前回の連載では、「バブル」グラフ(バブルチャート)の作成方法を紹介した。今回は、このグラフをさらにカスタマイズして、データ状況を把握しやすい、意図のあるグラフに仕上げる方法を紹介していこう。「散布図」や「バブル」のグラフを利用するときは、目安となる線として「近似曲線」を描画すると、データの状況を伝えやすくなる。

目安となる近似曲線の描画

前回の連載では、以下の図のようなバブルチャートを作成した。このグラフを見ることで、各店舗の「席数」、「売上/日」、「客単価」を比較できるようになる。とはいえ、単にデータを並べただけのグラフなので、「何を示したいのか?」は伝わりにくいかもしれない。

  • 前回の連載で作成したバブルチャート

そこで、それぞれのデータをグループ分けして、比較しやすくする方法を紹介していこう。「散布図」や「バブル」といったグラフを扱うときは、目安となる線として「近似曲線」を描画するのが効果的だ。

第35回の連載でも紹介したように、このグラフに「近似曲線」を描画してみよう。いずれかの「バブル」を右クリックし、「近似曲線の追加」を選択する。

  • 近似曲線を追加する操作

「近似曲線の書式設定」が表示されるので、最適な近似曲線を選択する。ここでは、

 ・「席数」が多ければ、それだけ多くの客を入れられる(はず)
 ・客の数が増えれば、それだけ「売上」も増える(はず)

と仮定して話を進めていこう。この場合、「席数」と「売上」は比例関係にあると考えられる。よって、「線形近似」の近似曲線を選択した。

  • 近似曲線の書式設定

設定画面を閉じると、以下の図のような「近似曲線」がグラフに追加される。

  • 「線形近似」の近似曲線を描画したグラフ

ちなみに、先ほど示した仮定は“あくまで仮定”であることを忘れてはいけない。「席数が多くなれば客の数も増えて、売上も増える」という理論は、必ずしも現実の話になるとは限らない。どちらかというと、「理想」や「目標」に近いともいえるだろう。よって、この近似曲線は「期待値を示す線」と捉えるのが正しい。

よって、近似曲線の存在感を少し弱めておこう。「近似曲線」を右クリックし、「枠線」コマンドで線の色、太さ、種類を調整する。

  • 近似曲線の「線の書式」の変更

続いては、近似曲線をグラフ全体に延長する。近似曲線を右クリックし、「近似曲線の書式設定」を選択する。

  • 「近似曲線の書式設定」の呼び出し

近似曲線を延長する方法は、第35回の連載で紹介した通りだ。「前方補外」と「後方補外」に適当な数値を指定すればよい。

  • 「前方補外」と「後方補外」の指定

すると、指定した数値に応じて近似曲線が前後に延長される。

  • 「線形近似」を前後に延長したグラフ

今回の例では、縦軸と横軸の「軸の範囲」が自動になっているため、近似曲線が延長されると「軸の範囲」も変更される。これを元に戻すには、自分で「軸の範囲」を指定しなおす必要がある。ということで、「横軸の範囲」を0~250、「縦軸の範囲」を0~80万円に指定しなすと、グラフの表示は以下の図のようになる。

  • 「軸の範囲」を調整したグラフ

このように作業を進めていくと、「近似曲線」を目安に各データ(各店舗)をグループ分けできるようになる。

念のため、この近似曲線が示す意味についても補足しておこう。この近似曲線は、「席数」(=店の規模)に応じた「平均的な売上の目安」を示していると考えられる。言い換えると、「これくらいの席数がある店舗なら、この程度の売上を期待したい」という期待値を示した線になると考えられる。

近似曲線の見直し

データのグループ分けを行う前に、先ほど描画した「近似曲線」を再検証しておこう。グラフに描画された「近似曲線」をよく見ると、「席数」が0(ゼロ)のときの「売上/日」の目安は3万円程度になっている。

これは、普通に考えると少し矛盾している話になる。「席数」が0(ゼロ)なら1人も客は入れないので、「売上/日」も0円になるはずである。よって、「近似曲線」を修正しておく必要がある。

