しいパラダイムと変化に興奮する一方で、今日私たちが当たり前と思っているシステムの過去と興味深い歴史を振り返ってみることも有意義です。
オンセミは車載製品およびADASのマーケットリーダーとして多くの実績を蓄積してまいりました。これらの記事を参考にしていただければ幸いです。
参考資料
Barnden, C. (2021, May 13). Busting Myths of Driver Monitoring Systems. Retrieved from EE Times
Dinges, D. (1995). An Overview of Sleepiness and Accidents. J. Sleep Res. 4, Suppl. 2, 4-14. Retrieved from https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/j.1365-2869.1995.tb00220.x
Howard, B. (2014, July 18). What are car surround view cameras, and why are they better than they need to be?, Part Two. Retrieved from Extreme Tech
Morris, B. (2021, March 29). EE Times. Retrieved from E/E Architecture Considerations for AV Development
NHTSA. (1998). Drowsy Driving and Automobile Crashes. n/a: n/a. Retrieved 11 30, 2021, from https://rosap.ntl.bts.gov/view/dot/1661
Reed, E. (2020, October 5). History of Tesla: Timeline and Facts. Retrieved from TheStreet
Unknown. (2021, December 1). Invisible-to-Visible (I2V). Retrieved from Nissan Motor Corporation
Unknown. (2021, December 1). Software-Defined Vehicles - A forthcoming Industrial Evolution. Retrieved from Deloitte
著者プロフィール
Dan Clementonsemi
Senior Principal Solutions Marketing Engineer, onsemi