Bluetoothを搭載したデバイスは、2026年の出荷台数が60億台に迫る見通しだという。同規格の策定と普及を担うBluetooth Special Interest Group(SIG)は、2026年10月15日、日本法人「Bluetooth SIG Japan合同会社」の設立と、日本のメンバー企業向けの組織「Japan Member Group(JMG)」の発足を発表した。
累計出荷台数は650億台、標準を支えるコミュニティの規模
本発表会では、まずCEOのネヴィル・マイヤーズ(Neville Meijers)氏が登壇した。同氏は、1998年にEricsson、IBM、Intel、Nokia、Toshibaの5社が低コストの近距離無線という構想を掲げたことが原点だと振り返った。グローバルな標準は一社では作れないという考えが、現在まで続くBluetooth SIGの土台になっているという。標準は人と企業が協働して形づくり、その標準が製品や市場、さらには産業を形づくっていくというのが、同氏の描く循環である。
実際の数字は規模の大きさを物語る。Bluetooth対応デバイスの累計出荷台数は650億台に達しており、これは世界人口1人当たり約8台に相当するという。2026年の年間出荷台数は60億台近くとなる見込みで、2030年には80億台に及ぶと予想されている。
マイヤーズ氏は、この規模は一社や一地域では実現できないと強調した上で、成長を支える原動力として「共に築く」「世界へ届ける」「地域に根ざす」の3点を挙げた。最後の「地域に根ざす」を具体化する第一歩が、今回の日本法人である。
日本法人とJMGが担う役割
Bluetooth SIG Japanの日本代表に就任した黒川剣(くろかわ けん)氏は、DVDやBlu-ray Discの普及、音楽配信やゲーム企業の日本代表を経て、30年にわたりコンテンツとデバイスのエコシステム作りに携わってきた。幼少期に渡米して日米の企業をつなぐ仕事を続けてきた同氏は、キャリアを貫くモットーを「つなぐ」と語る。
黒川氏によると、Bluetooth SIGは4万3,000社を超えるメンバー企業で構成され、2,000人以上が23のワーキンググループに分かれて活動している。直近3年間だけで、98もの新たな仕様を世に送り出してきた。
アジア太平洋地域では15,000以上のメンバー企業数を抱えており、日本は米国、中国に次ぐ世界第3位の加盟社数を誇るという。日本への拠点設置は、この構成を踏まえた判断となる。Bluetooth SIGは今後、メンバー間のコラボレーションの推進、新しいユースケースの創出、ロードマップへの意見の反映という3つの取り組みを日本で進めるとしている。
日本のメンバー企業向けの組織として新しく発足したJMGの狙いにも注目したい。Bluetooth SIGの会議や仕様書の主な使用言語は英語で、ワーキンググループの会合も対面で各国を回って開かれるため、日本企業にとっては参加の負担が大きい。
JMGには、日本語で議論できる場を設けて参加のハードルを下げ、集めた意見や市場ニーズを各ワーキンググループへ伝え、ロードマップに反映させる意図があるという。日本からの入力がなければ日本のニーズには応えられないというのが、黒川氏の問題意識である。同氏は、日本の課題をJMGで解決し、その成功例をBluetooth SIG全体に共有していく構想も語った。
ロードマップに並ぶ新機能群
黒川氏は、直近で実社会への影響が大きい技術として複数の機能を挙げた。Auracastは、1つのオーディオストリームを無制限の対応デバイスで受信できる機能となる。デバイスネットワーキングは、スマートビルの照明や空調、温度管理といった領域に向く。電子棚札(ESL)にBluetoothを用いれば、小売店舗で価格を変更する際も、システムから一括で全棚札に反映できる。
セキュアなチャネルサウンディングは、スマートフォンを用いたデジタルキーのほか、探し物用タグ、物流や工場での人や物の位置把握に向く機能だ。従来より正確に位置を確定できる点が特徴で、自動車や産業向けの次世代デジタルキーとして展開が進む。
通信速度の向上を狙うHDT(High Data Throughput)は最大7.5Mbpsを目指しており、ゲームやXRのコントローラー、キーボードやマウスといったアクセサリーの進化を後押しする。Bluetooth信号でIPパケットを扱うIPリンクも、ホームネットワークへの展開が期待されている。
2027年には、ハイレゾ・ロスレスオーディオの標準仕様が提供される予定だ。同年のCESでは、プレミアムなワイヤレスオーディオも発表するという。また、現在Bluetoothが使用している2.4GHz帯が混み合っている点にも触れ、5GHz帯および6GHz帯の高周波数帯域への拡張を示唆した。
見えない標準を、見える「つながり」へ
黒川氏は日本には解決すべき課題が数多くあると述べた上で、Bluetoothのロゴマークを、目に見えない標準規格を証明する目に見えるシンボルだと表現した。世界のどこで作られた製品でも確実につながるという28年間の信頼は、メンバーコミュニティが築き、守ってきたものだという。
規格の策定は海外で進むものと捉えがちだが、日本の現場の声を直接届ける経路が整ったことで、国内企業が仕様策定に関与する余地は広がった。黒川氏が掲げたミッションは、「つないで、つないで、つないで」いくことである。ハイレゾ・ロスレスオーディオをはじめとする新たな技術の具体化が進む中で、国内のメーカーや開発者がJMGやワーキンググループを通じて日本の声を届ける意義は、決して小さくないだろう。








