火星の衛星「フォボス」を観測し、試料を地球に持ち帰る探査機「MMX」を搭載した大型ロケット「H3」10号機が、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた。MMXを所定の軌道に投入し、打ち上げは成功した。火星衛星の本格探査は史上初となる。小惑星探査機「はやぶさ」「はやぶさ2」に続き、わが国の3度目の試料回収。火星とその衛星を合わせた火星圏からの試料回収は、史上初となる可能性がある。

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    MMXを搭載し打ち上げられるH3ロケット10号機=20日、鹿児島県南種子町の種子島宇宙センター(JAXA提供)

H3は20日午前4時41分3秒に打ち上げられ、5分後に1段、2段機体を分離した。2段エンジンの燃焼を2回にわたり正常に行った後、打ち上げの約1時間11分後、高度590キロ付近でMMXを火星遷移軌道に投入した。打ち上げ後に会見した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の山川宏理事長は「国民の皆様と打ち上げ結果を分かち合え、心よりうれしい。MMXを着実に運用し、惑星科学に資する新たな知見、将来の礎となる探査技術の獲得を果たすべく全力を尽くす」と述べた。

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    MMXの想像図(JAXA提供)

MMX(Martian Moons eXploration、火星衛星探査計画)はフォボスの地形や構造、重力などを調べ、砂や岩石を採取して地球に持ち帰る計画であり、探査機の名称。わが国の宇宙探査の主力である戦略的中型計画の1号機として開発が進んだ。打ち上げは2024年度に予定されたが、過去のH3打ち上げ失敗などの影響で延期された。打ち上げを含む総開発費は553億円。

来年夏ごろ火星付近に到着し、機体のうち往路の推進に使った部分を切り離す。フォボスの上空を周回するように航行して観測。搭載した仏独の探査車「イデフィックス」を地表に投下するのに続き、2回にわたり着陸してフォボスの砂や岩石を採取する。採取方法は、はやぶさ、はやぶさ2の弾丸を衝突させる方式とは異なり、地表に筒を打ち込む方式のほか、ガスを吹き付ける米国の方式も採用した。

探査の終盤では火星のもう一つの衛星「ダイモス」に対し、接近してすれ違いざまに観測する「フライバイ」を行う。2030年度に、探査機器類の部分を切り離して火星圏を出発。31年度に地球に帰還する。はやぶさ2と同様に試料の入ったカプセルが分離され、これが大気圏に突入してオーストラリアの砂漠で回収される。

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    MMXの往路(火星付近)の模式図。軌道変更を重ねてフォボスを目指す(JAXA提供)

上空からの探査や試料回収を通じ、フォボスの起源の解明を目指す。火星に天体が衝突し破片が集まったという巨大衝突説と、よその天体が火星の引力に引き込まれたという捕獲説の間で論争があり、MMXによる決着に期待が高まっている。生命に必要な物質の運ばれ方など、太陽系の歴史の解明への貢献を目指す。将来の有人火星探査につながる、放射線環境などの基礎データを取得。火星圏との往復や天体への着陸、試料回収、通信といった技術実証も狙う。

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    仏独が共同開発したイデフィックス(JAXA提供)

  • イデフィックスはフォボスの地表を撮影し、砂の性質、地表の鉱物組成などを調べる。開発した仏独の宇宙機関の幹部は、会見で「フォボスは表面が不均一で、場所により重力が異なる。どんな状態でも探査車が稼働しなければならず、開発は非常に難しかった」「優れた通信システムに加え、自律運転も必要で困難が多かった」と説明した。

    H3ロケットは3機連続成功

    H3は2段式の液体燃料ロケットで、昨年6月に運用を終了した「H2A」と、その強化型「H2B」の後継機。小型の固体燃料ロケット「イプシロン」とともに、政府の基幹ロケットに位置づけられる。将来的には打ち上げ業務を、H2Aや H2Bと同様にJAXAから三菱重工業に移管し、市場に参入する。今回の10号機はH3の機体構成の最大型で、全長63メートル、探査機を除く重さ575トン。昨年12月の失敗後、今年6、8月に続く成功となり、安定運用に向けて歩みを進めた形だ。

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    会見する有田誠プロジェクトマネージャ=20日、鹿児島県南種子町(オンライン取材画面から)

  • H3は人工衛星や物資補給機を搭載してきたが、探査機は初めてだった。地上の通信局から見えない位置を長く飛行するため、米国のデータ中継衛星を初めて本格利用し、機体と管制との間の通信を維持した。

    JAXAの有田誠プロジェクトマネージャは「今までのH3の中で、最長のミッション(飛行時間)だった。(初号機と8号機の失敗を受け)原因究明と対策に当たる間、MMXのことが頭のかなりのところにあった。ロケットの1桁号機は失敗や不具合が多いと言われるが、10号機という2桁の節目には一人前にならねばならない。3機連続成功もあり、努力が反映されホッとしている」と話した。

    政府の宇宙基本計画工程表(昨年12月改訂)によると、今年度はH3により、さらに国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ補給機「HTV-X」2号機などの打ち上げを計画している。

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    H3ロケット10号機の飛行経路。種子島を出発し、第2段機体の長い慣性飛行の間に太平洋、大西洋上空を経るなどし、アフリカ上空の高度590キロ付近でMMXを分離した(JAXA提供)

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