「近似曲線」と「Y軸」と交わる位置を指定したいときは、「切片」の書式を指定する。「近似曲線」を右クリックして「近似曲線の書式設定」を開き、「切片」をONにして0(ゼロ)を指定する。

  • 近似曲線の「切片」の指定

すると、必ず原点(0,0)を通る近似曲線に修正できる。

  • 原点を通るように設定した近似曲線

これで、より厳密な仮定に基づいてデータを比較・検証することが可能となる。

バブルに色を付けてデータを分類する

それでは、「近似曲線」を目安にデータを分類していこう。今回は、各バブルの色を変更することでデータを分類する。

それぞれのバブルの色を指定するときは、「バブル」をゆっくりと2回クリックして個別選択してから、右クリックメニューの「塗りつぶし」コマンドで色を指定すればよい。

  • バブルの色を個別に変更する操作

たとえば、目安となる近似曲線より上にあるデータを「青色」、ほぼ近似曲線の上にあるデータを「緑色」、近似曲線より下にあるデータを「オレンジ色」に変更すると、グラフ内のデータを3つに分類して示すことができる。

  • バブルの色を変化させた例(1)

このグラフを見ると、各店舗の状況を一目で把握できるようになる。「青色」で示されている店舗は、店の規模(席数)の割に売上が大きい「優秀な店舗」と考えられる。その一方で、「オレンジ色」で示されている店舗は、店の規模(席数)の割に売上が小さい「改善が必要な店舗」と評価できる。

バブルサイズ(客単価)も踏まえて考えると、客単価が小さめの「上野店」は客単価を上げる工夫を、客単価がそれなりにある「渋谷店」と「下北沢店」は客数を増やす工夫を、といった対策が必要ともいえるだろう。

なお、「近似曲線より上に位置しているか、それとも下に位置しているか」はグラフを見ると一目瞭然なので、バブルサイズで示された「客単価」を基準にグループ分けする方法も考えられる。

今回の例において、全店舗の「客単価」の平均値は573円になる。そこで「客単価」が550~600円の店舗を「平均的な店舗」と考え、この範囲内に該当する店舗を「緑色」、客単価が600円以上の店舗を「オレンジ色」、550円未満の店舗を「青色」のバブルで示すと、グラフの表示は以下の図のようになる。

  • バブルの色を変化させた例(2)

客単価が高めの「オレンジ色」のバブルに注目すると、「新宿店」と「恵比寿店」は客単価が高く、売上も大きい店舗といえる。その一方で、「吉祥寺店」は客単価が高いのに売上は普通でしかない。となれば、もっと集客できれば、さらに売上を伸ばせるかもしれない。

客単価が低めの「青色」のバブルに注目すると、「新橋店」が特異なポジションにあることが分かる。客単価が低いのに売上が大きいということは、客数が多く、回転率が高いのだろう。そのぶん、店舗スタッフは大忙しかもしれない。

このように、データをグループ分けしてバブルチャートを見ることで、さまざまな推論を立てられるようになる。報告書などを作成する場合は、こういった推論を説明する文章をグラフとともに記載しておくと、説得力のある文書になるかもしれない。

なお、今回の連載で紹介したデータは「架空のデータ」であり、現実とは異なる部分が多々あることを断っておく。

もっと言えば、売上を決定するのは「席数」(店の規模)だけでなく、「人通りの多い場所にある店舗か?」、「近くにライバル店はあるか?」などの諸条件も考慮しなければならないはずだ。よって、今回の推論の大半は「机上の空論」と言えるものである。

データの分析方法を、どのように考え、どう処理していくかはケース by ケースになるだろう。ただ、そこから得られた推論や結論を分かりやすく示すには、グラフの表現方法を学んでおく必要がある。

今回の連載で話した内容は、すぐに実用できる、実践的なテクニックではないが、「グラフをどのように見せるか?」を考るときの一例として、参考にしていただければ幸いだ。