これまで日本国内では沖縄県・石垣島のみに生息が確認されており、採集例も少なく希少な昆虫である、ゾウムシの一種「シロオビクチカクシゾウムシ」(Cyamobolus sturmii)。琉球大学が、同じ八重山諸島に属する西表島で初めて発見したことを10月28日に発表した。
この成果は、琉球大 熱帯生物圏研究センター 西表研究施設の和智仲是助教、東京農業大学(東農大) 昆虫学研究室の保坂恭吾大学院生、同・荒井周研究生、東農大 農学部 生物資源開発学科 昆虫学研究室の小島弘昭教授、九州大学大学院 農学研究院 昆虫学分野の平井幸成大学院生らの共同研究チームによるもの。詳細は、種の地理的分布を中心とした生物多様性を扱うオープンアクセスジャーナル「Check List」に掲載されている。
謎多き“口隠し”ゾウムシの生態
シロオビクチカクシゾウムシは、生物相上、主に日本の南西諸島を含む東洋区(東アジア南部、東南アジア、インド亜大陸など)からオーストラリア区に分布するゾウムシ科クチカクシゾウムシ亜科Cyamobolus属(属名の和名なし)に属する甲虫だ。クチカクシゾウムシ亜科の多くは、吻(ふん)が体に対して後ろ向き(口を隠しているように見える)であることを特徴としている。
日本ではこれまで石垣島から記録されているものの、採集例自体が少なく、その生態については不明な点が多い。1970年代に採集された石垣島産標本の記録が、国内の分類群特化型データベースである日本産ゾウムシデータベースに残されているが、近年の標本に基づく記録や詳細な自然史情報は限られていた。
研究チームは2024年、西表島の調査においてゾウムシ1個体を採集。背面の特徴的な模様(白い帯のような模様)などからシロオビクチカクシゾウムシの可能性が浮上したため、2013年と2021年に石垣島で得られた標本とともに西表島個体の詳細な比較検討が実施された。同昆虫と同定され、西表島からの初記録として報告された。これにより、日本における同昆虫の分布が、石垣島だけでなく西表島にも及ぶことが明らかになった。
また、石垣島では、2021年に合計15個体の成虫が日中、「リュウキュウガキ」(Diospyros maritima)の枯死木にある穴の内部から発見された。さらに、1個体がそのような穴に入る様子も観察されたという。これらの観察から、リュウキュウガキがシロオビクチカクシゾウムシの寄主植物である可能性や、枯死木の穴が成虫の羽化脱出時に形成された可能性、さらには脱出後も成虫が枯死木の穴を休息場所などの微小な生息場所として利用している可能性が示された。
一方、幼虫やその食痕、産卵、枯死木から成虫が羽化する場面などは確認されていない。そのため、リュウキュウガキがシロオビクチカクシゾウムシの寄主植物である可能性は示唆されるものの、それを確定するには幼虫が実際に同樹木内で発育している様子を確認するなど、さらなる証拠を必要としていた。
今回の研究成果
今回の研究では、標本自体の検討に加え、過去の文献、日本産ゾウムシデータベース、国内の自然史標本情報のデータベース「S-Net」、国際生物多様性データベース「GBIF」、市民科学プラットフォーム「iNaturalist」(アイナチュラリスト)など、公開されている生物多様性情報の統合的な精査も行われた。
その結果、日本産ゾウムシデータベースには1970年代の石垣島産標本の情報が残されているものの、国際的なデータ基盤においてシロオビクチカクシゾウムシの詳細な記録はきわめて限定的であることが確認された。研究チームは今回の事例について、地域や分類群に特化したデータベースに蓄積された標本情報を論文化し、標準化された生物多様性情報へつなげていくことの重要性を示すものと考えているとのこと。
こうした発見から、シロオビクチカクシゾウムシは西表島や石垣島などを含む八重山諸島で、これまで認識されていた以上に広く分布している可能性があることが示唆された。また、成虫が日中に枯死木の穴の内部に潜む生活様式こそが、同昆虫がこれまであまり採集されてこなかった理由の1つと推測されるという。
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(上)シロオビクチカクシゾウムシの上面と側面(撮影:保坂恭吾氏)。(下)石垣島で観察された、リュウキュウガキの枯死木中のシロオビクチカクシゾウムシ成虫(撮影:小島弘昭教授) (出所:琉球大Webサイト)
今回確認した日本産記録はいずれも春から初夏に集中していることから、研究チームは今後、この時期にリュウキュウガキをはじめとする枯死木やその穴を重点的に調べるとともに、灯火を用いた夜間調査を組み合わせることで、同昆虫の分布や生活史をさらに解明できる可能性があるとする。枯死木内部の幼虫や蛹の探索などを進めることで、同昆虫とリュウキュウガキとの関係をより明確にできることが考えられるとしている。
また、今回の研究では、Cyamobolus属について分類学的な再検討が必要であることも明らかになった。現在、Cyamobolus sturmii(シロオビクチカクシゾウムシ)とされている昆虫が琉球列島、フィリピン、ジャワから記録されているが、それらがすべて同一種に属するかどうかについて、今後、各地域の標本を直接比較して検討する必要があるとした。
そして、今回明らかにされたように、国際的な生物多様性データ基盤に十分反映されていない昆虫の標本情報・分布情報が、国内の標本コレクションや分類群特化型データベースには残されている場合がある。こうした地域の分類学的知識を掘り起こし、標本情報や自然史観察とともに公開・標準化していくことは、地域の生物多様性をより正確に把握し、将来にわたって利用できる情報基盤をつくる上でも重要だとしている。
