この半導体ニュースのまとめ

・onsemiがIVR技術を手掛けるFerricを最大7億7500万ドルで買収へ
・電圧変換回路をAIプロセッサのパッケージや基板へ統合し、電力損失を低減
・2030年のAIデータセンター向け売上高目標を5億ドル引き上げ、30億ドル超へ

onsemi(オンセミ)は、集積型電圧レギュレータ(IVR:Integrated Voltage Regulator)技術を手掛ける米Ferric(フェリック)を買収する契約を締結したことを発表した。

買収額は現金6億ドルで、将来の売上高に関する条件の達成に応じて、最大1億7500万ドルを追加で支払う。買収総額は最大7億7500万ドルとなる。

Ferricが持つIVRや磁性部品、電力変換に関する技術と、onsemiの製品化能力、事業規模、顧客基盤を組み合わせ、次世代AIプロセッサ向けの電源供給ソリューションを強化する。買収完了は2026年末を見込む。

AIプロセッサの近くで電圧を変換

AIプロセッサの演算性能向上に伴い、必要となる電力は増加している。プロセッサへ低電圧かつ大電流の電力を供給する場合、電源回路からプロセッサまでの配線で生じる電力損失や電圧降下、演算負荷の急変に対する応答性能が課題となる。

こうした課題に対応するため、電圧変換回路をプロセッサへ近づけ、電力供給経路を短縮する動きが進んでいる。IVRは、電力変換機能をプロセッサのパッケージや基板へ直接統合することで、プロセッサの近傍で必要な電圧を生成する技術となる。

FerricのIVR技術は、電源コントローラ、FET、インダクタ、キャパシタを小型パッケージへ集積する。従来のディスクリート部品で構成した電圧レギュレータと比べ、基板上の実装面積を50~70%削減できるという。

電圧変換回路をプロセッサに近づけることで、電力供給経路における損失を抑えるほか、AIプロセッサの消費電力が短時間で変動した際の過渡応答性能を高める。また、電源回路が占める面積を削減し、限られた基板やパッケージ内部の空間を有効活用できるようにする。

40件超の特許と磁性部品技術を獲得

Ferricは2012年に設立され、IVRと先進的な磁性部品の開発に取り組んできた。IVR関連で40件を超える特許を保有し、約50人の従業員がonsemiに加わる予定となっている。

IVRを小型化するには、電源制御ICやFETだけでなく、インダクタなどの磁性部品も高密度に集積する必要がある。Ferricは磁性材料と電力変換回路を組み合わせることで、AIプロセッサの近くへ配置できる小型の電源ソリューションを開発してきた。

onsemiは、Ferricが持つIVRと磁性部品の技術を、シリコン、SiC、GaNを含む既存のパワー半導体ポートフォリオへ加える。

同社は、電力網からAIデータセンター、サーバ、プロセッサまでの電力供給経路全体を対象とする「グリッドからコアまで」の製品展開を進めている。Ferricの買収により、プロセッサ直近で行う最終段の電圧変換まで製品範囲を拡大する。

AIデータセンター向け売上高目標を30億ドル超へ

onsemiは今回の買収に伴い、2030年のAIデータセンター向け売上高目標を従来から5億ドル引き上げ、30億ドル超とした。2030年以降についても、IVR事業の成長加速を見込む。

AIデータセンターでは、GPUやAIアクセラレータの演算性能だけでなく、電力を効率的かつ安定して供給する技術がシステム全体の性能を左右する。

プロセッサの消費電力が増えるほど、電源変換時のわずかな損失もデータセンター全体では大きな電力消費や発熱につながる。電力供給効率を高めれば、同じ電力で実行できるAI処理量を増やし、トークン当たりの消費電力を抑えられる可能性がある。

onsemiはFerricの技術を活用し、電力密度、変換効率、過渡応答性能を高めたIVR製品の商用化を進めるとしている。

次世代AI半導体の電源供給を成長領域に

onsemiは2026年6月、40V~650VをカバーするGaNパワーポートフォリオ「GaNEXUS」を発表し、AIデータセンターや48V電源、ロボティクス、産業機器向けの製品展開を強化した。

GaNEXUSは、AIデータセンターの電力供給経路における高電圧側や中間電圧変換などを対象とし、高速スイッチングによる電力密度と変換効率の向上を図る。

一方、FerricのIVRは、AIプロセッサのパッケージや基板へ電力変換機能を統合し、プロセッサの近傍で最終的な電圧変換を行う技術となる。

onsemiは、既存のシリコン、SiC、GaN製品にIVR技術を加えることで、データセンターへ供給された電力をAIプロセッサへ届けるまでの電力供給チェーンを広くカバーする。

買収の完了には、規制当局の承認を含む通常の条件を満たす必要がある。onsemiは買収完了後、Ferricの技術と人材を取り込み、次世代AIプロセッサ向けの高密度電源供給ソリューションの事業化を加速するとしている。