
自然災害が多発する中で地方再生をどう図るか─。口蹄疫、噴火、地震、感染症、台風などの困難を経験した宮崎県。今後の同県の方向性について「自分たちの資源に磨きをかけていきたい」と知事の河野俊嗣氏は語る。東京一極集中が進んだ結果、地方の人口減少は避けられない。その中で県内の農業や林業、伝統・文化に着目して成長を図る考えの同氏。地方に共通して逆風が吹く中、地方創生を実現していくための方策とは。
口蹄疫からの再生復興
─ 地方創生は高市早苗政権の成長戦略にも位置付けられています。知事を4期務めた振り返りから聞かせてください。
河野 私が知事に就任したのが2011年1月21日です。当時は口蹄疫からの再生復興が最大の課題でした。ただ就任当日には高病原性鳥インフルエンザも発生し、5日後には新燃岳が噴火。まさに災害対応からのスタートになりました。
1期目から2期目にかけて口蹄疫からの再生復興が軌道に乗りつつあった中で新型コロナが流行しました。3期目は、未曾有のパンデミックへの対応に当たりました。そしてコロナ禍を乗り越えた4期目は「3つの日本一挑戦プロジェクト」を進めてきました。
その中身は「子ども・若者プロジェクト」「グリーン成長プロジェクト」「スポーツ観光プロジェクト」です。口蹄疫、噴火、地震、感染症、そして台風といった困難を乗り越えながら、宮崎の将来の発展に繋がる土台づくり・基盤づくりに取り組んできたという自負があります。
─ その間、交通インフラの整備も進みましたね。
河野 はい。東九州自動車道は、10年前に北九州市から宮崎市までつながり、さらに現在は日南市の北郷まで開通しています。その間の経済波及効果は約1兆6000億円、宮崎県内だけを捉えても約7000億円という効果が生まれています。遅れていた高速道路の整備が大きく前進しました。
これによって企業立地も進みました。キヤノンや日機装、ローム関連企業などが集積し、観光面でもプラス効果が生まれました。ようやく我々も高速道路の恩恵を受けられるようになったということです。
もともと県の発展の土台づくりとして高速道路の整備を進めてきましたが、東九州自動車道の供用率は91%。残りは9%程度です。
─ 他にも交通インフラの整備効果はありますか。
河野 九州中央自動車道です。熊本県の嘉島町から宮崎県の延岡市までの東西を結ぶ道路で、全体の43%がつながりました。熊本ではTSMC(台湾積体電路製造)の工場が建設され、経済のみならず、観光面でも大きな効果が出てきています。
こういった基盤の整備をこれまで進めてきましたので、今後もこれを力強く進めていきたい。私自身、全国高速道路建設協議会の会長を務めています。その立場も活かしながら、もっと整備を推し進めて宮崎の発展に繋げていきたいと思います。
さらにもう1つの構想を挙げるとすれば「東九州新幹線」です。1973年に基本計画が決定されましたが、国の財政状況が厳しくなる中、東九州新幹線は先送りされてきました。これを何とか動かしたい。
基本計画では全国に11の新幹線の建設構想があるのですが、その中でも東九州と四国のケーススタディを始めましょうという動きが出てきています。
─ 九州全体の発展にも繋がる取り組みですね。
河野 はい。今年7月の熊本地震により、新幹線も高速道路も止まりました。そのうち九州自動車道の一部区間が通行止めとなったとき、東九州自動車道が迂回路として機能し、防災面でも大きな効果が出ました。
ただ、東九州自動車道は今も暫定2車線です。4車線化することも課題なので、これを解消していかなければなりません。
木材、農畜水産物、スポーツ……
─ ハードも着々と整備を進めていくということですね。一方でソフトの取り組みとして「5つのS」(神話、自然、森林、食、スポーツ)を掲げてきました。今後の展開は?
河野 それは先ほどの3つの日本一挑戦プロジェクトにもつながります。2つ目の柱であるグリーン成長プロジェクトでは再造林を推進してきました。現在、杉の生産量が35年連続で日本一になっています。
それを将来にも繋いでいくため、伐採後の再造林でも日本一を目指していこうと。プロジェクト開始前の再造林率は73%でしたが、令和6年度には79%になりました。着実に前進していると思います。
その背景には、林業関係者の間で、目標に向けて一緒に取り組んでいこうという動きが出てきたことがあります。林業を将来に繋いでいく土台づくりができていると感じます。
また、グリーン成長プロジェクトには、本県で盛んな農業も含まれています。特に足元では、農畜水産物の輸出額が14年連続で右肩上がりで伸びており、令和7年度は約149億円にまで拡大しました。
─ 行き先はどこですか。
河野 台湾、米国、香港が多くなっています。そのうち最も大きいのが牛肉で106億円を占め、前年度比で119%と伸びています。それから世界的な抹茶ブームを受け、国内生産量で全国4位のお茶も、輸出額が15億円で前年度比289%と伸びています。輸出先はアジアや米国、そして欧州になります。
この中でも牛肉への期待としては、西都市に完成したハラール対応の食肉処理施設(イスラム法において合法とされる食肉処理が可能な施設)があります。これによってイスラム圏への輸出体制が整い、カタールやUAE(アラブ首長国連邦)などに輸出できるようになりました。
カタールで開催された宮崎牛のレセプション
ただ、今回の中東危機でそれらが停止。そこで今年になって初めてインドネシアを訪問して牛肉を売り込んできました。反応も上々です。インドネシアは東南アジアの大国ですから大きく期待しているところです。
─ 「宮崎牛」の良さとはどのようなところでしょうか。
河野 もともと世界中で和牛の人気は高いです。その上で、おいしさ日本一の宮崎牛という点をセールスポイントにしています。旨みがあって食べやすいという点で高い評価をしてもらっています。
ただ、和牛という中での差別化はそこまで進んでいませんので、ハラール対応も差別化の1つとしていきます。
スポーツを通じた賑わいづくり
─ 2つ目のSにはスポーツが挙げられますね。
河野 ええ。スポーツの合宿や大会を宮崎で開催してもらおうと精力的に動いています。来年の「第81回国民スポーツ大会」「第26回全国障害者スポーツ大会」に向けて、新たな県有施設を整備しました。これらにより、新たな国際大会や日本代表クラスの合宿の誘致ができるようになりました。
例えば、これまで県のテニスコートは砂入り人工芝でしたが、その24面を全面ハードコートに整備しました。いま世界基準はハードコートですので、日本テニス協会のアドバイスもいただきながら、東京の有明に次ぐ〝テニスの西の聖地〟を目指しているところです。
新たに整備したテニスコートのうち6面は屋内ですので、雨天でも安心して大会等を実施できます。また、新たにプールや陸上競技場、それから体育館も整備しました。
高速道路の開通を活かして、これまで宮崎市内に集中していた施設を県西の都城市や県北の延岡市などに分散整備しました。スポーツによる地域振興をもっと全県に及ぼしていくのが狙いです。
─ それだけ施設が充実していれば、スポーツ以外の用途にも使えるのではないですか。
河野 その通りです。今回は台風で中止となったのですが、「ひなたサンマリンスタジアム宮崎」ではアイドルグループ「日向坂46」による「ひなたフェス」が2年前に初めて開催されました。このイベントによる経済効果は約29億円と算出され、大きな話題となりました。
スポーツ施設での大規模イベントにおいて、終了後の迅速な施設復旧は重要な課題です。そこで「ひなたフェス」では、阪神甲子園球場をはじめ、全国のスポーツ施設の整備・維持管理で豊富な実績を持つ阪神園芸にサポートしていただきました。
この経験を通じて、スポーツ施設を様々な賑わいづくりに活用する方向に踏み出しました。
「神楽」がユネスコ無形文化遺産に
─ これからも様々なイベントができそうですね。地方共通の課題の1つとして人口減少があります。どう対応しますか。
河野 現在、宮崎県は沖縄県に次いで全国2位の合計特殊出生率を誇り、1位を目指して様々な取り組みを行っているところです。出生率自体は全国的に右肩下がりですが、その中でも本県は昨年の1・43から今年は1・46に上がって2位になりました。
ただ、人口維持のために必要な2・07には遠く及ばない状況ですので、まずは可能な限り人口が減る度合いを緩やかにしていくことが必要です。人口が減ること自体は止めようがないところがありますので、そこに適応していこうと考えています。
全国的にも「スマートシュリンク」という言葉が使われていますが、賢く縮んでいくという方向も打ち出しながら、人口減少にあわせた地域社会づくりを進めていこうとしています。
特にコロナ禍以降、婚姻の数の回復の足取りが重く、年間約3500組まで減少し、横ばいの状況を続けています。
また、本県の中学校の卒業生は年間1万人ですが、十数年後には6000人規模にまで減ってしまいます。こういった課題に対して、減っていく速度を可能な限り緩やかにしていこうと、婚活も含めて様々な対策を打っているところです。
─ 人口減少に対する解決策の事例はありますか。
河野 例えば過疎地域での交通問題への対応として、貨客混載バスというものがあります。路線バスに荷物を載せる取り組みはこれまでもありましたが、今回新たに始めた実証実験では、ヤマト運輸の荷物を運ぶ大型バンに乗客を乗せました。そしてヤマト運輸のドライバーが運転して路線バスのルートを走ります。
荷物を運ぶことがメインですが、バス停に人が待っていればその人を乗せて走ることができます。最大4席ですが、日向・入郷地域で実証実験をスタートしました。地域資源をどのように組み合わせて機能を守っていくかという交通面での1つのチャレンジとなります。

宮崎県高千穂町の神楽「高千穂の夜神楽」
─ 可能性はありますね。
河野 そう思います。宮崎牛は口蹄疫から復活して全国和牛能力共進会で再び日本一を獲得することができました。「神楽」もユネスコ無形文化遺産へ提案されており、2年後には登録が決定する見込みです。
人口減少や高齢化の影響で担い手が減っていく中で、これらを励みに次世代にも繋いでいきたいですね。
私が知事に就任した2011年から23年までの12年間で、県内総生産と1人当たりの県民所得は、コロナ禍を除けば数字として伸び続けています。県内総生産は約6000億円の増加、1人当たりの県民所得も55万円の増加となっています。
また、農畜水産物の輸出額も15年間で約20倍となり、企業誘致による新規雇用創出も10年間で約1・4万人を数えます。口蹄疫や新型コロナ、物価高にも真正面から向き合い、これらを克服し、宮崎の経済基盤を力強く成長させたものと自負しています。
3つの日本一挑戦プロジェクトという名称自体は今年度で終了します。1つの区切りを迎えることになりますが、それで終わりになるわけではありません。これまでの成果を本県の次なる成長にどう繋げていくのかが大切であり、今後もしっかり取り組んでいきます。
